27 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/18(金) 16:07:42
「………………はっ!」
目を開ければ現実世界。
俺の成仏しかけていた霊魂は、奇妙な道場から殺風景な土蔵の中へと回帰していた。
何か、よくない次元にワープアウトしていた模様。
多分そう何回も行ったり来たりできない場所だと思うので、今後の行動はもうちょっとよく考える事にしよう。
そう結論付けて立ち上がる。すると、
「痛っ」
後頭部に走った鋭い痛みに顔をしかめる。思わず痛んだ箇所に手を当てて何が原因か考えてみるが、なぜだかその痛みの原因に思い至らない。
…………何かで頭を打ったりしてたっけ、俺?
まるで鈍器で思い切り殴りつけられたかのような痛み。鈍器と言えば、なぜか俺の右手に握り締められているカレイドソード。
纏まりそうで纏まらないそれらの事柄が、まるでシャボン玉のようにふっと頭に浮かんでは消えた。
頭を振って邪魔な思考を追い払う。
「——まずは、どれくらい気絶してたか確かめないとな」
最初にするべきことは時間の確認。
あの空間は異次元のものだから、帰ってきたら浦島太郎状態になっている、なんてこともないとは言い切れない。
まあ、それほど時間の経過速度は変わらないようなので、せいぜい一日経過しているかしていないか、というぐらいだろう。
辺りを見渡してみるが、土蔵にマトモに時を刻んでいる時計なんてありはしないので、まずは外に出る事にした。
———扉の向こうは、もう赤く染まり始めている。
……随分と長いこと土蔵にいたらしい。夕日に目が眩んでしまい、顔を屋敷の方へと背ける。
と。
「先輩! どこに行ってたんですか!」
そう俺に向かって問いかけながら、後輩である桜が駆け寄ってきた。
桜が息を乱して走るなんて、滅多に見ない光景である。その尋常ではない様子に思わず事情を聞いてみると、どうやら俺は一日ほど失踪していたらしい。
昨日の朝に弓道部に顔を出してからの俺の行動は、誰にも知られていない(筈だ)。
そして今は2月1日の四時ごろ。
となると、俺は実質的に一日と半日以上はいなくなっていたというわけになる。
……灯台下暗しとはまさにこのこと。まさか俺が土蔵で気絶しているとは桜も思わなかったのだろう。ちょうど入り口からは死角になるところにいたし。
「……悪い、心配かけた。土蔵で上から落ちてきた何かが頭にぶつかって、そのせいで気絶してたみたいだ」
「気絶っ——!? 先輩大丈夫なんですか? 病院に行かないでも平気なんですか!? 傷、そうだ、傷は!」
俺の言葉を聞いて、半ば錯乱してしまっている桜。
泣きそうな顔でしきりに俺の無事を確認しては、「痛いですか?」と尋ねてくる。
ここまで心配してもらえると、家族冥利に尽きるというものだが……まあ、とりあえず落ち着け。
そうこうしている内に、大分時間が経ってしまったらしい。
空の縁が闇色に染まり、夕日は半分ほどその身を地平へと沈ませている。二月という時期を考えると、今は五時前といったところだろう。
…………ん? 五時、前?
何か、忘れてる気がする。
何を疑問に思ったのか。その時間帯に何かあったのか。自分の記憶力にうんざりしながらも、どうにかこうにか思い出そうとして———
28 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/18(金) 16:08:44
「そうだ。————バイトっ!」
ようやく思い出した。
そう、昨日は夜からバイトの予定があった筈だ。となると、俺は連絡もいれずにバイトをすっぽかしてしまったことになる。
そしてバイトの予定は今日も入っている。
まだ頭が痛むが、これ以上の無断欠勤はバイト先の人に失礼だ。時間は多少キツいが、今から行けば最悪でも多少の遅刻で間に合うはずである。
ドタバタと忙しなく動き始めた俺を呆然と見ていた桜だが、突然に立ち上がると俺に向かって話しかけてきた。
「———あ、あの! 一体どうしたんですか?」
「すまん桜。ちょっと今からバイトに行って来る」
「バイトって、——その身体でですか!? ダメです、ちゃんと休んでください!」
「二日も連続で休むのはバイト先の人に申し訳ないだろ? それに傷はないし、そんなに痛みもないから大丈夫だって」
もう時間もあまりない。心配してくれてる桜には悪いが、いまはこれ以上無駄な時間を消費していられないだろう。
「桜、分かってくれないか? これでも家の経済事情は大食いの虎のせいで厳しかったりしなかったりなんだ」
俺の決定的な言葉に、うぅと口篭る桜。おそらく藤ねえの豪快な食べっぷりを思い出しているのだろう。
実際は雷画の爺さんに小遣いやらを貰ってるし、藤ねえは藤ねえで藤村組からミカンとか柿をパチってくるのでそれなりに余裕はある。
だけど、今の桜はこうでも言わないと納得してくれそうにないのだった。
「ふぅ、わかりました。じゃあ今日は無理せず早めに帰ってきてくださいね。わたしは早めに帰ってしまいますけど……」
「わかった。約束する」
桜が我が家の経済事情まで把握していなくて助かった。いつかはこの手も使えなくなるのだろうが、それまでは何度か使わせていただこう。
いつもは役に立たない藤ねえに今日だけは感謝して、服を着替えるために自室へと向かう。
着替える段になって、ふと、手にカレイドソードを持ったままだったことに気付く。まるでそれが自然であると感じるほどの一体感。
持って行くかどうか迷ったが、結局はそれをズボンの後ろあたりに突っ込んで持って行くことにした。
意外と服の上からでは何があるのか分からないものである。その隠密性に関心しながらも、靴を履いて玄関を飛び出した。
そして————
と.一日が無事に終了した(次の日へスキップ)
お.バイトの帰り道、遠坂と彼女が連れた従者に出会う(次の選択肢へ進む)
さ.何でさ。なにやらお怒りの白い少女に出会う。
か.むむむ、なにやら悪事が行われている予感。夜の学校へ急行する。
最終更新:2006年09月14日 17:08