689 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2009/03/01(日) 04:15:53
それを最初に視界に収めた遠坂凛だった。
息を切らした衛宮士郎が呆然とそこに存在し、その傍らにはキャスターである少女、名城瞳が倒れている。
衛宮士郎の視線は自らの右手に、血だらけのその手に注がれていた。
凛に続きその光景を視界に収め、最も早く理解したホリィがその呼吸を忘れた。
彼の足下に転がる無数の死体は、その全てが命を刈り取られていた。
「し」
声を上げかけた遠坂を、ホリィがその手で制した。
「混線しておる……いや、むしろそれをあれ自身が望んだやった事の結果というところかの? 言葉をかけても無駄、どころか危険じゃ」
「混線ですって? まさか……」
理解とそれに続く驚きの表情を隠せぬ遠坂に、ホリィは頷く。
「術式も分からぬ代物じゃが、あれは人造生命の一種じゃろう?
予測じゃが魂を外部に置いた代物……であれば、そのコントロールが乱れればああなるのも無理はない……」
そう言いながら、ホリィは衛宮士郎に向けて歩き出した。
「……というよりも、なると半ば以上分かっていてやりよったな」
「ホリィ、あなた何を?」
「あやつを元に戻す、このままでは我もこちらに居られなくなるでな」
その言葉の意味するところは明白であり、遠坂凛はそれをあっさりと理解した。
歩きながら、ホリィはその外見に相応しからざる魔力を解放する。
その魔力に反応したのか、衛宮士郎の視線がホリィに向けられる。
「……ホ、リィ」
今正に『標的』へ飛びかかろうとしていた衛宮士郎の動きが鈍る。
「どうやら意識はあるようじゃのう。 安心せい、理由はおおよそではあるが理解した」
そう言って足下に転がる死体の群れに視線を移す。
「まったく……あやつといいおぬしと言い、無茶をするのが好きと見える……若いのぅ」
膨大な魔力が収縮し、極一点に集中する。
衛宮士郎の肉体に繋がるラインの全てに向けて拒絶の意志を込めた魔力波が流れる。
流れ込んだばかりの数十のラインは瞬時に切断され、殊に強く肉体にリンクした数個のラインも精査され、切断されていく。
「これで、終いじゃ」
放たれた魔力が消失し、衛宮士郎は足下の死体の群れに倒れ込んだ。
「士郎ッ!」
「心配は要らん……が、運んでやるが良い」
そういいながらホリィは足下の死体に再度視線を向ける。
「ふむ……見た目は完全に只の人じゃし、力の程も同様じゃが……これもまたサーヴァントのようじゃな」
注視すればごく僅かではあるが切り裂かれた断面から消失が始まっている。
「戦闘力と引き替えに人間としての気配を有する種類、草<<スパイ>>の類か……今更詮無き事じゃが」
それだけ言って敵に関する思考を打ち切り、
「しかし、厄介なことじゃ」
その場に背を向け、その場を離れた。
同じ時刻、違う場所で。
「おおおお……おおおお」
歓喜の声が枯渇した空間に響く。
ヌケガラが歓喜の声を上げている。
望む結末のために、最上の歓喜の、そして驚喜の声を上げていた。
最終更新:2009年04月04日 17:36