917 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/02(土) 04:34:29

駆け出す、何の意味もない、ただ己を危険に曝すだけの行為。
それでも、走りださずにはいられない。

家族を、友人を、仲間を救えずして、なにが桜の味方だ、正義の味方だ。
それは大前提。
その大前提のために、ただ駆け出す。

死にたくないと言う意志を叶えた聖杯。
そんな聖杯にただ願う。
大切な人を、人々を守る力を——

——力を
——力を与えろ!


直後。
剣の壁がその場全ての存在、全ての動きを停止させた。
人もサーヴァントも、全てが動きを止める剣の壁。
そんな、剣壁が作る道を、赤い男が歩き出した。

夜闇を闊歩する赤。
ただ一人だけ異彩を放つ存在として。
急ぎもせず、赤い仮面の男がこちらへ歩いてきた。

「邪魔をするの?」
不機嫌そうに、イリヤが聞いた。
「邪魔、と言えばそうなるのだろうね、双方直ちに戦闘を停止して家に帰りたまえ、というのが私のマスターの命令なのでね」
腕を組んで言う。
その仕草は、かつて見た弓兵と同じように見えた。
「アー……チャー?」
凛が、ぽつりと呟いた。
「さて、どうするね?」
そんな言葉と共に、男の左右に剣が現れる。
それは、表情を見せぬ仮面に代わり、全てを殺し尽くすに十分すぎる量を持って、双方を睨み付けていた。

声に聞き覚えがあった。
「アンタは……」
仕草に見覚えがあった。
「アンタは……!」
態度に覚えがあった。
何しろ、自分の事なのだから——

「良いわ、今日は見逃してあげる」
その言葉と共に、兵が消え、戦車が消え、空はただ闇だけが残った。
「でもね、次にあったら殺すわ、それは決めたから」
「ほう、あの名門から敵視して貰えるとは光栄だ、下賤の輩は無視すると思っていたがね?」
「っ……!」
刻印が光る。
「やめたまえ、君の役目は理解した」
己が召還主の肩を掴み、宥めると、ヒトラーが仮面の男に向けて言う。
「無用の摩擦を起こすのが君の主の命令か? だとすれば同志がどう言おうと受けて立つが」
虚空から、無数の銃口が赤い仮面に狙いをつける。
「なるほど……では君達はどうするね? こちらは闘う気はないようだが?」
振り返ると、無数の剣が士郎達を睨み付ける。

満身創痍のライダーが、体を引きずるように男と士郎達の間に体を割り込ませる。
「無茶をするな、君は……まだ消えたくはないだろう? ギリシアの女神よ」
気を抜いていたわけではなかった。
体こそ傷だらけであったが、残る力を全て振り絞るように、睨んでいたはずだった。
だが何故。
地面に倒れているのだろうか。
倒れた体に仮面の男が手を近づける。
「何をする気だ!」
「動くな……動けばお前の想像通りの結果になる」
男の手が光り、傷が塞がっていった。
「ふむ、これで良いだろう、闘う気がないのならばここから立ち去り傷の手当てをした方が良いだろうな」
そして男がもう一度振り向いた時、既に少女と独裁者は立ち去っていた。
それに倣い、ゆっくりと立ち去る赤い仮面。
「そうそう」
赤すらも闇に消える程の距離まで歩いたところで
「後ろの『欠けたる者』に感謝した上で大事に扱え、未熟者」
赤い仮面はそんな事を口にした。


言われて気付く。

A:衛宮士郎の背後に誰かが立っていた
B:遠坂凛の背後に誰かが立っていた
C:間桐桜の背後に誰かが立っていた
D:ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの背後に誰かが立っていた

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最終更新:2006年09月11日 20:21