331 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/06/28(土) 14:34:03


 何故、王たる己がこのような目に遭わねばならぬ?
 何故、王たる己に手ずから処刑される幸運を喜ばぬ?
 全ては度し難い程の理不尽。直後、彼の心に到来したものは
 許さざる邪道に対する憤怒の炎――――であったのは当然であったかもしれない。
 だが、そのすぐ直後、二度目に到来したものは先程の陰鬱とした怒りと趣を異にし、
 涼気を含んだ緑風のような、それまでの心地を丸ごと換気する爽快な閃きであった。

「……そうだ。良いことを思い付いたぞ。
 おい、時に貴様は『黒魔法』『白魔法』とやらを知っているか?」

 後ろで控えていた大男が、余程この青年に似つかわしくない単語を耳にしてか、
 やや怪訝な面持ちで英雄王の顔を覗く。

「知っているには知っているが。一体全体、それがどうしたってんだよ?」
「では次いで尋ねるが、それを覚えるにはどうすればいいか知っているか?」
「無視かよ。いや、覚えたいんだったら魔法のスクロールを読めば、
 余程魔道士の素質がない限りは覚えることが出来る筈だが……」
「ほう。ほうほうほう」

 と、何を思ってか、唐突に服を脱ぎ始める英雄王。
 スミで重さを増した上着を洞穴の岩場に脱ぎ捨て、次に黒く変色したシャツ、ズボン、
 最後には股間を縛るパンツに手をかけ、躊躇なく脱ごうと指を引っ張る始末。
 露となった肌は男と思えぬ美しさに映え、
 女のように白く澄み、それでいて筋肉による造形美も抜かりなく、
 例え性別を同じくする者であろうとも煩悩を掻き立てられる艶やかさが存在した。
 緩い曲線を描く背筋に相反し、逞しい骨格が凹凸となって外面に表現されている。
 途端、それまで呆けながら見守っていた大男であったが、
 青年がパンツ一丁の姿になってようやく状況を把握したらしく、
 顔を熟した苺のように赤らめ、平然と脱衣する英雄王に向けて抗議を投げかけた。

「ちょ、ちょ、待てよ! 何いきなり脱いでんだよ! 変態かよ、おめえはっ!」
「……無礼な。考えてもみよ。こんな穢れた服など、もう着れるか。
 魔法といえば、ウィンダスが魔法国家と名高かったな。
 衣服はそこで調達するとして、そこまでは何も纏わずに全裸で向かうとしよう。
 ……我が纏うに値する服があれば良いが……」
「……!!」

 何ということであろう。
 今、彼は何と言った? 全裸で、向かう……?
 なるほど。纏う物がない以上、それは致し方ないことかもしれない。
 だが、ここオンゾゾからウィンダスまで、ゆうに数十キロは離れているが、
 まさかこの青年はその距離を全て全裸で向かうというのか? 人目を気にせずに?
 ……何という破廉恥。大男の脳内にビジョンとして浮かぶのは、
 数分後に響き渡るであろう婦女子による阿鼻叫喚絵図に、
 その変態の隣で申し訳なさそうに顔を伏せる自らの痴態。
 まさにその光景を想像するや否や、大男の頭は脳漿が沸騰しそうなほどに発熱した。

「……頼む。布くらい貸してやるから、全裸だけは勘弁してくれ」
「ふむ。我の肢体を眺めるなど、民草にはこれ以上ない栄であるのだが」

 渡された赤布を肩にかけ、さながら舞台役者の如く優美な様相が完成した。
 しかし、英雄王にとっては赤一色というのが些か不平のようであり、
 目にする限りそこそこ良い生地であるというのに、いかにも暴君らしく、
 胸中に潜ませた不満を外へ放つのに憚らない。

「他の色はないのか? 金糸の布は? 言うまでもないが、真正の純金を用いた物だぞ」
「ねえよ、んなもん。赤で我慢してくれ」
「ちっ……」
「っと、どこへ行く?」
「体を清める。ここが浜辺であったことが幸いしたわ。少々磯臭くなるが、この際仕方あるまい」

 脱ぎかけのパンツによって尻を半分露出させたまま、
 英雄王は呆然とする大男に背を向け、洞穴の出口へ向かって堂々と歩を進ませる。
 勿論、洞穴には政府により危険指定された故の魔物達が蔓延っていたが、
 誰も英雄王に近寄ろうとする者はいなかった。

「そうだ。その前に聞きたいんだが、魔法に興味あるってお前、どんな魔法を覚えたいんだ?
 一概に魔法ったって、たくさん種類があるぞ?」
「ふん? そうだな……」



Ⅰ:攻撃こそ至高よ
Ⅱ:安寧を齎す癒しこそ王たる者の有するべき器か……
Ⅲ:攻撃であろうと癒しであろうと全てを駆使するのが王である!
Ⅳ:便利な臣下が欲しいな
Ⅴ:そういう貴様は何が使えるのだ?


投票結果


Ⅰ:0
Ⅱ:0
Ⅲ:0
Ⅳ:5
Ⅴ:0

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最終更新:2008年10月07日 21:46