555 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/07/30(水) 14:54:38
風。
川の流れに沿って、吹き下ろされている。
あたかも、尾根か隘路のようだ。
白馬は空高く、真正面からそれを踏破する。
慎二は不景気な顔で、その背に跨っていた。
「くそっ」
吐き捨てた声が聞こえたのか、ライダーが振り返った。
「なんだ、湿った顔をして。貴様、意外と陰気だな」
「フン……そりゃあ、おまえは喜んでいられるだろうさ。
あのサーヴァントのステータス、視てないもんな」
「バーサーカーやセイバーのような威圧感は感じなかった。
恐らく、平均すればセカンドランク程度のステータスだろう?」
「ハッ。はっきりセカンドランク以下のクセに、偉そうなこと――」
殺気の篭ったライダーの視線に、慎二は口を噤んだ。
「それで、どんなステータスだったのか?」
「基礎能力の平均は、セカンドランクより少し低いぐらい。大体は当たってるよ。
耐久が高めで、敏捷は低い。あと、幸運も高くないね」
盾のクラスとしては、妥当な能力だった。
ライダーが意地の悪い顔で笑った。
「なるほどな。基礎能力に問題はない。
ということは、宝具が怖気づく要因か。Bランクでも持っていたか」
「……いや。A+だよ、あのサーヴァントの宝具」
「なに?」
ライダーが、表情を曇らせた。
「キャスターとセイバーがCランク、バーサーカーだってAランクだぞ。
おまえだって、二つ持ってるにしてもCランクなんだ」
「……私の見た『盾』の宝具はAランク以上とは思えなかった。
ならば、奴は少なくとも二つ以上の宝具を持っているということか」
「おまけに、片方はA+だ」
「そうなると、かなりの英雄でなければならん。
しかし、それにしては威圧感が無かったのは何故だ?」
「知るかよ」
慎二は泣きたい気分だった。
覚悟していたとはいえ、周囲はライダーよりも強いサーヴァントばかりだ。
せめてライダーが本来の力を発揮できれば、とは思う。
だが、それは慎二がマスターでなくなることを意味する。
それでは、駄目なのだ。
「ま、仕方があるまい。どうにかするしか無かろう」
「……気軽に言うね。方法があるのかよ」
「探すさ。どの道、戦いを降りるつもりはないのだ。
約束は守らねばならん」
ライダーの声が少しだけ、硬くなったような気がした。
「だが、それは私の話だ。貴様がマスターを辞めたいなら、止めはせん」
「……誰が戦わないって言ったんだよ。戦うに……決まってるだろ」
慎二は、あえて強がった。そうしないでは居られなかった。
諦めることは出来ない。一縷の望みに賭す以外にないのだ。
もしも――その願いが本物ならば。
「大体、さ。今度のことだって収穫なんだ。
イレギュラーが居るってことは、アーチャーかランサーが居ないってことなんだから」
慎二は腕組みをした。
ライダーは白馬の機動力を恃みとする。
遠距離射撃可能なアーチャーと単独での機動力が高いランサー。
どちらかが居ないという事実は有利に働く。そう考えるのは、無理ではない。
「三騎士の一角が不在。残るセイバーは僕らと組んでる。
別に悪く考えることなんて何も無いさ」
慎二は鼻息荒く、言った。
ライダーが手綱を手に、前を見据える。顔は見えないが、笑っているように見えた。
「そういう事だな。あまり疑ってばかりでは前に進めん」
白馬は走る。彼女の風を踏み締めて。
眼下の未遠川に船が見えた。巨大では無いが、飾り気のある船だった。
大きな流れに逆らって、その船もまた、上流を目指していた。
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最終更新:2008年10月08日 17:16