399 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/07/08(火) 21:45:53



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「私に出来ることはない?」

 鼠の巣より一層暗い伽藍の中、彼女は静かにそう言った。
 蓄積された疲労が尚も頭蓋を重く縛りつけ、
 満足に顔を眺めることなんてかなわなかったけれど……
 でも、あの燦然とした桃色の髪は、あの逞しく伸びた手足は、忘れよう筈がない。

「貴女の助けになりたいの」
「どうして? 貴女が私を助ける理由なんてない。だって、貴女は私達にとって……」
「――――私に出来ることは?」
「…………」

 有無を言わさず寄越した言葉は反論を許さぬ迫力に包まれ、
 水の如く透明に澄んだ瞳が、二度目はないと静かに告げていた。
 罠ではないという保障はない……。
 だが、彼女の覚悟を僅かでも感じ取った以上、無碍に扱うのは、
 喩えこのような関係といえども失礼に値するのではないか。
 緊張から生じる唾を一息に飲み干し、
 こちらを射抜く視線に負けじと力を込め、上方に据えられた彼女の顔を睨み返す。

「なら、一つだけ……。これを――――」

 体内に残っていた僅かな魔力を集中させ、胸部に触れた掌から淡い光の粒子を生成させていく。
 蓄積年月、判明。憑依経験、共感完了。製作技術、解明。
 構成材質、解明。基本骨子、解明。創造理念、鑑定完了
 慎重に、自身の中身を一つ一つ冷静に読み取り、生み出すイメージの設計図を脳内に描く。
 彼以上の投影だなんて望むべくもないが、
 せめて体内に埋められた物を抜き取るくらいには、私にだって見込みはある筈だ。
 やがて腹部から徐々に取り出されていく青と金で彩られた硬い物質。
 全霊をかけた集中の甲斐あってか、奇跡の顕現はここに無事完了した。

「――――これを、ある人の元へと届けて欲しいの」

 狼狽することなく佇む姿に微かな肩透かしを覚えながらも、
 己の内から生まれた物体を、彼女の柔らかな手に向けてそっと手渡す。

「お願い。何があろうとも、間違えることなく、確実にその人の手元に届けて欲しい。
 だから、これより告げる者の名を、決して忘れないで」

 桃色の頭部が静かに揺れ、厳かに醸す雰囲気が彼女の責任感を程度を如実に表していた。
 そして、それを最後まで見届けてから、
 聞き漏らさぬようはっきりと私が口にした名は――――


The 2nd act becomes interrupted.



Ⅰ:セイバー
Ⅱ:衛宮士郎


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最終更新:2008年10月07日 21:48