80 :とある魔術師と超電子箱 ◆yfIvtTVRmA:2009/11/22(日) 16:00:31 ID:dh1wh8420
「知っているもなにも」
そう、あれは10年前の言峰の言葉だ。
「『ケイネス事変』は私も当事者ですから。あの時の事で言峰から聞かされた事は一時も
忘れた事はありませんわ。無論、ケイネスを始めととした関係者の名前も全て」
『ケイネス事変』。11年前に日本で起きた4次聖杯戦争の別名であり、時計塔ではこちらの名称で呼ばれる事も多い。
外道に手を染め時計塔を除籍されたケイネスという男が誘拐した元婚約者と共に極東の魔術比べに参加。
しかし、結果はまるで振るわず聖杯戦争の中盤で敗退。ケイネスは魔術師として無様な最期を果たす。
もしも、彼の除籍が聖杯戦争参戦前だったなら。時計塔にとって大きな恥部となったであろう事は想像に難くない。
凛は兄弟子であり参加者の一人である言峰からこの様に聞かされていた。そしてそれは時計塔の見解とも寸分の違いも無い。
「ケイネスは時計塔に所属していたというだけの家柄すら不明の魔術師。しかし聖杯戦争においては
他の参加者に比べれば誰よりも魔術師らしかったと聞いています。知識と腕だけで言えば我が父時臣とも
五分だと言っていました。事実、ケイネスの理論だけは今も時計塔の学術書に記されています」
「その通り、だが名無しのケイネスが破れたのは君の父ではなく参加していた魔術師もどきの一人だ。
その敗因を知っているならば今回の補習の理由ぐらいはわかるだろうミス・トオサカ?」
ロード・エルメロイは凛の提出したアンケート用紙を手に取り読みあげる。
「このアンケートの通りなら君はビデオ予約が出来ない。DVD録画が出来ない。
インターネットの履歴の閲覧方法を知らない。電化製品に最期に触れたのは3日以上前」
「…う」
「浄水器のカートリッジ交換が出来ない。ブレーカーの復旧方法をしらない。
留守番電話の音声設定変更が出来ない。電子レンジでゆで卵を作る方法を知らない」
「ストップ、ロードストップ、もういいです、分かりましたから!」
彼女・遠坂凛は魔術師の中でも抜きんでて科学に類する製品、特に家電の扱いが苦手だった。
それは遠坂家代々の苦手分野でもあるのだが、凛にいたっては五大属性を全部こなせる分
科学分野の才能がさらに目減りしたのかと思われるほどである。
そして記録に示されているケイネスの敗北理由、これも一言でいってしまえば「魔術以外の要素」だった。
「魔術師だからといって科学を毛嫌いするのは構わない、でも無知であっていいというわけではない。
科学など魔術でたやすく超える事ができると言うのならば科学を理解したうえでそう主張すべきだと私は考えている」
反論したかったが凛はぐうの音も出なかった。彼は凛の人生の根本に存在する意思とそこから生じている欠点を
データを元に述べているだけだ。相手が正しい発言をしておりそしてそれが自分を評価する立場のものならば
沈黙が最優だと凛の優秀な理性は本能を押しとどめていた。
「別に私は魔術の勉強をおろそかにしてまで科学に触れろとまでは言わないよ。ただ、優秀な教え子が
将来ケイネスの様になって欲しくないだけだ。分かってもらえるかなミス・トオサカ?」
最終更新:2009年12月01日 19:01