382 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/07/06(日) 23:48:02
――――果たして奴をこのまま見逃して良いものか?
物欲への逡巡が迸る瞬間、正体不明の生物の造詣は英雄王を前にして抗い難き欲求と相成り、
幾千幾万の欲望の触手が彼の頭蓋に絡みついて引きずり込もうと離さない。
当然だ。彼は高徳の王ではなく、己の悦を躊躇うことなく飲み干し、
あらゆる贅を抱き他を嘲笑う欲得の王。
そのような暴君が自身を抑えるなどという概念を備えていよう筈もなく、
彼は内より出ずる欲望のままに足を前へ突き出し――――
だが、万物へ注ぐ興味の裏にあって尚涼しげな赤眼の青年。
「ふん……下らんな」
よもや人間を前にしたかの如く冷たく言い放たれた言葉に、
ウサギは背けた体から一度だけ後ろを振り向き、
丸い目をそのままに、改めて脱兎となり彼方へ駆け抜けて行く。
そしてそのまま草むらへと頭を沈め、とうとう痩せ細った体は欠片の糸口も残さず霞へと消えた。
「ん? 何か言ったか?」
「何も」
地図を広げたまま相も変わらず能天気に訊ねてくる大男を、
やや素っ気無く――というより、常時と遜色ない態度で突き放す英雄王。
その様子を目にして憂鬱気味に溜息をこぼす大男であったが、
その態度が一時の不機嫌からなるものではなく、
無愛想こそが彼そのものであることに気付き、詰問は無意味と断じて家捜しの作業へと戻った。
しかし……。英雄王の意識は、再度件のウサギへと戻る。
彼へ向ける仕草は、まるで英雄王の言質を理解しているかのようにぎこちなく、
そして人の意思が宿ったかのように不自然であり、生々しい。
(魔法国家ウィンダス。なるほど、仮にも『魔法』を名乗るからには、使い魔程度心得ているということか。
穏やかさだけが取り柄の国と思っていたが……これは中々に我を楽しませてくれるらしい)
湧き上がる思いは底なしに滲む悦楽への渇望。
喩え己の身を危地に晒そうとも、それで飽くほどの退屈を納めることが出来るのならば、
褒美として数多の財をくれてやる価値がある。
歪む口元は止める術すら持たず。新たなオモチャを見つけた彼は、
これより体験するであろう波乱に僅かばかりの期待を込めて、口角より溢れ出る唾を舐め取った。
――――だが、この時点での彼が、後に出遭うであろう神秘の規模と、
ウィンダスという国が抱える忌まわしい歴史を予め知っていたとすれば、
同じように哂える余裕が得られたであろうか。
決して今の彼と無関係ではない。
まがりなりにも力ある霊獣――召喚獣と関わりを持ってしまった以上、
繋がれた縁は断ち難い程に片側と強く結ばれ、解くことなど容易ではない。
「……どうした? さっきからずっと考え込んで。悩み事か?」
「む……」
顔を上げた先には、怪訝そうに眉根を寄せる大男の丸顔。
「ふん。何でもあらぬわ。
そんなことより貴様……その醜い面を我の傍に寄せるとは何事か。猛省せよ」
「ひでえ言い様だな。ちょっと傷つくぜ」
「何の用だ」
「見てみな。ようやくシャントット博士の家に着いたぜ」
指図されるのは癪であったものの、言われて前を向いた先には、
厚いレンガを積んで建てられ、左右に赤い金縁の布がかけられた、石造りの小さな家が佇んでいた。
赤布の端には星の模様が散りばめられ、
長く伸ばされた先端には国家の紋章らしき、星の実った樹が描かれている。
過剰なまでの国旗による装飾を見受けるに、恐らくは、国の役職に携わる者の証ということか。
「待たせおってからに。
どれ、早速『召喚』とやらの話を聞かせて貰おうでは…………おい、貴様。何をしている?」
「あん?」
何気なく隣を向けば、躊躇いなくズボンを脱ぐ大男の姿。
「貴様……よもや変態か?」
「失礼な。俺が変態かどうかを断じる前に……これを見な」
地に落ちるズボンと同時に、英雄王の目に突きつけられる究極の一。
もっこり膨らむ股間を覆う上品なレースで彩られた白い輝きは、彼もよく愛用する秘匿の輝きである。
「ブリーフ……だな」
「違う! これはな、”白サブリガ”だ。レアものだ! 滅多に手に入らない物だ!」
「ほ、ほう? なかなか洒落た物を着けておるではないか」
「おう。実を言うとな、俺はサブリガを愛でる会……通称サブリメンの会員でな。
サブリガの素晴らしさを、是非シャントット博士にも知ってもらおうと思ってだな」
ちなみにここで『サブリガ』を知らない人のために補足すると、
サブリガとはパンツ姿で太ももが露出する金属製サブリガと、
スパッツの様にピッチリと脚を覆った骨革製サブリガの2タイプが存在する。
多くの場合、サブリガとは前者の太ももが露出するタイプを指す。
買い揃える際のコストが廉価で、そのフェティッシュな形状も相まって、人気装備のうちの一つ。
『ぱんつ』『短パン』『ブルマ』等、呼び名は色々で、
♀キャラが太ももを露出するのに着用したり、♂キャラがウケ狙いで着用したりと、活用が幅広い。
さて、大男が何かを口にするたびに、引き締められた逞しい脚線がピクピクと痙攣し、
その都度縁を黒くコーティングされたサブリガの光沢が陽光を反射し、
英雄王の目を釘付けにして離さない。
縁の部分に残されたラインが最後の良心。
これで男だけの装備でないという所に、全年齢の限界へと挑戦する心意気を窺わせてくれる。
「お、おい。その白サブリガとやら……もう一つ余ってはおらぬのか?」
「へへ、心配するなよ。ちゃんとお前用にとっといてあるから! けど、その前に……」
三白眼が睨んだ先には、先程まで石造りの静謐さを秘めて構えられていたシャントット邸。
「ちょっくら突撃して来るぜ! ごめんくださーーーーい!!」
けたたましい音を立てて扉を蹴破り、加えてそのままズボンを着用せずに中へと入って行く大男。
「サブリメンの者ですが、サブリガいかがっすかーー!
サブリガいかがっすかーーーー!! サブリガーーーー!!」
「……っ!」
「サブリガーーーー! サブリ、ガ――――ッ!?」
開け放たれた扉から蛇のうねりとなって噴射していく炎の渦。
熱線が肌の表層から水分を奪って過ぎ去った後、
次いで、カラスより黒い墨となった人型が、
一人安全地帯で待機していた英雄王の足元へと転がり込んだ。
「あら」
炎が吹き抜けた後に、焦げた地表に優しく響く、誰かの面食らった声。
何事かと見遣った先には、それこそ幼児に等しき体格をした、黒い衣装に身を包む愛らしい少女の姿。
「貴様?」
「貴方?」
奇しくも。
数ある英雄達の頂点に立つ男と世界一の魔力を誇る魔道士。
形の異なる最強と最強の邂逅が、本人達の意思に関わらず、ここに叶った。
384 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/07/06(日) 23:50:14
ちょっと皆さんにお願いが。
今書いている我様パートですが……当初考えていたより大幅に長くなりそうなので、
先にセイバーパートを終わらせてしまっても構いませんか?
骨格は出来上がっているので、恐らくすぐ終わるとは思うのですが、どうでしょう?
Ⅲ:はい
Ⅳ:いいえ
投票結果
Ⅲ:5
Ⅳ:1
最終更新:2008年10月07日 21:48