339 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/06/28(土) 20:30:35
――Interlude
天の塔。
広大な土地を有するウィンダス連邦の中心にそびえる星の大樹内にある神殿で、
ウィンダスの政治、行政で最も重要な施設。
その外観はさながら一本の大樹でしかなく、ウィンダス石の区に屹立する威容は見る者を圧倒し、
神秘と自然と学問を旨とするウィンダスの民全てのシンボルといえた。
天晶暦301年星の神子シャンリリが天文観察の為に建造を命じ、328年に落成。
現在の様に星の大樹に覆われる様になったのは360年以降のことである。
地下の根に近い場所ではカーディアンたちの体となる星の木の実を栽培している『星の木の畑』があり、
良質な水が流れる大樹内でしか生成出来ない重要な役割を担っている。
そして、その頂にはウィンダス連邦を治める最高指導者、星の神子が住む天文泉があり、
星見による彼女の占いがウィンダスの未来を左右する。
「アプルル、貴女も理解してる筈。召喚魔法はとても危険なもの。人が手を出してはならない領域……。
いくら口の院院長といえど、許可なくホルトト遺跡に手を加えて……
その暴挙は、もはや見過ごすことは出来ません」
消え入りそうな弱々しい声が、しかし荘厳な、
有無を言わせぬ響きを含ませて狭い室内へと木霊する。
そして、その裁断を受け、確かに動揺する小さな気配。
裁く者と裁かれる者。両者の立場は解り易いほどに区別されていた。
「でも神子様! 二十年前の大戦の折、
カラハバルハ様の召喚魔法のおかげでウィンダスが助かったのは事実でしょう?
確かに、召喚はとても危険な魔法だと思います!
だけど、お兄ちゃんが言うように、もしその魔法を使いこなせれば……!」
「過分なる力は争いを生み、多くの過ちを引き起こします。
過ぎたる力は過ぎたる望みを呼び、国を滅ぼすに到るのです。
危険な思想を持つ者を、野放しにはできません。
アプルル……貴女も五院院長の一人であるならば、それがウィンダスの為と割り切りなさい」
星の神子はウィンダスにおける最高指導者……否、ウィンダス連邦”そのもの”である現人神。
院長という肩書きこそあれど、神の決定を覆すには、アプルルと呼ばれる女性はあまりにも力なく、
神の加護から逸脱するにはあまりに小さく、国家に逆らうことなど出来よう筈もなかった。
「……でも、だからって酷いです、神子様。いくらなんでも、お兄ちゃんを闇牢に放り込むだなんて……。
お兄ちゃんは、ウィンダスを守る為に召喚を……」
「貴女のその瞳に映るは、戦いに燃える炎。
……けれど、今のウィンダスには、二十年前の大戦のように、獣人と互角に戦う力はないのです」
ぴしゃりと言い放つ冷たい意思。
そして、これが最後だという意思表示に星の神子はアプルルに背を向け、
それきり一言も言葉を発そうとはしなかった。
話し合いの余地など与えぬ一方的な決定。
碌な事情も説明されずに、肉親を牢に繋いだままなど、到底、目の前の少女が納得出来る訳がなく……
「でも……でも……私にとっては、たった一人のお兄ちゃんなんです!」
そう言い残し、耳に残るは激しい憤りを含ませた鋭い足音。
開け放たれた扉からは冷たい風が吹き抜け、
それが尚のことやるせなさを露呈し、微動だにしない星の神子の髪を静かに揺らす。
一見稚拙とも取れる発散を行うことでしか、少女は己のやるせなさを伝えることが許されない。
「カラハバルハ……」
呟かれた名前は果てなく遠い何処かに縫い付けられたままで。
二十年前、世界を震わせた水晶大戦後、ウィンダスが獣人であるヤグード族と交わした停戦条例は、
今や何時反故にされてもおかしくない位までに綻んでいた。
――Interlude out.
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最終更新:2008年10月07日 21:47