346 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/06/29(日) 01:00:41


「ふむ?」
「…………」

 この状況をどう表せば良いものか。
 何をするでもなく、つぶらな瞳で己を見つめてくる怪生物に、
 こちらもどうしたものやら、正体不明の生物への処断を逡巡しながら、
 沐浴している真っ最中の英雄王。
 ただ両者の間を小波の音ばかりが流れ、多分に塩を含んだ風が変わり栄えなく吹き荒むばかりで、
 欠片も気の利いたアクシデントなど起こってくれない。
 当の生物の容姿はといえば、サッカーボールほどの大きさをした丸っこい輪郭に、
 白い下地に上半分を茶色く染めあげ、虎のように黒い点がまばらに描かれており、
 特に、黒一色に占められた瞳が理由なく”彼”の無垢さを印象付けている。
 本来ならば、王の尊顔を無闇に視姦するような輩など問答無用で処刑するところなのだが、
 怪生物の容姿ときたら、害意の一切感じられない愛らしいものであり、
 それが善悪の入る余地がない自然のもの故に、いかに暴虐の王といえど無用の殺戮は憚られた。
 ――――始まりは、オンゾゾの前の浜辺で、あの忌々しいタコに浴びせられた穢れを丹念に落とし、
 ようやく全ての汚れが落ち切ったかと確信し始めた頃合だった。
 何気なく視線を寄越した先に、波の慣性に抗えず、ぷかぷかと呑気に漂流していく最中の怪生物の姿。
 別段それで行動を沸きたてられるようなことにはならず、
 ただ意味もなく流れる様を凝視していた英雄王だったが……だが、ここで一つの奇怪な出来事が発生した。
 ただ流れに身を任せていた怪生物が、視界を横切る英雄王の威容に何かを見出してか否か、
 突然体をうねりだし、海面から浜辺へと身を乗り上げたのだ。
 果たしてこれはどうしたことか。これには英雄王もやや興味を惹かれ怪生物の動きに注視していたのだが、
 ”彼”のすることといえば、これといってすることもなく、意味なく自分を見つめ続けるばかり。

「……貴様は、いったい何だ?」

 問うてみたところで返事が寄越される訳もない。
 ましてや訊ねた自分が尚更馬鹿らしく思え、つまらぬ余興であったと顔を背けた瞬間――――
 次なる異変が、今度はそれとはっきり判る程度に起きた。

「――――む?」

 愛らしい容姿のどこにそれほどの野生を隠していたのか。
 ”彼”の丸い体は丁度半ばまで裂け――――
 否、体積の半分を占める口腔が後部の蝶番を支点に開き、
 中から涎に塗れた紅く丸い物体がせり上がってきた。

「貴様……?」

 内から湧き上がる警戒心をよそに、やがてボトリと砂に落とされる紅の鉱石。
 吐き出し終えた当の怪生物は、大仕事を達成した疲労からか、
 しばらく放心するかのように止まっていたのだが、
 自分の役目の完了を悟ってか、何事もなく海へと還っていった。
 さて、場に残されたものといえば、困惑する英雄王に、
 僅かに砂にめり込み、夜明けの朝日を朱の線に変えて反射する何かの物体。

「はて、天が我を試しているというのか? 見たところ、これは真の宝玉……それもルビーか?
 ルビーの輝き、掌に収まるか否かの大きさ。まさか罠ではあるまいが、はてさて、どうしたものやら?」



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最終更新:2008年10月07日 21:47