57 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/05(火) 03:18:01
「いいえ、私はキャスターみたいだよ?」
楽しげに、白服の少女が微笑んだ。
目の前の少女は、本当にただの少女であった。
王としての威厳も、守護者としての義務感も、戦士としての剛毅さも、多数の中の一を継ぎ、己を捨てさせられた後悔も、
偽物と断ぜられた宿命も、裏切り者と断ぜられた宿命も、
悪魔と恐れられ、英雄の為の贄とされた宿命も、神に恐れられ、狂わされた後悔も。
目の前の彼女には存在していないように見えた。
ただ彼女は、楽しげな目の奥に、覚悟の強さを持っていた。
「まあ、これから暫くよろしくね、マスターさん、お名前は?」
手を差し伸べられ、思わずその手を握っていた。
それで、それだけで、赤い男が『欠けたる者』と呼んだ理由はすぐに分かった。
「あ、ああ……士郎、衛宮士郎だ」
「ふーん、よろしくね、衛宮君」
彼女は魔術を扱う事ができない。
彼女に魔術回路は存在しない。
「あ、一つ聞かなきゃいけない事があったわ」
握手したまま。
「雰囲気からして、この人達は味方で良いのよね?」
「ああ、桜も、遠坂も、ルヴィアも、ライダーも、みんな仲間だ」
握った手が外れる。
「4人……ふーん、じゃ、あっちにいるのは敵って事で良いのよね?」
『なんだ、気付いてたのか』
「そりゃそれだけ歪んでいれば気付くわよ、状態が万全なら特にね」
そんな言葉と共に影から男が現れる。
影と共に現れたのは途方もない巨躯。
「バーサーカー……」
思い起こすのは、あの巨人。
少女を守り続けた、あの巨人だ。
「その通り、殺戮のプロ、狂戦士だよ」
だからその言葉には怒りを覚える。
「見たまえよ、この巨大な断頭斧、これこそ最強の証に相応しい」
巨躯が握る巨大な斧。
それは、人間の体どころか、鉄塊を切断して余りある巨大さだった。
「なるほど」
キャスターの顔から笑みが消える。
「キャスター……?」
歩いていく。
巨人へ向かい歩いていく。
魔術回路さえない少女が、何をしようと言うのか。
「不安そうだから見せておくわね、私の力」
そう言って振り返った彼女は、月明かりの下で、極上の笑顔を見せてくれた。
無防備なキャスターにバーサーカーが突貫する。
「まずい……逃げろ! キャスター!」
彼女の着込む緑のストールに備え付けられた赤い宝石。
それが僅かに光る。
同時に狂戦士の戦斧が振り下ろされた。
「キャスター!」
振り下ろされた戦斧は
最終更新:2006年09月11日 20:26