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607 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/09/28(日) 00:13:06


 その夜、僕は境内を歩きながらその時を待っていた。



「悪いね、部長に霧島さん。食事が終わってくつろぐ時間帯に呼び出したりして」

 食事が終わり、さらに洗物が終わった後、僕は部長と霧島さんを呼び出した。
理由はただ一つ。今夜の方針を決めるためである。

「別にかまいませんが」
「私も特に何かするわけでもないですし」

 二人がそう言ってくれたので、少し気が楽になる。
 夕方になって突然柳洞寺に泊まるように言い、さらにこんな時間に呼び出したのだから、
実のところ不平不満の1つや2つは言われる事を覚悟していた。
 もっとも、本心では何かしらの不満はあるだろうし、これから長話をすると嫌な気分にも
なるだろう。それに何より時間が時間なので集中力が続かない可能性が高い。そうならない
ためにも、早く終わらせたいと思う。

「夕方説明をしたけど、今日から暫くの間、諜報部は24時間柳洞寺に詰める事になる。
 もちろん、昼間に交代で自宅に荷物を置いたり取ってきたりするために帰ったり、買い物
その他で外に出る事もあるだろうから、本当に24時間ずっと柳洞寺の敷地内にいるわけ
じゃないけど、基本的にはずっと柳洞寺の敷地内に居る事になると思って欲しい。
 また、夜間の巡回も今日から実施する。今日は僕がやるけど、明日以降は諜報部の部員に
交代で実施してもらうので、部長はリストを作って提出して欲しい」

 僕の説明に二人は頷く。
 第二種警戒態勢に移行した事による大きな変化は、諜報部が24時間柳洞寺に待機する
事で、夜間の警備を格段に強化する事が可能になった事だ。
 現状の柳洞寺は未だ戦火に晒されていない事もあって、夜間の警備は何もしていないに
等しい状態だが、これからは警戒を強化する事が物理的に可能となる。夜間に交代で柳洞寺の
敷地内を巡回するだけでも、かなり違うはずだ。
 諜報部の部員は基本的には学生なので、単独で不審者を撃退する事はまず不可能だが、
この場合求められるのは目覚まし時計のベルであるので問題ない。警報を鳴らし、待機していた
部員を一斉に起こし、重要施設を守る。不審者が山門から逃走を図れば、待ち構えている
佐々木さんが捕獲するだろう。
 まあ、それ以前に不審者が侵入しようとしても佐々木さんが撃退する可能性は高いのだが。

「敵が柳洞寺の敷地内に侵入した場合は……部長、霧島さん。敵はどこを狙うと思う?」

 僕は「敵」とあえて具体名を挙げなかった。可能性として一番高いのは遠坂陣営だが、
他陣営が襲ってくる可能性もある事と、どこが襲ってきても守る側としては大差ないような気が
したのがその理由だ。

「敵の目的にもよりますが、第一目標は本堂の事務室でしょう。ここの帳簿をやられますと、
柳洞寺の現在の情報が全て流れる事になります。
 また、破壊目標としてならば、可能性が最も高いのは諜報部でしょう。ここを叩き潰す事で、
現在再建中の柳洞寺諜報部の息の根を完全に止める事が出来きます。また、完全に潰せないにしても、
大打撃を与える事で再建を大幅に遅らせる事が出来る。
 その間にこちらの握る貴重な情報を悠々と奪う事もできるし、逆に自陣の防諜を安心して
強化する事も出来ます。
 諜報部が物理的に破壊された場合のダメージは、言うまでも無く相当なものになります」

「敵が短期的な利益を目的としているのであれば、研究班の研究を狙う可能性もありますね。
 こちらの研究済みの研究を盗まれた所で、敵が直ぐにその研究結果を使い物にできるとは
思わないんですが、自分で研究するも短い時間で研究は完了できます。
 あと、こちらが研究中の研究資料を盗まれた場合、データーが無くなるんですから、完成するのは
大幅に遅れますし、敵はそのデーターを自分の所の研究に使う事ができます。
 諜報活動なんてものは、そう何度も出来るものじゃないですから、研究班を狙う可能性も高いと
思います」

「うん、どっちももっともだね」

 寺の事務室以外では、部長は諜報部、霧島さんは研究所への攻撃と想定したが、どこも狙われる
理由は十分にあり、どちらの意見ももっともだ。しかし、侵入経路が山門を突破するか、ほとんど
道らしい道のない裏山からの侵入しかないという事を考えると、3つ全てを同時に狙う事は考えにくい。
 多くて2つ、いや1つ以上は不可能だろう。

「複数の敵陣営が同時に柳洞寺を襲う可能性はどうかな?」
「あえりえない、とは言い切れませんが可能性としては低いと思います。何だかんだと柳洞寺は
遠坂陣営以外とは良い関係を維持しています。
 古代アルスター我様激辛麻婆帝国(以下、ギルガメッシュ陣営)とは停戦中ですが、かの陣営の
敵国は大ブリテン衛宮邸連合(以下、セイバー陣営)であり、セイバー陣営と直接の同盟国ではない
柳洞寺を狙うとは考えにくい。セイバー陣営から見た場合も同様です。
 アインツベルン第三帝国(以下、イリヤ陣営)は……面白ければ良いという所ですので、来るかも
しれないし、来ないかもしれない。理由があって来る訳ではないので、考えるだけ無駄だと思います。
 マキリ民主主義弓道部連盟(以下、サクラ陣営)は柳洞寺を敵に回したくないはずですから、まず
無いでしょう。欲しい場合、堂々と情報交換を提示してくると思います」

 部長が答えたので霧島さんの方も見たが、彼女も同意見のようであった。

 うーん、僕と同意見なのか。違った見方をしていたら良かったんだけど。

 こういう時は同意見よりも違う意見の方がありがたい。何故なら、人の意見を聞く事で自分では
見落としていたものが見える時があるからだ。同じ意見というのは安心感を与えるが、はっきり言うと
それ以外には何の効果もないものだと思っている。

 さて、話をまとめると、敵が襲う可能性の高い場所は、本堂の事務所、諜報部部室、研究所。
そして複数の敵に同時に襲われる可能性が低いため、襲われるとしてもどこか1つだろう。

 ……戦力の分散は下作だが、第二種警戒態勢のおかげで頭数だけはあるから、よほどの強敵が来ない
限り複数に配置しても守りきれるだろう。3つ同時に守るのは流石に厳しいだろうが。


【選択肢】
A:【  】の守りに専念する
B:【  】と【  】に配置する(【本堂の事務所】と【研究所】)
C:三箇所に人員を配置する
D:敵が来た場合、直ちに起床し、本日の就寝場所である本堂で指示があるまで待機する


137 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/10/07(火) 20:56:24


「うん、事務所と研究室の防衛を優先しよう。霧島さんは呼び出しがあったら、女子部員全員を
連れて事務所を、部長は男子部員全員を起こした後、5名事務所に送って、後の部員で研究室の
守りについてくれるかな」

 少し悩んだ後、僕が下したのはそういう決断だった。

「諜報部の部室はどうするんですか?」
「事務所と研究室は勝手に立ち入る事ができないけど、諜報部の部室は諜報部が立ち入る事が
できる。敵が諜報部の部室を襲った場合、敵を部室に閉じ込めよう。
 大丈夫、見回りはきっちり行うから」

 当然の疑問に対し僕は何が大丈夫なのかを告げない返答を行い、話を終わりにした。



「ま、実のところ大丈夫も何もないんだけどね」

 境内の見回りを続けながら、僕はそう呟く。
 夜の柳洞寺はやはり暗く、それこそ幽霊が出そうな雰囲気は変わらない。実際近くに墓地も
ある事だし、霊感の強い人間ならば、幽霊が見えるだろう。見えない事を喜ぶべきか
悲しむべきかは悩む所なのだけど。

 3つ同時に守るだけの人員はない、かと言って敵の襲撃に合わせて適切に人員を配置する
通信網も、判断部門もない。ならば、こういうケースにはこういう行動を取れ、と反射神経の
ように教え込んでおけば、最低限の行動はできる。
 今回だと、敵の襲撃があれば、諜報部員は直ちに事務所と研究室に向かい、敵の部屋への
侵入を阻止する。
 敵が強行突入の強盗方式を取るか、隠密行動の空き巣方式を取るかは分からないが、
どちらにしても入り口でシャットアウトできれば、敵は逃走を余儀なくされる。捕獲できれば
最高だが、仮に逃げられても、柳洞寺に実質的な被害はない。
 最良のシナリオという事ができるだろう。

 一方、入られた場合はというと、これは結構やっかいで、直ちにメディアさんの指示を仰ぎ、
強行突入から解放交渉までの選択に沿った行動を行う事となる。
 部屋に入られても、周囲を封鎖して部屋に閉じ込めてしまえば袋のネズミというやつで、
捕虜にした後、ゆっくりと尋問を行って吐かせれば良い。
 宣戦布告をしていない相手への破壊工作は違法ではないが、世間の良識からは大きく外れる
行為であるため、大々的に宣伝すれば犯行組織と他勢力、中立組織の親密度の低下を招くことが
できるし、何よりも犯行組織に屈辱を与える事ができる。

 ただし、敵がどの程度、機密書類や設備を破壊した状態で降伏に応じるのか(逆に言えば、
損害をいかに最小限で抑えて降伏させれるのか)という問題があるし、それこそ自爆して
施設を破壊、という可能性がないわけではない。
 その場合も遺留品から犯人を特定し、犯行組織を非難する事はできるが、遺留品のレベルに
よっては言いがかりと判断される可能性もあるし、何よりも柳洞寺側の被害が大きすぎる。
 やはり、可能ならば中に入られる前に何とか発見し、撃退したいのが本音だ。


「もっと早く気付ければ良かったんだけどなぁ」

 見回りながら、僕はそう愚痴をこぼす。
 第二種警戒体制への移行をメディアさんに指示されて以降、諜報部の部員たちの不満を
高めないように柳洞寺に待機させる事ばかり考えていて、肝心の防衛方法については、完全に、
頭の片隅にも無かった。
 今回の決定についても、どうせ事務室や研究室を守るのであれば、中で待てば敵の襲撃が
あった際に守りやすくなるのは言うまでも無い。
 それが出来ないのはメディアさんや研究班の許可がないためであり、許可を取ろうにも、
メディアさんは就寝の時刻、研究班は帰宅済みとなればどうにもならないのである。
 特にメディアさんは、貴重な「夫婦の時間」であるため、邪魔をすると後が怖い。

「とりあえず、見回りを厳重にするか」

 もう一人か二人居れば、多少は楽になるのだけれど、これもやはり諜報部員の不満を
高めないために今日は僕一人で行う事にした。明日からは数人でローテーションを組んで
行えると思うので、とりあえず今日を乗り切れば何とかなる。

 ……冷静に考えると、失敗する時の条件を満たし続けていると思う。
 組織の壁、いらぬ遠慮、信頼の不足。メディアさんを叩き起こし、事務所と研究室への
入室許可を取り、そこで敵の襲撃に備える事こそ、最悪の事態に備えて僕がすべき事なのかも
しれない。
 しかし、今ここで下手な行動を取ることこそ、やってはいけないことだと思う。
 それをやりたいのであれば、部長や霧島さんたちと話している時にやるべきであり、すでに
夜中になっている今、やるべき事ではない。
 今となっては僕にできる事を、敵を可能な限り早期に発見し、警報を鳴らすという役割を
全力で実行するしかない。


「とは言え、敵が来ないのが一番なんだけど」

 懐中電灯で辺りを照らしながら、異常が無いか確認する。異常が無いのが一番なのだが、
こういうのは本当に居ないのか、見落として居ないのか分からないのが辛い。
 そうなるとじっくり見たい所だが、あまり時間をかけて作業が滞るのも良くない。手早く、
しかし間違いなく。

 確認作業全般、書類のチェックから製品の品質検査にまで通じる話だな、と思いつつ、
辺りを確認すると、ふと違和感を感じた。

「ん?」

 違和感を感じた先に懐中電灯を照らす。が、よく分からない。
 僕はゆっくりと、警戒しながら前に進む。自然と懐中電灯を握る手に力が入るが、意味が
無いと自分に言い聞かせ、意識して力を抜く。
 敵が殺害を考慮に入れているのなら懐中電灯を照らしながら接近するのは自殺行為なのだが、
敵にそこまでの覚悟はない、と僕は思っている。良識のある人間にとって、平時に人を
一人殺す事は、相当な覚悟が伴う行為だからだ。
 相手が完全にいかれた常識の無い人間ならば、いとも簡単に踏み越えてしまうんだけど。

 念の為、懐中電灯を左手に持ち替え、利き手である右手を空ける。
 その瞬間、暗闇から何かが飛び出した。
 それが黒い服を着た人たちだと頭が認識するより先に、僕は叫んだ。



「火事だ!!」



 いや、本当にこれが有効なんだって。


【選択肢】「泥棒」と叫ぶと、恐怖心で布団から出て来ない可能性があるため、火事なのです
     (とは言え、実際にはケース・バイ・ケースなのですが)。

A:ちょっと前の山門の光景
B:このままの続きを



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最終更新:2008年11月13日 19:26