766 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/08/18(月) 19:19:37
時は夜半。
港では六体のサーヴァントによる戦いが行われた。
キャスター。
ランサー。
セイバー。
アサシン。
バーサーカー。
そして桜のサーヴァント。
今次の七騎の中、ライダーを除いた全ての英霊が港に集い、相争ったのだ。
抜け落ちたのアサシン。
しかし未だ五体は海辺で虎視眈々と敵の首を狙い得る。
現在の小康状態はクレーンの転倒とそれに伴う破壊のためだ。
官憲を避けて彼らは退いたが、それも一時のことに過ぎない。
遠からず、彼らはまた衝突するだろう。
なれば、無残な肉塊と成り果てたアサシンのマスターの再現はあり得る事態。
どのマスターも、物言わぬ屍にならぬと言えず。
あるいは、この夜が聖杯戦争決着の時となろうとおかしくはないのだ。
故に、セラの顔に浮かぶ憂鬱も、当然と言えば当然のものだった。
「お嬢様……」
物憂いに濡れた睫毛がセラの瞳を覆う。
彼方の空、彼女の届かぬ場所で戦う主人を想って。
彼女を包むメイド服の白さが暗闇に染まり、灰色にも青にも見えた。
「セラ。イリヤが心配?」
同じくメイド服に身を包んだリズが、セラの顔を覗き込む。
「当然です。ですが、私たちに出来ることはありません。
仮にバーサーカーを倒す敵が存在したとして、私たちに何か出来ると思いますか?」
「ん……ムリ」
「その通りです。ですから、私たちは私たちに出来ることで、お嬢様をお助けします」
「だから、泥棒?」
リズの言葉に、忍び足で進むメイド型危険物が硬直した。
セラは咳払いをした。
「リーゼリット。よいですか、これは盗賊行為などではありません。
私たちを待ち受けているのは、憎きエミヤの本拠です。
これは敵マスター、それも怨敵の情報を探るという大事な役目なのですよ?
だというのに泥棒などと……そのような心構えでは困ります」
「ウソ。セラ、このまえ鍵拾ったから入ってみたいだけ」
あまりの的確さに、セラの顔から火が吹いた。
表情に乏しいリズの顔に微笑が浮かんでいる。
「リ、リーゼリット!」
「普通の人間の家、入ってみたいんでしょ?」
「わた、私はお嬢様を助けるために、アインツベルンに傅く者として!」
「うん。それも大事。
でも、少しわくわく」
「……ええい、好きに思っていなさい!
私は純粋に、お嬢様のためだけに働きます!」
セラの張り上げた声に、周囲の家に灯りがちらほらと点き始める。
夜の住宅地に白基調のメイド服は甚だしく不釣合いである。
物騒な昨今、公僕の助けが求められたとしても不思議ではない。
しかし彼らは何事も無かったかのように、ベッドへ戻っていった。
なんだ、またあの家か。そう呟き、寝惚け眼を擦って床に就いたのだ。
「……よいですか、リーゼリット。
この門を潜ると、結界があります。私が安全だと判断するまで、入らないように」
「うん、わかった」
セラは慎重に、衛宮邸の門を開いた。
結界に篭められた機能を念入りに確かめ、リズを招き入れる。
「まだ安心してはいけませんよ、リーゼリット。
無人とはいえ、家屋には罠が張り巡らされているかもしれません」
「うん。セラ、鼻広がってる。楽しそう」
「リーゼリット! それは貴女の勘違いです!」
荒い鼻息とともに、セラは玄関の鍵に手を掛けた。
鍵穴に鍵を差し込む。
セラの頬が紅潮し、リズの瞳も爛々と輝いた。
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最終更新:2008年10月08日 17:22