821 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/14(月) 23:11:57

 さすがにそれは……普通に着替える。

 桜が落としていった服を拾い上げる。そう言えば、確かに着替えのことを失念していた。
 桜が気付かなかったら、俺は今頃タオル一枚で桜にばれない様に自室までのスニーキングミッションを遂行していたことだろう。

「……はあ」

 思わず溜め息を吐いてしまう。
 とりあえずは、生徒会室に行く前に弓道部にでも顔を出す事にしよう。
 また美綴がしつこく何かを言ってくるだろう事を思うと少し気が重いが、背に腹はかえられないのである。
 そうこうしてる間に、着替えは終了。
 桜が着替えに制服を用意してくれたおかげで、俺もこのまま学校に直行できる。鞄は玄関に用意済みなのだ。

「よしっ!」

 気合を入れなおす。
 もう追いつけないことは分かっているが、それでも急がずにはいられない。
 出遅れた分を取り戻すべく、校則違反ではあるが自転車一号(ビヤンキ)に乗っていくことにする。
 ええい、門の鍵をかけるのが面倒だ! どうせ盗られる物などないし、結界だってある。盗みに入られることはないだろう。
 そうと決まれば、後は行動あるのみ。
 早速脱衣所を飛び出して玄関に向かう。

 と。

「おっはよー! って、士郎ってばそんなに急いでどこいくのー?」
「え、先輩もう学校に行くんですか?」


 なぜか、居間に桜と藤ねえがいた。


「……あ、れ……?」

 思わず首を傾げる。なんでここにいない筈の二人がいるんだ?

「なによー人の質問にはちゃんと答えないといけないのよー。無視するなバカ士郎!」

 黙れバカ虎。
 そんなことよりも、今は桜に訊かねばならないのだ。

「……桜。さっき玄関の扉の音がしたけど、学校に行ったんじゃなかったのか」
「え? それは藤村先生がいらっしゃっただけですけど……?」
「うわーん、弟に無視されてお姉ちゃん悲しいよう! はっ! もしやこれが愛情の裏返し、今時で言うツンデレってやつなのね!?
 きゃー! 士郎ったら恥ずかしがっちゃって!! そんなの気にせずにわたしの胸に飛び込んでおいでマイブラザー!!!!」

 とりあえず藤ねえ自重しろ。

 まあ、これで疑問は解けた。
 何のことはない。俺の勘違いだった、というわけだ。
 ——それじゃあ、疑問も氷解したところで、先に言うべきことを言ってしまうとしよう。

「桜」
「はい?」
「さっきはお礼言えなくて悪かった。ありがとな、桜が着替え持ってきてくれなかったら今頃困ってた」

 感謝の気持ちをはっきりと口にする。
 少し気恥ずかしかったが、こういうことはきっちりしておかないと気がすまない。

「あ、いえ、お礼を言われるほどのことじゃないですから……」
「そんなことない、本当に助かったと思ってる。もう一度言うぞ。ありがとな、桜」

 だんだんと声が尻すぼみになっていく桜にもう一度お礼を言うと、桜は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 そんな女の子らしい仕草に、思わずドキリとする。
 鏡を見なくても分かる。俺も、桜に負けず劣らずの真っ赤な顔になっているだろう。

 そんなバカップルもどきのことをしている内に、時間は刻一刻と過ぎていく。

「あ、藤村先生。朝ごはん早く食べないと学校に遅れちゃいますよ」
「ぬぬぬ、それは一大事。ほら、士郎も座って座って。じゃあいただきまーす!」

 俺より早く立ち直った桜が藤ねえを促し、俺は藤ねえに促される。
 まあとりあえず色々考えるのは後にして。
 虎に食い尽くされる前に、おいしい朝食をいただくことにしようかな。


 ———朝食を食べながら考え込む。今日は学校に行って、

 わ.普通に過ごそう(放課後までスキップ)
 か.弓道部に寄っておこう。
 め.いいや、やっぱり学校をサボろう。

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最終更新:2006年09月14日 16:56