122 :とある魔術師と超電子箱 ◆yfIvtTVRmA:2009/12/01(火) 23:11:07 ID:X4yt.TB20
ゲームを始める時、一回目と違い凛は多少の操作を加えていた。
オープニング音が鳴る中タイトル下のカーソルは2プレイの方を指している。
エルメロイはそれに気付き、凛に注意を呼び掛ける。
「ミス・トオサカ、カーソルが二人プレイの方になっているのは間違えたのかね?
それとも私にもプレイしろと?」
「そんなわけありませんわ。これはわざとやったんですよ」
やがて、1ステージの画面に切り替わり、画面中央に緑と赤の二人の農夫が現れる。
「いくわよ権ベ。田吾はそこで待っていてね」
権べ・田吾というのが農夫の名前であり、今回凛は緑の農夫の権べを操作する。
2Pの担当するはずだった田吾は、ぽつんとその場に寂しそうに残され、やがて―
(テンテテンテ テンテン テンテンテン テン)
敵忍者の投げる手裏剣を受け回転しながら天に召されていった。
直後、残機が1減り復活する田吾。その間に凛の操作する権べはステージ内の小判を悠々と集めにいく。
「なるほど、エグイ事を考えたね」
「別にこの試験において反則じゃないでしょう?」
そう、これこそが凛が思いついた計画の一つ。名付けてゴッドハンド戦法。
ようは動かない2Pをおとりにしてクリアーするズル技。
開始直前にふと二人プレイ始めたら残機2倍みたいなものかもかしらと閃いて試してみたら、
うまい具合に忍者は田吾の方に向かってくれるわ復活直後は無敵らしく結構持つわで上手く肉壁として機能している。
だがこんな作戦いつまでも上手くいくものではない。最後の小判を入手するより前に田吾の残機は尽き、
ついにその生涯を終える。必然的に手のあいた忍者達は権ベの方を攻め、敵の濃度は本来のそれに戻る。
(さーて、頑張って画面端に見える小判を取ればこのステージはクリアできるけれど)
そう、後一枚右下に見える小判まで移動させればクリアーになるのだが、凛は権ベを動かさず
忍者の攻撃を待つ。やがて二人の忍者が斜めから手裏剣を投げてきて凛はあっさりとそれを受ける。
(テンテテンテ テンテン テンテンテン テン)
本来ならありえないはずのワンミス、そして復活後も凛は権ベを小判に向かわせず、敵の攻撃を待ち
今度はギリギリで避けながら鎌で忍者を倒していく。
「ミス・トオサカ、なぜクリアしない」
「ちょっと黙っていてくれませんか?今距離をつかんでいる所なので」
これまでの田吾の犠牲には肉壁以外にももう一つの意味があった。田吾の死と先程のワンミスで凛は
大体を理解する。農夫はどこまで手裏剣が刺さったら死ぬのか、いつかわせば間に合うのか、
どのくらい体を動かすとファミコンはひっくり返るのか。
幸い、このゲームにタイムアウトは無かった。凛は後の面のノーミスクリアの為にここに時間を費やし続ける。
「さあ権ベ、あなたはここで戦いを学ぶのよ。勝つ為じゃなく負けない為の戦い方をね」
―――――体は鎌で出来ている。
手塩にかけて 肥料は鳥糞。
幾たびの冬を超えて不作。
ただの一俵も蓄えはなく、
ただの一度も減税されない。
田のものは常に独り 段々畑で小判に酔う。
故に、相方の生涯に意味はなく。
その体は、きっと鎌で出来ていた。
(アンリミテッドブレイドワークス戦法完成よ!)
元より動体視力は一般人の倍以上ある凛、このステージの経験で距離感はバッチリだ。
凛の目から見て権ベはもうただの農夫ではない、無限の武器を複製投擲し戦闘のプロ達と
渡り合う戦士の姿をその背中に見ていた。
後は落ち着いてプレイすればもう手裏剣は当たらない。そのはずだった。
最後の小判の奥にある、田んぼに突き立った竹槍を見るまでは。
最終更新:2009年12月11日 20:50