250 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/08(金) 04:53:55

時は一年半程前、バゼット・フラガ・マクレミッツが衛宮邸に滞在していた一週間程の最初の日。
様々あったが藤村大河は最終的に彼女の滞在を認めた。

しかし、それでも彼女に譲れぬ事はあった。


「ちえすとー!」
夕食の時間、仮にも執行者である彼女が反応できぬ程の速度で、頭部にチョップが叩き込まれた。
遠坂凛は、その瞬間に「ああ、自分は死ぬなあ」と考えた。
間桐桜は、その瞬間に貧血症状に見舞われ、これ幸いと箸を取り落として死んだふりをした。
衛宮士郎は、全ての動きを止め、二人を見守っていた。

「バゼットさんね、食事は味わってする物です、そうじゃないならこの美味しいお芋の煮付けは没収です」
「む、食事とは栄養を摂る為のものです、その意見には賛同しかねます、それに芋というのは極めて上位の栄養です」
返して頂こう、とバゼットは口にする。
「しゃらーっぷ! そんな事じゃ人生損します! まず目を瞑って五感全てを味覚に集中しなさーい!」
背景に虎を背負い、藤村大河が絶叫する。
執行者であるバゼットが思わず頷いてしまう程の迫力を有していた。
目を瞑り、本当に味覚に全感覚を集中するように箸で掴んだ煮物を口に運ぶ。
噛む回数は10回、煮物の汁が口の中に広がり、それを一気に飲み込む。
続いて、鯖の味噌煮を慎重に運ぶ。
鯖の味と味噌の味が調和し、口の中に広がった。
「ふむ、なるほど、確かに違う物ですね」
「そうでしょう? それを『味わう』といいます、食とは楽しい物なのです、それを知らないなら教えてあげます。
 というか、この家に居て知らないなんて料理を作ってくれるみんなに失礼でしょう」
こういう時に藤村大河は、教師としての顔になる。
「む……確かに礼儀を失するというのは居候として問題がある」
「そうです、人生の彩りであると同時に礼儀でもあるのです、ゆっくりと、味わって食べるのを覚えなさい!」


そして、時は今から一週間程前の藤村邸。
バゼット・フラガ・マクレミッツは藤村邸を訪れていた。
「ふむ、ソバとは美味なものですね、ワサビやネギなどの薬味や汁の濃淡によって大きく異なる、面白い物です」
「ん、順調ね、実はこれ、昨日届いた新蕎麦なのよー、最近どの位まで味が分かるようになった?」
「最近ようやく、漠然とですが白身魚の味の違いが分かるようになりました」
「んー、それは良い傾向よ、バゼットさん、最近、生きる事が楽しいでしょう?」
「そうですね、味の違いという物を考えるようになって、選ぶ楽しみという物が増えました」
「というかね、それが普通なの、食べる事を楽しんだり、日向ぼっこを楽しんだりするのが普通なの」
「む、しかし私はやる事もある、食事や休息にばかり精を出すというのは問題があります」
「両立するのが当然なの、冬木の虎の指導は受けておきなさーい」
そう言って畳に寝転がる。
日が当たってちょうど眠くなる陽気だった。
「……日本では引っ越しをした際に親しい人や近所に贈り物をするというのが礼儀だと言う事を昨日知りました」
「ん? なにかくれるの?」
「ええ、少し時間は頂きますが、タイガに相応しいプレゼントを思いつきました」

251 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/08(金) 04:55:03

そんなわけで今。
藤村大河はネコ科の虎に襲われていた。
「ギブギブギブギブ!」
両足で虎の体を止める。
喉笛を噛み切られたり脊椎を折られたらさすがに死亡確定である。
とにかく視線を外さず出来る限り後ろに下がりながら手近なありったけの物を投げつける。

故に庭中に様々な物が転がっていた。
ストーブの上の薬缶から、土蔵の中で眠っていた様々なガラクタまで、
本当に「ああ、こんなものがあったんだなあ」と楽しめるような物であった。
だが今現在彼女にそんな余裕はない。

「虎としても大型、恐らくシベリアトラの類でしょうね、シベリアトラの雄種」
「いや、そこで冷静に分析されても」
「でも縞柄が恰好良いですよね、触り心地も良さそうです」
「そうですわね、それに王者の風格もあります」
「うわー、乗り心地よさそー」
「いや、そんな事を言われても」
突っ込みの間も後ろで何かが割れる音とか虎の叫び声とか鳴き声(二種類)が続いた。

「と、とりあえず、ライダー、動けるか?」
「ええ、あれを止めるならキャスターよりも私の方が向いているでしょう……」
そう言って、虎の方に向き直り。
「キャスター、貴女はシロウを、私達を裏切らないと己の誇りにかけて誓えますか」
そんな事を口にした。
本気の時の口調だった。
「ええ、私は裏切ったり裏切られたりとかが嫌いだから」
キャスターもそれを分かったのか、真剣に受け止める。
それを確認して。

ライダーが虎の背中に飛び乗った。
その衝撃で体勢が崩れた。
「いや、そっち藤ねえ」
「ハッ!」
どうやらマジボケだったらしい。
背中から跳び上がる。
その衝撃で今度こそ完全に転けた。

体勢が思い切り崩れた藤ねえが今正に虎に食われようとしているところで。
「やー!」
今度こそネコ科の虎の上にライダーが飛び乗った。
「どう、どう……」
騎英の手綱<<ペルレフォーン>>まで用いた乗術。
あっさりと虎は屈した。

さすがに限界だったのか、藤ねえは庭で気絶していた。

再び静かな夜は来る。
片付けは明日やるとして。

とりあえず今夜、というか今やるべき事は。


藤:藤ねえを介抱しよう、無事か確かめなければ
村:……とりあえずこの虎をどうしようか決めなければ
先:虎を送りつけてきた相手を問いつめてみよう
生:話は後にして、何はともあれ夕飯を作ろう

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最終更新:2006年09月11日 20:30