430 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/12/01(月) 01:57:27
気付いたとき、彼は見知らぬ場所にいた。
地面以外、周囲には何もない空間だ。
そこには太陽も、星もない。
ただただ空間が広がっていた。
不思議と戸惑いはない。
否、そのような感情は消し去っていた。
ただ一つ存在する己に視線を移す。
そこにあったのは、力に満ちた己だった。
理想の己がそこにあることを、ただただ理解し、そこに歓喜が生まれた。
故に、目の前に立つ存在にも、臆することはなかった。
「ヘンデルの『メサイア』……良い趣味を持っていたようですわね」
そう言い、ディスクケースの背を見ながらバッグの中から白いディスクケースを取り出す。
『そういえばこの部屋にはオーディオ器具の類が……』
そんなことを考えた時、小気味の良い『ポン』という音が同時に響いた。
音はバッグの中からしたもので、ディスクケースを抜いたことによって生じたスペースから数十の物体が発射された音だった。
咄嗟にその物体のうち一つを注視する。
大型のカプセル剤のようなそれは、射出の衝撃でケース部分が分解し、中身が部屋中に撒き散らされようとしている。
ケース部分に記された文字で彼女が理解できたのは僅かに4文字。
『Cs』という文字と、そして『55』という数字。
それが何を意味しているのか、それが何をもたらすのか彼女は知っていた。
膝立ちのまま、優雅さも何もかも忘れて真後ろに跳ぶ。
直後に後方への加速がかかる。
思考に依らず、殆ど本能的に。
ジェネラルがルヴィアの襟首を掴み、真後ろへ跳んだのだ。
ジェネラルはルヴィアを掴んだまま体当たりで壁を破壊し、さらにその先の手摺りさえ破壊してマンションから脱出する。
直後に爆発音が響き、部屋の中の一切合切が破壊された。
跳躍から地上への着地までは僅かに数秒でしかない。
後方への加速で首が絞まり、意識を半ば失っているルヴィアであったが、それでも残った意識をかき集めて僅かな念話を発した。
その内容は『下 危険』、そして『上から 回避』という断片的な代物でしかなく、直後にルヴィアはその意識を手放している。
それでも、ジェネラルはその言葉が何を意味するかを推測し、危機を回避するべく着地点へ集中砲火を浴びせる。
庭木や庭園の草木が粉砕されて吹き飛び、クレーターを作り出す。
土煙が立ちこめるクレーターの中心点に着地し、襟首から手を離し、同時に胴体を抱きかかえて敷地の外へ再度跳躍する。
その直後、即席のクレーターに水が降り注いだ。
ルヴィアが意識を取り戻し、次いで激しく咳き込み、そこからまともに会話が出来るようになるまでには数分かかった。
「……助かりましたわ」
叱責されるものと思っていたが、最初にルヴィアから出たのは感謝の言葉だった。
「いや、感謝されるようなことでは、それよりも、大丈夫かね?」
緊急事態であったとはいえ、襟首を掴んでの脱出は首吊りと同レベルの衝撃を頸椎に与えたはずだ。
「この位ならば……アレの直撃を受けるより遙かに良いですもの」
「……なるほど、それほどの事か」
一瞬で首が絞まれば先ほどのように意識を失うことはほぼ確実であるし、場合によっては頸椎の骨折さえありえたことだ。
先ほどの容器から射出され、爆発したのは原子番号55、セシウムである。
容器内では希ガスと共に保管され、安定していたが、空中に放り出されれば直後から酸化を開始し、流れ出していた水に触れ強烈に反応する。
単純な爆発も驚異であったが、その後に撒き散らされる水溶液、水酸化セシウムもまた危険であった。
皮膚に触れれば薬傷を受け細胞組織は破壊される。
眼球に入れば同様に損傷、場合によっては失明もあるという。
その他様々な危険を人体に巻き起こすそれを、彼女は偶然知っていた。
錬金術の講義、それに絡む科学の自主学習にて、現物を用いた実験を行ったためだ。
「爆発で逃走方向を限定した上で、更にその先にトラップか……さしずめ食人植物と言ったところか?」
クレーターと化した地面に残骸として残る植物片に視線を向ける。
触手や、葉の表面に残る粘毛は、スケールさえ除けば食虫植物のそれと変わらないように見える。
「ええ、そのようですわね」
自ら言うように魔術に関して素人である彼への説明は省略されたが、その植物を用いて空間調整も行われていたようだ。
周辺空間へと魔力を流し、意図的にマナの低気圧帯とでも言うような空間を作成し、そこに落下した存在の魔力を周囲に流す、
つまりオドを奪う仕組みが作成されていたようだ。
これは魔術師にとって驚異ではあるが、低気圧帯の原因となっている植物や地面をまとめて吹き飛ばしてしまえば気圧は一定に戻る脆い代物だったようだ。
「あのような代物を仕掛けてあると言うことは、これ以上の仕掛けは無いと言うことかな?」
「……簡易な物とはいえ、工房そのものをトラップとするような戦術を何度も使えるとは思えませんわ」
最低限相打ちを狙った代物でしかないと言うのが彼女の判断だった。
「だとすれば、この地点での勝利はほぼ確定……だがそうなると情報を得るという二次目的は果たせそうもないな」
他の拠点の情報はなく、唯一知る拠点は先ほど吹き飛んだ。
「いいえ、まだ分かりませんわ」
「ほう? その小型レコード……いや、音楽ディスクがかね?」
彼の生きた時代に存在しない代物だが、ある程度理解できていた。
「ええ、私も落胆しましたが、どうやらこれはデータディスクのようですわ」
彼女はそう言って僅かに微笑んで見せて、次の瞬間もう一度咳き込んだ。
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432 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/12/01(月) 03:32:41
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434 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/12/01(月) 14:47:50
午前2時16分:衛宮士郎を狙う存在
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午前2時16分:衛宮士郎を狙う存在
436 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/12/01(月) 22:49:05
午前2時18分:遠坂凛の見た物
438 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/12/02(火) 20:32:32
午前2時18分:遠坂凛の見た物
イ.銀の少女、十年前の事例と今回の違い、扉は開かない。
439 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/12/02(火) 20:32:57
午前2時13分:ドミトリ・カラマーゾフから見た戦い
441 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/12/02(火) 22:09:53
午前2時18分:遠坂凛の見た物
ロ.この世の全ての悪、地脈の歪みと亀裂、最悪の結末。
446 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/12/03(水) 05:27:07
午前2時18分:遠坂凛の見た物
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最終更新:2008年12月06日 18:04