425 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/25(金) 01:28:55

 深山町は危険だ。新都へ身を隠す。

 学校のある深山町であの化け物たちは闘っていた。ならば、深山町よりかは新都に移動した方が安全だと思う。
 そんな考えのもと行動した結果、俺はいま現在、無事に新都の駅前に突っ立っている。

 ————だがしかし。

「さすがに、……ちょっと。キツイ、な…………、はぁ————」

 まあ、さすがに学園と真逆に位置する新都まで走り続けたのは、体力的にちょっと無理があったらしい。
 あ、ヤバい。足がガクガクしてきた。

 なんでそんな無茶に挑戦したのかというと、日付も変わった深夜に運行している交通機関がなかったせいだ。

 バスの最終便は出た後だったし、タクシーに乗ろうとも血塗れの制服では乗せて貰える筈はない。……今気付いたが、同じ理由でバスにさえ乗れなかったかもしれない。
 その結果、移動手段は徒歩しかなかったわけで、さらに言うなら早く学園から離れようと意識していたら、ほぼ全力疾走に近い速度で走り続けていたのだ。
 いくら体力に自信があるとは言え、ここまで身体を酷使すれば限界突破するのも無理はない。
 疲労困憊の身体をバス停のベンチに横たわらせ、意識して呼吸する。
 何度か深呼吸。
 この程度なら、魔術回路が暴走したときよりも容易く対処できる。そして俺の思った通り、一分ほどで呼吸は整った。

「————差し当たっては、服が問題だな」

 声に出して、自分に言い聞かせるように今すべきことを考える。
 いまこの場でさえ、人通りが少なくなければそく御縄、もとい補導されていてもおかしくない格好をしているのだ。早く調達するのが吉だろう。
 普段の駅前ならば人通りが多すぎて、こんなにのんびりとしていられなかった筈だが、最近の新都は物騒だから、こんな時間に好き好んで外出する人間が少ないのが幸いした。不謹慎だが、有難く思う。
 だがそれでも、街の静けさはどこか異常に感じる。
 ……いや、これが正常なのか。
 学園にいた化け物。あれが街を闊歩しているという事実は大きい。誰もそのことに気付いていないとしても、本能的な部分では危機感を感じているに違いないからだ。

 ————だから、これが正常。

 家に閉じ篭って安全を求め、外に出る事を極力拒んでいる人間たちこそ、生物としての正しい行動だと言える。
 それでも外にいる人間は、ただの変態か、不幸なマヌケか、不運な被害者か、————異常の当事者である異常な加害者か。
 まあ、普通でないことに変わりはない。
 そして俺はどの分類なのだろうか、と意味もなく思考にふけろうとして、

 ぎゅるるる。

「………………」

 情けない事に、腹の虫が騒ぎ出した。よく考えれば、俺は夕食を食べていないことに気付く。
 腹が減っては戦は出来ぬ。
 ちょうど目の前には、所持金の少ない俺でも腹ごなしぐらいは出来る料理はマズイが値段が安い店がある。
 この服装でもシャツの後ろ前を逆にすれば、まあ、どうにか誤魔化せないことはない。短時間の食事なら、誰にも見咎められることなくいられるだろう。
 しかしその場合、服の調達はどうしようか。

 そして俺は悩みに悩んで————


 ふ.食事が先だ。目の前の喜多邑茶家に入る。
 ら.服装が先だ。新都を探索してみる。
 が.どちらでもない。新都なんかにいられるか! 俺は深山町に戻るぜ!

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最終更新:2006年09月14日 17:17