232 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/10/17(金) 19:16:34



 剣戟の音がガードの健在を伝えていた。
 だが桜に確認する猶予はない。
 僅か十歩足らずの距離。イリヤから、強烈な魔力が放たれている。
 潮が満ちた。
 桜は迷い無く、前に踏み出した。
「Aufsteh(起て),mein Schatten(我が影よ!)!」
「消えなさい!」
 『影』の再起動と同時、イリヤから光の弾が放たれた。
 迎え撃った『影』の腕が、光と共に消し飛ぶ。
 相殺が精一杯。だが防げれば十分だ。
 桜は地を蹴った。
 『影』越しにイリヤの姿が見える。今度は幻覚などに後れは取らない。
 距離が縮まる。拳の間合いまで、あと一歩。
「近寄らないでっ!」
 イリヤが叫んだ瞬間、桜の全身が突風に曝された。
 吹き荒れる暴風に耐えかね、足が地面から引き離される。
「く……Trag(支えろ!)!」
 『影』の腕が桜を絡め取る。
 数歩たたらを踏み、桜は地に踏み止まった。
 向かい風は、なおも桜を煽り続ける。
 イリヤの居る方向を見ようと、閉じようとする瞼を必死で開いた。
 光弾。
 咄嗟に逸らした桜の顔の横、髪の数条を焼き散らした。
 桜を弄ぶ稚気は、もはやイリヤには無い。
 イリヤは今、殺すつもりで桜を攻撃している。
「この、クソガキッ!」
 桜は風に抗いながら、怒号に喉を震わせた。
 叫びながらも、桜は冷静だった。今宵二度の戦いは無駄ではない。
 桜はポケットに手をやった。
 指に触れるのは黒き宝石。いずれも魔力を貯め込んだものだ。
「Ich schliese Reserve auf(バックアップ開放).
 Mein Schatten verdichtet sich(色濃く映せ、影よ).」
 魔力を注ぎ込むと、『影』の闇が深さを増した。
「Vorwarts marsch(進め!)!」
 『影』を盾に、風に逆らって足を踏み出した。
 地を這うが如く、僅かずつイリヤへ近づく。
 原理は知らないが、イリヤは詠唱を必要としていない。
 加えて、暴風と光弾を同時に繰ってみせている。
 虚を衝いたつもりでも、先手は取れない。
 勝つには一つ。
 正面から捻じ伏せるのみ。
「来ないで!」
 光弾が『影』の表層を抉る。
 一つでは足りぬと悟ったのか、光弾が雨あられと『影』に放たれた。
「Fortsetz(止まるな!)!」
 桜は前進を止めない。
 影を襲う光が鋭い刃へと形を変えていた。
「来ないで、来ないで来ないで――!」
「Vorwarts! Los, los, los――!」
 修復が間に合わず、『影』が少しずつ千切れていく。
 桜の腕を、刃の欠片が薄く裂いた。見る間に、浅い傷が増えていく。
 しかし桜は止まるつもりがなかった。脇に逸れるつもりもない。
 何故なら、イリヤは退いていない。
 桜を吹き飛ばし、逃げればよかったものを、未だその場に留まっている。
 ならば退けない。退ける訳が無い。
 共に退かないのは、単純で愚かな理由だ。
 互いに、許せない。
 自身の中に入り込まれたこと。それを招いた相手の、自分の不用意さ。
 そして、その恥辱を雪ぐのは、この時しかありえない。
 間合いが縮まる。
 一息だけ、光の刃が途絶えた。
 勝負の機。
「側に――」
「――Ziele(構え)!」
 悲壮感はない。桜はただ冴えきった戦意のみを従え、全身を奮い立たせた。
「寄らないで!」
「Verschlucke(呑み込め)!」
 特大の光弾。『影』がそれを覆い込む。
 魔力が弾けた。風が一瞬だけ途切れる。
 『影』が崩れる。再起動する暇は無い。
 残滓を置き去りに、桜は無風の只中に飛び込んだ。
 イリヤ。
 突き出された腕。たどたどしい抵抗を払い除けた。無防備な胴体。
 拳を解く。
 打を放つに硬くなること勿れ。
 師の教えを忠実に実行した。


制:腹に殴打。
逝:左胸を打ち抜く。
醒:殴れない。


投票結果


制:1
逝:3
醒:5


連載時コメント

+ ...
233 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 19:34:40
醒:殴れない。


234 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 19:57:17
醒:殴れない。

そろそろ、目覚めてもいい頃でしょ。


235 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 20:13:38
醒:殴れない。


236 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 20:18:09
逝:左胸を打ち抜く。


237 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 20:47:04
逝:左胸を打ち抜く。
ここらでハードな展開をキボン


238 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2008/10/17(金) 20:56:08
制:腹に殴打。
ついに尻展開からシリアス展開に移行しそうですね。


242 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 21:58:25
醒:殴れない。
ファソラシド:コントローラーの端子が伸びロード・バルトメロイの愛馬に刺さる「ひひーん!」


243 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 22:03:03
逝:左胸を打ち抜く。
ファソラシド:コントローラーの端子が伸びロード・バルトメロイの愛馬に刺さる「ひひーん!」


244 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 22:07:20
醒:殴れない。
ドレミ:コントローラーの端子が伸び僕に刺さる「ケツがーっ!」


245 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/17(金) 22:07:24
醒:殴れない。
ファソラシド:コントローラーの端子が伸びロード・バルトメロイの愛馬に刺さる「ひひーん!」

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最終更新:2008年10月18日 00:54