252 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/06/14(土) 19:04:38
桜はいつも誰かに守られてきた。
時臣、葵。悲しそうな目をした男の人。そして、もう居ない桜の姉。
綺礼にすら、桜は守られてきたのだろう。
桜は自分が子供だと実感していた。
覚悟もなく、戸惑い、怯え、何を為すことも出来ずにいた。
守ってくれる人が居たことは、恵まれていたとしか言い得なかった。
そして――そんな幸運がいつまでも続くとは思えなかった。
「……っ」
揺れる船上。
桜は一歩で踏みとどまり、二歩で踵を返した。
「何を……!」
桜のサーヴァントが驚きの声を上げた。
アサシンは地を這うようにして、桜へと駆けていく。
「Aufsteh(起ち出でよ)!」
桜の呪文に応じ、『影』が現れる。
『影』がアサシンへと立ち向かった。
アサシンとの距離が見る間に縮まっていく。
「Schabe sein Leben(其を抉れ)!」
『影』の腕が鷹の爪のようにアサシンへ襲い掛かった。
抜群のタイミングだった。
殺った。綺礼とて避けきれまい。桜はそう思った。
だが、『影』が抉ったのはアサシンの外套のみ。
アサシンは桜の真横に居た。視界の外でも、桜にはそれがはっきりと判った。
「――あ」
終わった。これで遠坂桜の生は幕を閉じる。
アサシンの攻撃を避ける術は無い。
桜のサーヴァントの剣には遠すぎる。令呪を起動する猶予すらない。
何故、引き返したのだ。自問した。
アサシンに敵う筈も無かったというのに。
嫌な予感がしたからか。疑念を確かめたかったのか。それとも、逃げたくなかったのか。
答えを出す時間は無かった。
桜は諦念と共に瞼を引き絞った。
暗闇。
これより深い世界に引き込まれる。
――――死にたくなかった。
生きたかった。
何故なのか。
何をしたかったというのだろう。
そこまで考えたところで、桜の思考は停止した。
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最終更新:2008年10月07日 21:59