364 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/24(木) 00:22:53

 ———見つかった。

 それが分かった瞬間、俺はただひらすらに駆け出した。考えなどない。だが、そうしなければ■ぬと、全身の細胞が訴えていた。
 俺のアタマの中のほとんどを占めていたのは、恐怖という原初の感情。
 吐き気が酷い。目眩がする。恐怖が俺を狂わせる。
 ドラッグで恐怖を紛らわすようにドラッグ染みたカレイドソードを求め、腰の後ろへと手を伸ばす。藁をも掴む思いで柄を握ると、その硬く冷たい感触は、俺を少しだけ冷静にしてくれた。

「は、ぁ————」

 息が苦しい。頭が痛い。ガンガン、と頭蓋の中で警鐘が鳴っている。
 どこをどう走ったのか覚えてはいないが、なぜか俺は校舎の中へと逃げ込んでいた。校舎の中など、袋小路も同然だ。追い詰められる前に外へと逃げなければ、確実に俺は■される。
 爪が食い込むほど強く、ソードの柄を握り締める。———ダメだ。これ以上考えちゃいけない。
 イヤなイメージはこれ以上ないほど俺の頭に浸透し、それが自然なことであるかのように訴える。———違う。そんなことはありえない。
 思考がまとまらない。警鐘の音がガンガンと大きくなる錯覚。
 それらの不吉なイメージを拭い去ろうと深呼吸して、

 ズブリ、と。

「あ、」

 致命的な、

     ————目の前には、

「ああ、」

 音がした。

     ————白い、髑髏が浮かんでいる。

   * * *

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 長く尾を引く悲鳴。
 それが俺自身が発している叫びなのだと気付いたのは、半ば酸欠状態に陥ってからのことだった。
 半狂乱。
 今の俺を表すのなら、その単語が相応しい。アタマの半分がマトモで半分がイカレてる。
 死んだショックで気が動転して、現実も妄想も区別がつかないのに、あれが真実だと冷静に告げる俺がいる。
 血に濡れたシャツが鬱陶しくて、穴の開いた制服が目障りで————何の傷跡もない身体が、酷くオカシかった。

「————っ。何だよ、これ」

 あの化け物たちも、繰り広げられた魔戦も、存在しない傷跡も、すべてがすべて異常のカタマリだ。
 その異常を拭い去るように、俺は自分の血の跡を掃除する。綺麗にふき取れば、そこは普通の学校の廊下でしかないのだ。異常など、どこにもない。
 そう、どこにもない。

「は、はは、ははははは————」

 気の抜けたような乾いた笑いが漏れる。ヤバい。本格的に俺はイカレてきてしまったらしい。こんなときに掃除なんて、まったく馬鹿げてる。
 何を勘違いしていたのか。今の俺は現実逃避しているだけで、異常は異常のまま、日常という現実を蝕んでいる。
 そして、なによりも最たる異常は、

 ————死んだ筈の、俺自身ではないか。

「っ、————」

 アタマが冷水に浸されたように冷静になる。さっと血の気が引き歯を噛み締めると、口に残った鉄の味に吐き気がした。
 俺は確実に死んでいた。だけどそれが生きているということは、誰かに助けられたということ。
 …………誰かは知らない。けれど、確実に命の恩人が存在する。
 その証拠があの血の海だ。あの量の血液を消費して、さらにそれだけの大きな傷を負って生きていることが、何よりの証明。
 相手が誰か分からないから、御礼のしようもない。しかし、誰かに助けてもらったのだ。今度は逆に、俺が誰かを助けなければならない。
 それが、俺を助けてくれた相手への恩返しになるように————

「よし!」

 カレイドソードを構え直して気合を入れる。悩んでいる暇などない。

 これから————


 魔.準備を整えよう。家へ帰る。
 術.深山町は危険だ。新都へ身を隠す。
 師.危険だからこそ、深山町を探索する。

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最終更新:2006年09月14日 17:16