947 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/17(木) 22:36:09
———さて、大見得切って次回予告まで出してしまったわけだけど、話は未だ先に進まないのであった。
『あはー、ちょっと先走ってしまったみたいですね』
言ってることとは正反対に、後悔と言う言葉を微塵も感じさせないぐらいに明るい口調で言うルビー。
しかしルビーの言う通り、さすがに次回予告はまだ早すぎたらしい。時間を確認してみればまだ昼を過ぎたあたりだった。
そう言えば、鞄の中に弁当を放置したままであることを思い出す。
……ちょうどいい。腹も減ってきたことだし、昼食にしよう。
そう思って立ち上がろうとした俺だったが、
『あ、ダメですよー。今からルビーちゃんのカレイドソード講座を始めるんですから』
と、ルビーに引き止められる。
ちなみに、ジャスティスではなくルビーと呼んでいるのは語呂が悪いからではなく、中の精霊(ひと)は変わっていないからである。
「……でも、飯抜きはさすがにキツいぞ?」
そんな俺の心配をよそに、ルビーは『違いますよー』と、オモチャの杖からオモチャの剣へクラスチェンジした姿でアピールする。
『いえいえ。すぐに終わりますのでお食事はその後で、と言いたかっただけです。断食でござる、なんて野暮なことは言いません。
別にいまから食べちゃっても構いませんけど、後悔するかもしれませんよ?』
「む、分かった。それだったら我慢する」
何を後悔するのか気になったけど、聞くだけでも後悔しそうなので聞かなかったことにした。
『良いお返事です! それでは早速このカレイドソードの使い方をご説明しちゃいましょう! では、まず場所を変えますねー』
場所? と、ルビーの言葉に俺が首を傾げていると、
———ズガン、と後頭部にあってはならない衝撃が走った。
なぜか分からないけど星が見えたスター! ほ、星! 絶対に三ツ星が飛んだー!
ぐらり、と視界が反転する。
目の前に土蔵の床が迫ってきたかと思いきや、唐突に、なぜか自分が道場の真ん中辺りに立っていることに気が付いた。
……なにやら、空間がオカシクなってしまったらしい。
どこぞの異空間に繋がってしまった模様。
ココハドコダ、オレハダレダ。
ほら、なんか剣道着を着た師範代と体操服にブルマな弟子が、その辺りの隅っこの方に立ってる気がする。
『こほん。それではまず、カレイドステッキからカレイドソードになったことで、男性も変身が行えるようになりました。これはご説明しましたよね?』
この不思議時空を完全無視。
さすがはマジカルルビー、伊達にマジカルという名前は付いていない。
そんなことを考えていられる俺も、混乱の極みに達してぐるりとそのまま一周し、逆に冷静になり始めているようである。
『それでそのことなのですが、”変身”と言っても、カレイドソードの変身はカレイドステッキの頃の変身とはちょっと違います。
過去(ステッキ)のコンセプトは魔法少女。今(ソード)のコンセプトは変身ヒーローなのです!』
「————変身、ヒーロー?」
『あれ、知りませんか? 意外ですねえ、正義の味方ファンの士郎さんなら大好きかと思ったんですけど』
えっと、……変身ヒーローというと、もしかしなくともアレだろうか。
日曜の朝からやってたりする特撮番組のアレ。
「『変身!』って掛け声で強化外骨格とか強化服に包まれて、なんか凄い力を手に入れるアレのこと、か……?」
『あはー、ぶっちゃけそんな感じです。私の場合は装甲に包まれることはありませんし、変身後の性能は基本的に契約者の身体能力のみですけれど』
「つまりパワーアップしないってことだな。……それって、変身の意味があるのか?」
『あるに決まってますよー。だからこそ私があるんです!
ソードの役割は魔力の貯蔵庫(タンク)。無数に存在する平行世界の魔力を取り出し、契約者へと供給するのです!』
ババーン! と、ルビーの背後で道場の主たちがなんか効果音出してる。
まあ、それは無視するとして、……平行世界からの魔力の供給か。
平行世界はそれこそ無数に存在する。そこから供給される魔力とは、すなわち文字通りの無限。なんというか、それは———
948 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/17(木) 22:37:11
「———魔術師には、嬉しい機能だな」
無尽蔵の魔力供給。魔法の恩恵。扱う者が扱う者なら、己が願いを叶える事もできるのだろう。
凄い。本当に凄いのだが……
『でも、へっぽこな士郎さんには宝の持ち腐れですけどね(はーと)』
「む」
まったくもってその通りなのだった。
強化もロクに使えない魔術師見習いとも呼べないような未熟者が、そんな大それた物を手にしても意味がないのである。
しかし自分でそうと理解していても、あんまりな言い草にカチンときた。
愉快型魔術礼装も宝と呼ぶには随分と酷いシロモノだろうと言い返したくなるが、後が怖いので黙っておく。
「じゃあ、変身しても結局俺はへっぽこなまま、ってことになるのか?」
『いえいえ、それは違います。さすがに契約者を死なせてしまうのは惜しいので、おまけの機能を付けておきました!
どんな機能かは実際に使ってみてのお楽しみです。その説明も後日いたしますので、楽しみにしていてください☆』
もったいぶった言い方をするルビーに、なぜだか途方もなく嫌な予感がしてきた。
まるでそれは『近い将来に変身する機会がありますよー』と、言われているようで。
しかもそれが事実であるということを、なんとなくだが理解してしまえるのである。
『それでは、カレイドソード講座・初級編はこれで終了です! また次回、中級編でお会いしましょう!』
その声をきっかけに、不思議時空が崩壊を始める。
意識はフェードアウトして視界はブラックアウト。
次に目を覚ます頃には現実世界に帰還していることだろう。
そして覚醒した俺が見た風景は———
最終更新:2006年09月14日 17:03