33 :うたかたの:2009/07/25(土) 22:00:01 ID:tHd6bpdc0


 これは己の不運か、それとも天意、すなわち世界の悪意か。
 だとしたら相変わらずくだらない真似をする、とアーチャーは二人の剣士を辟易したように見やった。

「なぜ貴女が、ここに?」

 己が前方には白き聖杯を守護する白銀の剣士が。

「貴様らの帰りが遅いから迎えに行ってやれ、とキリツグに言われたからだ」

 己が後方には問答無用の不意打ちを仕掛けてきた漆黒の剣士が。
 互いに相手を警戒し軽蔑しきった表情で互いを睨んでいた。

「…………」

 面倒なことになった、と思う。
 だが予感はあった。もう一人の存在を予見したわけではないが、疑わしいとは思っていた。
 そもそも十年前に汚染されながら純化したといのが不自然なのだ。
 如何なる意図によるものかは定かではないが、敵地に等しい学園に編入した聖杯の娘に付き添い守護する敵。
 その姿があの泥を浴びる前に戻っていると判明した途端、内なる意思は追撃を命じた。
 その意思は拒否できない。拒否すれば肉体の主導権を奪われる。彼の青年体が具現するような事態は出来れば避けたかった。

「だがその話は後にしよう。この子供が何者かは知らぬが、敵ならば斬り伏せるのみだ。───まさか異存はあるまいな“騎士王”」
「敵ならばそうしよう。……だが貴女と共闘するなど願い下げだ」
「この敵に遅れをとった貴様がよく言う」

 ……その結果がこれだ。
 白と黒。二人の騎士王を相手取る事態。流石のアーチャーもここまでの事態は想定していなかった。

「……まあこんなコトになっても不思議じゃないって諦めはついてましたけど」

 それは言峰士郎に呼び出されて遠坂桜の尻拭いをさせられた時からか。
 それとも深山町の商店街で三枝由紀香との語らいを邪魔した自称未来のハリウッド女優・蒔寺楓と不幸な遭遇を果たした時からか。

『キッキッキ、まさか由紀っちにこんな年下の彼氏がいるとは思わなかったYO☆』
『えー、この子は弟の友達だよ蒔ちゃん』

 まあその話は後にしようと気を引き締める。
 前方には余裕の笑みを変える事のない聖杯の娘と、こちらの動きに全神経を集中する白き騎士王。
 そして背後には十年前に受肉し、彼の言うところによれば飼う価値すらなくなったという黒き騎士王。

「貴方が誰か知らないけど……ここまでね。まさか勝てるとは思ってないでしょう? わたしの“セイバーたち”は最強なんだから!」

 子供っぽく自慢する少女の台詞に思わず失笑するところだった。
 最強を誇るセイバーが二人───だがその認識は増長以外の何物でもない。
 脅威ではなく、敵ですらない。魔力不足のため乖離剣を抜くことは適わないが、この程度の敵、王の財宝で処理するに十分過ぎる。
 だからアーチャーは言った。
 その頬を邪悪に歪めて。
 その顔に高揚と嘲笑すら浮かべて────


 【慢】セイバーさんが二人? このボクを倒したければ、せめてその三倍は持ってきてもらわないと。)
 【心】うるさいなあ。さっきから『アレは王である我の物だ』ってわめかないでくださいよ、もう。

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最終更新:2009年12月01日 20:14