45 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/07/28(火) 04:14:06 ID:KmJbWd8U0


 視認も許さぬ剣の雨。魔弾の射手は自身に倍する敵を物ともしない。

「なに───これは……!」
「イリヤスフィース、退がって……!」

 黒い剣士が足止めを余儀なくされ、白い剣士は踏み込むことも出来ない。
 最優の剣の騎士が二人。所在の知れた弓の騎士を間合いに捉える事も適わず。
 勝敗は、その初撃をもって決したかのような有様だった。

「……嘘、こんな事って……」
「あれ、どうしたんですか? そんなに驚いた顔をしちゃって?」
「っ……馬鹿にして! もう謝っても許してあげないんだからッ!!」

 思わず漏らしたイリヤスフィールの呟きに、絶対の勝利者として君臨するアーチャーは、残酷なまでの優しさをもって嘲笑する。

「セイバーッ、そいつの宝具は“弓”よ! 強力だけど数が少ないから無駄撃ちを誘って!!」
「了解しました! イリヤスフィールは射程外で待機を!!」
「そんな事は言われるまでもない! 黙っていろ!!」

 アーチャーの嘲弄に激昂したかに見えたイリヤスフィールは、だが冷静だった。
 何も正体不明の射出宝具を正面から受ける事はない。
 速射を得意とする弓兵に迫るのではなく、その周囲を旋回することで魔弾の切れ目を見つけるこの試みは、しかし……。

「躱せぬ……だと……?」
「ぐっ……ここで真横からくるか……?」

 躱した筈の因果逆転の槍に背中を抉られた白い剣士が転倒し、旋回する進路を妨害するように現れた鎚矛に脇腹を撃たれた黒い剣士が宙を舞うこと

で終わった。

「あれ? これで終わりかな?」

 そうして放たれる止めの一撃。
 白い剣士が立ち上がるより迅く、黒い剣士が着地するより迅く、魔弾の射手は躱しようもない瞬間に四挺の宝剣を放つ。

「ありゃりゃ、躱されちゃいましたか」

 ……その一撃を予見していたように防いだのは流石ではあるが。

「今の槍か……いや、それはいい。問題は私の背を抉った槍が何処に消えたかということだ……」
「この攻撃は似ているが違う……あの男のように単調な攻撃なら如何様にも対処できた……」

 だが状況は何も変わっていない。
 二人のセイバーは、未だにアーチャーの攻撃を捉えられずにいる。
 何らかの宝具による攻撃を受けていることは理解できても、その正体、その原理は想像すらできない。

 ……そう。
 油断とも慢心とも無縁なこのアーチャーは、射撃の瞬間───つまり己の手の内を見せることすら許していない。
 その宝具を戦場となった空き地が跡形もなく破壊されるほど使用しているにも関わらず、超音速で飛来する物体すら視認するサーヴァントが二人も

その瞬間に存在しているにも関わらず、である。

「休んでいる暇はありませんよ二人とも」
「『づ……っ!』」

 その理由は『運用法』の違い。
 アーチャー───英雄王ギルガメッシュの宝具である“王の財宝”とは、そもそも撃ち出される“蔵”の中身ではない。
 彼の宝具は黄金の都へ繋がる鍵剣。此方と彼方の空間を繋げ、宝物庫の中にある道具を自由に取り出せるのがその能力である。
 だがそれならば、なにも此方の周囲に『待機』させる事はない。
 彼の青年体は己の財を周囲に侍らせ、その威容、その事実をもって自らの名を高らかに謳い上げることを好んだが、幼年体はその手順を無駄と断じ

た。
 召喚、展開、待機、射出という四つの工程と、召喚、直ちに射出という二つの工程のどちらがより戦闘に適しているかは一目瞭然。
 それに加えて数に任せて撃ち出すのではなく、相手の進路を妨害する足止めや、本命の攻撃を当てるための牽制を交えるとあらば、その効果は飛躍

的に高まるというもの。

 その総量は後の世に散逸した全ての宝物を含むという英雄王の財。
 そして使用者の財があればあるほど強力な宝具となる王の財宝。

「セイバーさんの戦いぶりは賞賛に値しますけど……そろそろ飽きてきたので終わりにしますね?」
「うわあああ……!」
「ぐああああ……!」

 それ故に奮闘した二人の剣士が、王の財宝を巧みに使いこなした幼年体に敵わぬのは当然のこと。

「『っ……これしきの傷で……』」

 利き腕と利き足を潰されてなお立ち上がる二人の騎士。
 それを感心したように見やるアーチャーは無敵の存在だった。

 ……むしろ。
 いやだからこそ彼の敵は……。

“───痴れ者め。アレは王である我の物だぞ!?”
“───うるさいなあ。さっきからワケが分からないコトをわめかないでくださいよ、もう”

 今は魂の奥底に沈殿するもう一人の自分だった。

“ふん、やはり貴様には解らぬか。王にはな、王に相応しい勝利というものがあるのだ。貴様の戦いには王の誇りというものが決定的に欠けている”
“……例えば?”
“例えば……そうだな、高笑いだ”
“……………………………………”
“我ならば我が財を見せつける。騎士王の心を絶望に染め上げるほどの数を見せつけて、恐怖に彩られた顔をゆるり鑑賞してだな、我こそが唯一の王

である事を理解させた上で軍門に降す。───それこそがこの我に相応しい勝利というものではないか”
“……そうして手の内を晒して反撃されるんですね慢心王(あなた)は”
“慢心せずして何が王かッ!?”
“だからあなた(慢心王)みたいになりたくないって言ってるんですッ!!
 ……知ってますよ。聖杯さえ背にしていれば攻撃されることはないと高をくくったあなた(慢心王)がどんな醜態を晒したか”
“だから貴様には王の誇りが分からぬという。……良いか。己の道というのはな、損得勘定で破棄していいものではない。最後まで貫いてこその道で

あると知れ”
“で──────王の道は慢心であると言うんですね?”
“如何にも”
“あはは、もう死んでくれないかなこの人……!”

「ふうん……思ったよりやるじゃない、貴方」

 内なる意思と決別した少年が呆れたような少女の声で我に返る。
 見れば戦闘不能に追い込んだはずの二人も傷を癒して再起していた。

「でもセイバーに止めを刺さなかったのはいただけないわ……なに、余裕のつもり?」

 ……その言葉が胸に痛い。
 アーチャーとしては別に余裕のあまり敵の再起を許したわけではない。
 だが傍目には慢心の極地と見えるもの事実。
 せめてもの救いは恥ずかしい自問自答を聞かれなかったことだけ……。

「……まあいいじゃないですか」

 バツが悪そうな顔をしたアーチャーは照れ隠しに微笑み続ける。
 その頬を神経質に痙攣させて。
 その顔に自暴自棄と自嘲すら浮かべて────

「セイバーさんの一人や二人、はっきり言ってボクの敵ではありません。どうしても倒したければ、せめてその三倍は数を揃えてもらわないと」
「ええ、最初からそのつもりよ」

 ……眉をひそめたのは一瞬だった。

「な────?」

 第三の攻撃を王の財宝に防がせたアーチャーは言葉を失った。
 振り向いた先には、可憐極まりない騎士の姿。
 性別を偽装するための武装ではなく、際立たせる武装を纏いし少女。

「セイバー・リリィ、参る」

 それがアーチャーに襲いかかった。

「くっ……!」

 剣撃の苛烈さは先の二人に劣るものではない。
 セイバー・リリィと名乗ったこの少女。
 生まれながらに王の娘として育てられたこの騎士姫は、騎士王に勝るとも劣らぬ強敵……!

「だが対処できないほどじゃないッ」

 白い剣士と黒い剣士を退けたのと同じ手並み───絶対に回避できない剣群を見舞う。

「────させぬよ」

 だがその攻撃は第四の騎士によって阻まれる。

「アーサー……余計な手出しを」
「やれやれ、気難しい姫君もいたものだ。これが異なる世界の“私”とは、愉快と言っていいものかどうか」

 ……今度は男性だった。
 どこか皮肉な笑みを浮かべた騎士───不可思議な障壁で王の財宝を防いだ騎士王は、騎士姫を庇ってアーチャーの前に立つ。

「……あやや。本当に六人いますね、これ」

 もはや驚く気にもなれない。
 イリヤスフィールの隣には、明らかに員数合わせくさいメイドセイバーが姿を現し。
 その後ろには、明らかに偽物くさい仮面の騎士まで姿を現そうとしていた────

「言ったでしょう、わたしの“セイバーたち”は最強だって」

 勝ち誇る少女に答える気にもなれない。
 だが答えないわけにはいかない。
 なぜなら彼は英雄王ギルガメッシュ。
 たとえ未熟な幼年体であろうと、その誇りだけは譲れない。

「───悪いんですけど」

 だから彼は言った。
 その頬を悪戯に歪めて。
 その顔に茶目っ気とツッコミ待ちの表情すら浮かべて────

「急用を思い出しました。命拾いしましたね、みなさん」


47 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/07/28(火) 04:17:22 ID:KmJbWd8U0


 ○アナウンス
  *イリヤスフィールの登場と六騎のセイバーの登場をもって『聖杯戦争勃発フラグその3』の成立となります。
  *残るフラグは空席の四つに誰が納まるかで決まります。


 ●言峰士郎のステータス
  *遠坂桜の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)より+2
  *間桐凛の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+8
  *間桐慎二の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+6
  *美綴綾子の言峰士郎に対する好感度初期値(+6)より+1
  *柳洞一成の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)
  *言峰可憐の言峰士郎に対する好感度初期値(±0)より+2
  *タイガースタンプ一個獲得。

 ●遠坂桜ステータス
  *言峰士郎の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+1
  *間桐凛の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+4
  *間桐慎二の遠坂桜に対する好感度(+12)より+4

 ●間桐凛のステータス
  *言峰士郎の間桐凛に対する好感度初期値(+6)より+6
  *遠坂桜の間桐凛に対する好感度初期値(±18)より-4
  *間桐慎二の間桐凛に対する好感度初期値(+12)
  *三枝由紀香の間桐凛に対する好感度(+6)より+2

 ●間桐慎二のステータス
  *言峰士郎の間桐慎二に対する友情度初期値(+6)より+6
  *遠坂桜の間桐慎二に対する軽蔑度初期値(±0)より-4
  *間桐凛の間桐慎二に対する哀れみ度初期値(+6)+1
  *言峰可憐の間桐慎二に対する嗜虐度初期値(-256)より+2048


 【正】そのころ言峰士郎に誘われた間桐慎二はうだるような熱気のなか全裸で切ない吐息を漏らしていた(慎二→士郎の好感度上昇、可憐→慎二の

嗜虐度上昇)
  【生】そのころ間桐凛の寝間着を脱がせて裸にした遠坂桜は一糸まとわぬその身を重ねようとしていたとかいないとか(桜→士郎の好感度上昇、凛←→桜の好感度上昇)?
 【聖】イリヤスフィールの事情と、なぜか六人もいるセイバーそれぞれの事情(タイガースタンプ一個獲得)

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最終更新:2009年12月01日 20:10