398 名前: 白と赤 投稿日: 2006/09/10(日) 22:39:50
少女の聖杯戦争は終わっていた。
その理由は至極かんたん。なにしろ少女のサーヴァントは弱いのだ。
頭の中で彼のステータスをみる。弱い、魔力の大きさから生前魔術師だったのかもしれない。
しかし、魔術師が狂ったらお終いだろう。
狂化を解くこともできなくはないが、聖杯戦争で魔術師が最弱なのは変わらない。
森までやってきたランサーを凌いだらしいが、それもホームグランドで殺されなかった程度に過ぎない。
彼女が求めたサーヴァントの強さはこんなものではなかった。
お爺さまも諦めるように自分をこの地に送り込んだことも知っていた。
傍らにいる赤い外套を羽織った木偶に視線を移す。
彼は何も言わない。あたりまえだ、自分が理性を奪ったのだから。
返ってくるはずもないのに聞いた。
「ねえ、あなたは私が勝てると思う?」
「———————」
答える声は勿論ない。
しかし———大丈夫だ。そんな声が聞こえた気がした。
その、聞こえもしない声がとても優しく暖かかった。
だからだろうか、言うつもりもない事を言ったのは。
「切嗣の息子を見に行こうと思うの。私とお母様を捨てた切嗣の……」
「————■■」
狂戦士が小さく呻く、その声にはあらゆる感情が含まれていて彼女には理解できない。
でも、否定の響きは窺えない、それだけはわかる。
この下僕は、私が何を思い、何を成そうとしているか理解しているのだろう。
それが少し癪で、少し嬉しくて——
「誰が喋っていいといったの!? 口を慎みなさい」
でも、このサーヴァントは認めない。
なにより、夢でみた、こいつの生前が許容できるものではなかったから。
知りもしない誰かの為に、大切なナニカを切り捨てる、そんな生き方。
私の最も嫌いな生き方。
——っ
聖杯としての役割が告げる。
七人目のマスターが現れたらしい。
切嗣の息子だ。
なんとなくそう感じた。理由はないが、確信してる。
この聖杯戦争で初めていいことが起きた気がする。
もうすぐ会える。
もうすぐ殺せる。
それはなんて楽しそうなことだろう。
そんなことを考えて、彼女はくすくすと笑いだす。
「———————」
赤いサーヴァントは沈黙する。
彼が言葉を発すると彼の主人の機嫌が悪くなるからだ。
そして、それは彼の望むことではない。
そもそも望むことは何なのか。
死後も自分を縛り、狂った今でも忘れられない理想なのか。
それとも、主人に対して漠然と感じる守らなくては、という思いなのか。
わからない。ただ、自分はもう一つナニカを願ったはずだ。
あまり、人に言えたようなものでない、その願い。
あれほど乞い願った思い。
それは、忘れてしまうほどのことであったのか。
否、違う。断じて違う。
だが、思い出せないということは、私は……
狂戦士は考える、狂った思考はいくら回れど答えを得ず。
それでも、止めることはない。彼は狂っているのだから。
聖杯戦争の幕は上がる。
最終更新:2006年09月11日 20:43