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427 :もしも遠野志貴が引き篭もりだったら ◆4OkSzTyQhY:2008/07/11(金) 19:48:18


 情報を得たいのならばいくらでもやりようはあったのだ――胸中で、繰り返す。
 彼の実家へ忍び込んで家捜しをしてもいいし、そもそも魔術師には記憶を覗き見するというえげつない手段がある。
 彼女のスキルがあれば、遠野志貴のプライバシーなどいくらでも暴くことが出来るのだ。彼女にそれをしない理由は――
「――ない、と言い切れれば楽だったんだですが」
 高所からの俯瞰。手の届かない所をフラフラと歩いているためか、先ほどよりも危うい印象を受ける『彼』の姿。
 そうだ、情報を得たいのならばもっと効率のいいやり方はあった――ほんの数分前までは。
 そうして眺めている内に彼の姿が遠ざかり、そして曲がり角に消える。
 いまさら追って記憶を閲覧するのは、別段難しくはないが少々間の抜けた選択だろう。
 シエルは溜息をひとつ吐いた。
 脳裏にいまだ焼きついているのは先ほどの拒絶。遠野志貴が咄嗟に自分の手を振り払った感触。
 魔術で心理層を弄っていた途中だったためか、その時の彼の感情が嫌になるほどこちら側に伝わっていた。
 張り詰める心筋。滑る汗。震える骨。
 それはどうしようもないほどの恐怖のイメージだ。あの少年は、人と触れることを異常なまでに怖がっている。
 臆病者、といって片付けてしまえばそれでおしまいだっただろう。
 だが、シエルにはそれができなかった。それが一言では片付けられないものなのだと知っていた。
 日に日に薄くなっていく自意識と、それに反比例して増殖する暴虐の囁き。
 それに何日も何日も脅え続けて――そして結局、恐れていた通りになってしまった。して、しまった。
 ――魔術という異端の業をもってしても、人間の心理・精神構造は人の手を加えるにはデリケートすぎる。
 弄れば、そこには必ず何らかのズレが生じてしまう。先ほど、遠野志貴に事前にかけておいた暗示が副次作用を生んだように。
 最悪、発狂するか、廃人になるか、果てまた――
 いいや、これも言い訳か。
 サンピンならばともかく、彼女ほどの魔術の腕があればよほどのことがない限りそんな致命的なことにはなるまい。
 そう。結局、これはただのつまらない感傷に過ぎないのだ。
 あの少年と自分は違う。同じような恐怖を抱えて、同じように閉じこもっているというだけで、あの時の自分とは違うはずだ。
「遠野志貴は、何かを隠している――隠したがっている。それは間違いありません」
 だけど、それでも。
 暴かれなくない秘密を抱えているのなら。
「……少しだけ」
 そう。ほんの少しだけ。
 彼が幸福であろうとすることを邪魔するのは、悪い気がした。
「……まあ、彼がロアでないことは明らかな訳ですし」
 再び言い訳めいたものを口にしながら、シエルは帰路についた。
 明日からは、再び市街の探索に力を入れることにしよう。
 ――ちなみに遠野志貴に付き合って数時間を費やしたため、彼女がホテル崩壊のニュースを見るのは明朝である。


――interlude out――

◇◇◇

 その晩、遠野志貴は珍しく夢を見た。
 遠野の家にいた頃の思い出を語ったからだろうか、それはとても懐かしい思い出で――
 だけど二度と手に入ることのない、そんな夢だった。

鬼:引っ込み思案な妹
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窓:窓辺の彼女


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最終更新:2008年10月07日 21:55