205 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/10/13(月) 19:50:40



 黒い世界。桜の他に何も無い。
 だから桜の中身以外に見るものが無い。
 記憶が溢れ出していた。
 喜びがあり、悲しみがあり、怒りがあり、楽しさもあった。
 なのに、心の奥底は常に灰色に淀んでいた。
 本当に心が動いたことはなく、涙を流したこともなかった。
 どれだけ浮ついた感情に流されようとも、心の芯は冷めていた。
 だから、記憶に色が無い。
 父である時臣。母である葵。姉だった人。綺礼。一成。霧島。綾子。慎二、士郎。
 誰も不要だなんて思ったことはない。けれど、どの人の顔も色褪せて見えた。
 それが遠坂桜の歩んだ道。遠坂桜という人間。
 生きているのは外側だけ、心の真中は壊死している。
 どれも大事なのに、全てが灰色にしか見えない。
 自分がどれだけ酷薄で壊れているのか、これ以上知る必要は無かった。
 目を閉じた。
 もう終わってしまっても構わない、と。
 その瞼の裏。
 不意に、鮮やかな色彩が通り過ぎた。
    『遠坂。これはお前の意見か』
 低めの、よく響く声。
 ぴしりと伸びた背、真っ直ぐに目を見つめられていたのを思い出す。
 生徒会の書類を提出したときだった。彼には、きっと何でもない一言だったのだろう。
 だが桜には、違った。
 生徒会で書記という仕事を引き受けたのは、形式通りの仕事だったからだ。
 何の情熱も必要ない。淡々と作業をこなす。それだけのつもりだった。
 だから、作業に混じった自分の意思にも、桜は気付かなかった。
 そのかすかな桜の声を、彼は見つけた。
 桜自身も知らない桜の姿に、彼は気付いたのだ。
 以来、彼が気になった。何かにつけては彼を見ていた。
 彼は厳格で、だが自分を縛ることもなかった。
 ごく自然に周囲の現実を受け止め、冷静に理性を働かせる。
 そして、冷めているだけではありえない、嘘偽りのない言葉を常に述べる誠実さ。
 自分には無い、芯の強さを感じた。
 心のない人間は居ない。揺れることのない精神も存在しない。
 けれど彼は、それに耐え、一人で歩んで行ける強さがあった。
 憧れた。
 気付いたときには、好きになっていた。
 顔を合わせると、胸が躍った。声を聞くと、心臓が弾けそうだった。
 聖杯戦争の準備で忙殺されても、生徒会の仕事を続けた。
 霧島に会うのは楽しかった。一成と話すのも好きだった。
 だが何よりも、彼と会えるだけで心が震えたのだ。
 彼のように強くなりたい。そう思った。
 桜は弱い。
 行き場のない喪失感。不良品である自分への恐怖。
 もう見えてしまったものだ。意識の内側に、絶えずそれは在り続ける。
 それを正面から受け入れる強さは未だ無い。
 でも、この熱を手にしていれば、折れそうな自分を保っていられる、立ち向かえる。
 そうやって、いつかは本当に強くなってみせる。
 そう信じられた。
 だから、戦おう。
 何も無い世界に一人漂うのではなく、強くなるために現実の下で戦うのだ。
 強くなりたい。ただ守られる子供のままでは居たくない。
 故にアサシンに立ち向かい、セイバーを前に踏み止まった。
 その思いをたかが恐怖のために打ち捨てるなど、愚かにも程がある。
 桜は拳を強く握り締めた。
 自分が自分であるという確かな感触。
 瞼を開く。
 暗く、しかし広い空。波の声。響く剣戟。そこに黒く塗りつぶされた世界は無い。
 折れかけた膝に力を込めた。倒れそうだった体が、地面を前に踏み止まる。
 イリヤが目を見開いていた。桜は歯を食いしばり、イリヤを見据えた。
 刹那の後、殺気を孕んだイリヤの魔力が膨れ上がった。


激:構わず、突っ込む。
失:横手に逃げ込む。


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連載時コメント


+ ...

193
書いた方も忘れてた描写を見つけてくれるとは・・・すげえ嬉しいです。


206 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/13(月) 21:00:23
激だなここは


207 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/13(月) 21:23:33
激:構わず、突っ込む。
一成かー。


208 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/13(月) 21:43:48
激:構わず、突っ込む。

一成なのか?
なんか、他の人ぽいんだけど。


209 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/13(月) 21:47:14
激:構わず、突っ込む。

キャスターの夫だろ


210 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/13(月) 21:57:55
激:構わず、突っ込む。

これが「思わず、突っ込む」に見えた俺は相当病んでいるなぁ。


211 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/13(月) 22:01:39
激:構わず、突っ込む。

どうみても毒蛇百芸

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最終更新:2008年10月13日 22:55