77 名前: 僕はね、名無しさんなんだ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:46:08
何でさ。なにやらお怒りの白い少女に出会う。
「…………誰だろう?」
というか、一体何なのだろうあれは。
少女は坂の上の方に居て、俺は坂の下の方にいるわけなのだが、ここからでも彼女の怒気というやつが感じ取れる。
いや、怒気というには多少可愛らしい怒り方な気がする。
よく怒っている様子をプリプリしていると表現するが、ああいう風に怒っていることを指すのだろう。
その白い少女は、そう思わせるぐらいに可愛らしく怒っていた。
銀髪を風にたなびかせている少女はガードレールに腰掛け、ブラブラと足を揺らして暇そうにしている。
……どうやら、誰かを待っているらしい。親御さんだろうか?
「———まさか、迷子ってことはないよな」
見たところ外人さんのようだし、見知らぬ土地で迷子になるというのもよく聞く話だ。可能性としては否定できない。
だが、その場合は困ったことがある。
不覚にも俺の英語の成績は良いとは言えず、それも聞き取りや書き取りに限った話。実際に会話となると、不安要素が山積みなのだ。
さらに言うならば、少女が英語圏の人とも限らない。
口を開いた途端に、聞き取り不可能で聞いた事もない言葉の羅列を発せられたら、軽く失神できる自信がある。
「……まあ、その時はその時か」
もし迷子だったのなら、正義の味方としては黙っていられない。迷子でなかったのなら、謝ってそのまま家に帰ればいいだけの話だ。
とりあえず電柱の影から歩み出る。今更ながらに気付いたのだが、こんな風に隠れていたらまるでストーカーとかその類の人のようである。
……今度から気をつけよう。補導されたりしたら堪らない。
「えっと、迷子かな?」
とりあえず当たり障りのない言葉で話しかける。
俺の声に振り向いた少女の綺麗な白い髪が、風にふわりと舞い上がる。白髪とは違う、——銀髪。そう、シルバーブロンドとかいうやつだろうか。
その髪が冬の夜の寒さも相まってか、なぜか空を舞う雪を思わせる。
雪の儚さを少女に重ねてしまったのか、今すぐにでも目の前から消えてしまうんじゃないかと思ってしまった。
こちらに振り向いた女の子と俺の視線が交わる。その赤い瞳に見つめられて、思わずドキリとした。
そして、その薄い小さな花びらのような唇が開かれて———
「もう、遅い! 待ちくたびれちゃったじゃない、お兄ちゃん」
「は、あ……え、…………?」
流暢な日本語で、面と向かって『お兄ちゃん』と呼ばれてしまった。
……お兄ちゃん、ってあのお兄ちゃんか?
小さな女の子にそう呼ばれることに快感とか快楽を見出す人種もいるらしいけど、生憎と俺は違うのでそんな風に呼ばれても、ただひたすらに困惑するしかない。
しかも、少女の待ち人は———俺?
「昨日もお家の近くで待っててあげたんだけど、全然帰ってこないんだもん。だから途中で帰っちゃった」
「———昨日もって、ここで?」
「うん、そうだよ。昨日は会えなかったけど、今日はお兄ちゃんにちゃんと会えて良かった!」
くるくると回りながら嬉しそうに言う女の子からは、さっきまでのような怒気は感じられない。
子供は感情の移り変わりが激しいと言うが、この少女の様子を見ていると確かにその通りだと思う。
待たせてしまったのは俺のようだし、不機嫌が直ってくれたのは嬉しい。
……機嫌が良いようだし、今ならちょっとした問答ぐらいならできるかもしれない。
よし、さっきから気になっていることを訊いてみるか。
「えっと、あのさ———」
最終更新:2006年09月14日 17:09