13 :ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU:2009/07/17(金) 23:09:09 ID:/naWHShA0
間違いない、弓塚だ。特徴的なツインテール、夜のライトに映える茶髪。
ただ目に光がなく、無意識に人の波をかわしている印象を受けたのが気になった。
「ゆみ……」
声をかけようとレンをすり抜けて右手を上げようとして、その手をおさえられた。
「レン?」
「…………」
レンは俺の顔を見ずに、まっすぐ弓塚を見据えている。七夜と対峙した時の殺気は感じられないが、
それに匹敵するような険しさがあった。
「どうした? すぐそこに弓塚が」
「…………(フルフル)」
「お、おいレン」
首を振って振り返り、元来た道へと引っ張る。一体何がどうなってるのかさっぱり分からない。
「ちょっと待てレン。俺は弓塚を探してたんだぞ。何で見つけてすぐ帰らなきゃならないんだよ」
「…………(キッ)」
俺が抵抗しているとレンはさっきと同じきつい目で俺を睨みつけた。黒い少女のまっすぐな視線に
俺は気圧されながらも抗議を続ける。
「何か理由があるのか? 理由もないのにこんな理不尽なことしないだろ、レンは。教えてくれよ」
気まぐれで何を考えてるかよく分からない所はあるけれど、ただ何となくでここまで必死になること
はないはずだ。
探し人の気配が段々と小さくなっていく。答えを待つ時間はそれほどない。俺とレンは人が流れる中
立ち止まって向き合った。
「レン」
「…………」
拗ねたようでもなく、見下すでもへつらうでもない、一つの純粋な意思が瞳の中にあった。それは、
「……警告?」
コク、とレンが頷く。近づいてはいけない、触れてはいけない、名を呼んではいけない。今の彼女は
危険だ。
そう言っているようだった。
「そんな。さっきの様子見ただろ? 明らかに普通じゃなかっただろ」
「……(フルフル)」
俺の言葉はレンの考えを覆すには足りないようで、頑なに否定するだけだった。
俺は強引に腕を振り払って踵を返した。
「……っ」
「それでも行くよ、レン。今あいつが危ない状態なら尚更だ」
こうしている間にも弓塚との距離は離れていく。俺は言い捨てるようにレンを置いて歩き出した。
背中からは言いようもない昂ぶった視線が突き刺さるが、あえて無視して人の波をかき分けるように進んだ。
14 :
ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU:2009/07/17(金) 23:11:18 ID:/naWHShA0
「弓塚っ」
背中に声をかけることができたのは公園だった。追いついた時には空は完全に暗がりになっていて、人通りもまったくない。
弓塚は立ち止まってくれたが、振り向くことはなかった。空気のようにつかみ所無い儚げな後姿しか見ることができない。
「弓塚!」
もう一度、強く彼女の名を呼ぶ。俺の胸の中で焦りにも似た何かがこみ上げてくる。
「とおの、クン?」
いつもと違うイントネーションで言葉が発せられる。しかし、その場から動くことはせずに背中ごしからの声だった。
「そうだ、俺だよ」
「……そっかぁ」
返ってきたのは何故か自嘲じみたなげやりな声。明るい声を聞いて俺は無意識の内に姿勢を低くしていて、
いつでも動ける状態になっていた。
何かがおかしい。レンの警告とはこのことだったのか。
「だめだよ、遠野くん。わたしを見つけちゃ。せっかく何も考えないようにしてきたのに」
「…………」
「ううんチガウ。本当は見つけてほしかった。だから嬉しい、死んじゃいたいぐらいに。幸せだな、シアワセだなぁ」
「…………」
「だめ。遠野くん。今だけはだめ。ほんの少しでいいから時間をちょうだい。そうじゃないとわたし……」
「弓塚?」
「ちがう、チガウの。わたしは、わたしは……」
弓塚は否定した言葉を否定するちぐはぐなやりとりを一人でしている。その声は何かに急き立てられているような声だった。
街灯の明かりを浴びるように仰ぎ見ていて、ここからでは表情がまったく読み取れない。と、
「………………ねぇ」
うって変わって落ち着いた声。何か冷たいものに触れたような錯覚を覚えながらも、逆光で表情は見えないがようやく振り向いてくれた。
「遠野くんは、わたしのこと好き?」
「え?」
平坦で抑揚のない声。その言葉に何が含まれているのか、俺は理解することができずに聞き返すことしか出来なかった。
「単純に考えてくれればいいの。その考えを、教えて?」
「俺は」
意図が分からずに口が次の言葉を成せずにいる。
「もし、遠野くんが好きでいてくれてるなら」
弓塚が両手を胸にあてる。何かを願うように、何かを待つように。
「…………今すぐ、わたしを抱きしめてよ」
俺は、
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最終更新:2009年12月01日 19:42