213 名前: Double/stay night ◆SCJtHti/Fs 投稿日: 2006/09/07(木) 00:40:08
参 細かい事は後だ。ひとまず家へ招待する。
少し眠って、目が覚めて。桜は自分の体が熱く火照っている事に気がついた。
のどが渇いた。汗が凄い。正規から喉元までこみあげる熱いマグマ。鼓動が耳の奥に伝わってくる。目の奥に搾り取られるような痛みが走って、額の両端がズキズキと鳴り響く。
「せんぱい……」
はあ、はあ、と呼吸がうるさすぎる。胸が苦しい。桜はただ、誰かに助けてほしかった。誰でもいい。士郎でも、慎二でも、蟲でも、臓硯でも。乱暴に秘裂を割り裂いてだらしなく蜜を垂らす膣で暴れてひくつく子宮を壊してくれるなら。そう、飛び込めるなら今すぐに。
———あのおぞましい蟲蔵に、裸で飛び込んでしまいたかった。
「やだ……。やだよぅ、せんぱい……」
いま、自分は何を考えたのか。桜はそれを知って絶望した。あれほど憧れた日常を手放すのか。あんなにも怖かった日々を望むのか。性欲に燃える肉体は上限を知らず。よりいっそうの陵辱を渇望して止まらない。桜は一刻でも早く、士郎に助けてほしかった。
抱かれたい。抱いてほしい。暴れる体を抱き締めて、強く強い口付けが欲しかった。士郎。衛宮士郎。彼の逞しい胸板が、太く鍛えられたその腕が、なんでここにはないのだろう。士郎を渇望する手はシーツだけをむなしく掴み、しかしその時、指先に柔らかい感触があった。
それはぬいぐるみの欠片だった。桜の腕ほどもある兎の耳。士郎と一緒にデートをして、彼に買ってもらった思い出の品。大切にしていた記念のそれを、桜は迷わず口に含む。
「ふぁ、んぁ……、……せんぱいの。おおきい……」
うっとりと、陶酔した瞳でしゃぶっていた。耳は士郎の味がした。桜には分かっている。それがどんな行為なのか。彼女は一時の満足の為に、最愛の人への想いまで穢そうとしているのだ。汚れきった体をしずめる為に。
唾液を含みべとべとに濡れていくぬいぐるみの生地。士郎のそれはどんな形なのだろう。大きいのか。太いのか。長いのか。それを夢想し、桜は涙ながらに舐めまわす。空しくて、悲しくて、悔しくて。そしてなにより、求めずにはいられない自分が申し訳なくて。
兎の耳はいつまでたっても堅くならなかったけれど、桜の蜜は溢れていく。もどかしい動きで下着を脱いだ。熱い肌に冬の温度が心地いい。豊かな胸で耳を挟んで、その頂きを下で舐める。なんて、なんて甘美な夢なのか。押しつぶされそうな性欲の中、桜は一人恐怖に震えている。
「……ぁ、ぁあ、せんぱい……」
もう、愛液は十分溢れていた。開いていくそこに、柔らかいそれを押し付ける。擦り付け、挟み込み、動かして蜜を吸い込ませる。淫らにも腰をくねらせて、指で割れ目を掻き回す。唾液と愛液をこれでもかと与えられ、兎の耳は湿っていく。
片手で花園をいじくりながら、ぬいぐるみの耳を口に含んだ。桜の唾液と密の味。精液の味はしなかった。それは悲しみのカクテルなのか。ごめんなさいと泣いて謝りながら、なおも激しく溺れていく。偽物とはいえ、士郎の男根を独占できる事に確かな歓びを感じながら。
———それならいっそ、先輩のも切り取ってしまおうか……。
214 名前: Double/stay night ◆SCJtHti/Fs 投稿日: 2006/09/07(木) 00:40:58
「お兄ちゃんの家に?」
「ああ、よかったらどうだ? ここよりは少し話しやすいだろ。茶ぐらいはだすぞ」
信じられなかった。魔術師の息子の癖になんて事を言い出すのか。危うく飲みかけの紅茶の缶を落としそうになったイリヤは士郎の正気を本気で疑い、しかし紛れもなく正気だという結論しか出なかった。
……つまりそれは、余計にタチが悪いということなのだが。
魔術師にとって、その本拠地とはすなわち自分専用の要塞だ。初対面で工房に招くなんて喧嘩を売っているに等しかった。まして、今は聖杯戦争の真っ最中。たとえ昼間とはいえ、明らかに敵対するマスターである自分を招待する事は、あなたを暗殺する準備は万端ですよと宣言するのと同義ではないか。そう思って、イリヤは士郎を睨み付ける。
「シロウ。自分が何を言ってるか分かってる?」
「イリヤ? ……なにがさ」
しかし、士郎はよほどの馬鹿か役者なのか。その瞳は微塵たりとも敵意がなく、むしろ心配する様子でイリヤを見ている。……それは、イリヤの弱さなのだろう。どうか前者であればいいと願ってしまったのは。
こんなとき、イリヤのサーヴァントは役に立たない。アサシンは直接的な戦闘では最弱だった。おまけに霊体化もできなくて、とどめとばかりに容姿は士郎に瓜二つときたのだから。
だけどイリヤは寂しくて。
切嗣の家に興味があった。士郎ともっと話したかった。別に明日でもいいじゃないか、と理性はいう。全くもってその通りだった。イリヤの願いはそれほど急ぐ必要もなく、ましてそこまでのリスクを背負うべきでもない。それでも、イリヤは信じたかった。
「……ま、いっか」
「イリヤ?」
「ううん。嬉しいなって。それじゃあお邪魔するね! お兄ちゃんの家に!」
イリヤは幼く子供らしく、外見相応にクルクル回ってはしゃいでみる。それは必ずしも演技ではない。本当にワクワクしていたのだ。イリヤは士郎の家を訪ねたかった。もし、これが原因で命を落としても、定めとあきらめる事ができるかもしれないほどに。
どうせ、先の見えた命だし。
出合い頭に頭部に二発。続けざまにもう二発。アサシンは躊躇なく引き金を引き、言峰綺礼は絶命した。
血液と脳漿が床にこぼれる。ピクピクと体が痙攣している。そんなグロテスクな光景も、もはやもう慣れきった。用意していたガソリンを片手に、アサシンは地下室へと向かっていく。
孤児達を一人一人ナイフで突き刺し、苦しまないよう、一息で確実に殺していく。それはアサシンにできる唯一の手向けであり償いだった。
その存在を知ってから、どれほどあがき助けようとしただろう。幸せにしてやりたかったし、回復させてやりたかった。だが、永遠とも思える苦悩のはて、結局は切り捨てる事しかできなかったのだ。
それも既に昔の話。切り捨てる事にはもう慣れた。慣れたとごまかさなければ過酷すぎて、歩き続ける事などできなかった。
火種をセットし、脱出した。これでどうにか成功のようだ。あの化け物が帰ってくる前に、綺礼をこの世から消去できた。頸城さえなくしてしまったなら、後の行動は予想しやすい。最古の王は欲望のまま、女を求めて舞台に立つだろう。
アサシンの頭に、ふと一つの不安がよぎった。衛宮士郎と遠坂凛は、きちんと同盟しているだろうか。大丈夫なはずだ、とアサシンは考える。だがしかし、先日出会った一人の少女、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの存在が気になった。アサシンが記憶する限りなら、このパターンはもしかすると———。
とっくの昔に忘れたはずの、原初の悲劇が胸を襲った。
215 名前: Double/stay night ◆SCJtHti/Fs 投稿日: 2006/09/07(木) 00:41:52
大騒ぎだった。とにかく大変な事態になった。士郎がイリヤを連れて帰ったとき、玄関にでたのはルヴィアゼリッタだった。もう起きても大丈夫なのかと心配する士郎を眼中にも入れず、彼女はイリヤに集中している。
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します」
行儀良くスカートの裾を持ち上げ、まるでお嬢様のように優雅なお辞儀をするイリヤ。そんな彼女を睨み殺そうとでもいうのだろうか。ルヴィアゼリッタの目付きは鋭く、手には宝石が堅く握られる。
「———アインツベルン。ミスタ・エミヤ、あなた、私達を裏切る気ですか?」
「……なんでさ」
かばおうとする士郎も同罪だというのか。ルヴィアゼリッタの表情は怒りに燃え、悔しさで満ちあふれて溢れだす。
「信じてましたのに。会って間もないですが、あなたは素朴で正直な方だと思ってましたのに……。セイバー! ———ライダー! おいでなさい、敵ですわ!」
「よくわからんけど誤解だって! 落ち着けってばっ!」
時計は既に午後四時を回った。遠坂凛はいまだに少し寝ぼけた頭のまま、サーヴァント達の用意した食事を食べる。エミヤの入れる紅茶は今日もやっぱり最高で、思わず夢の世界に帰りたくなってしまう。
「それで、今日はどこを回るのです? マスター」
凛とエミヤが談笑していたのが気に入らなかったのか。カレンの言葉にはわずかながらも刺がある。それに凛は苦笑して、エミヤは肩をすくめて唇を釣り上げた。
「マスター」
「……ええ、ごめんなさい。そうね、どうせだし今日は思いきって———」
今日は夜までたっぷり時間がある。準備をするなら万全の体制を整える事もできるはずなのだが———。
最終更新:2006年09月14日 16:21