580 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/14(木) 21:37:21


「あら、坊やじゃない」

「キャスター?」

 ショーウィンドウに気を取られていて、接近に気が付かなかった。
 両手に紙袋を提げてこちらに歩いてくるのは、柳洞寺の奥様で魔女、なキャスターだった。

「こんなところでなにやってんだ?」

「それはこっちが聞きたいわね。私はこの店に用事があってきただけよ」

 キャスターが衣装屋に用事?
 よく見てみれば、キャスターの提げている紙袋から何かがはみ出ている。
 白い網目のようなあれは……フリル?

「買い物か?」

「逆よ。私の作った服を持って来たの」

 と、いうことは、キャスターが持っている袋はお手製の衣装……!?

「え、まさか内職?」

「内職と言うほどのものでもないわね。趣味の一環のようなものよ」

 ……驚いた。
 キャスターの趣味が可愛い服なのは知っていたが、自分で作った服を店に持ち込むまでになっていたとは。

「ところで、そちらのお嬢さんは、坊やの恋人?」

「っ……!」

 さらり、といきなり爆弾を投下してくる。
 いやまあ、デートしてるんだからあながち間違いじゃないけど、改めて他人からそう言われるともの凄くこっ恥ずかしいぞ。

「さ、3のAの氷室だよ。……氷室、こっちは」

「ああ、確か葛木先生の細君の」

「細君……」

 なぜそこで惚けるキャス子。
 もういい加減に新婚気分も長いだろうに。
 いや、それとも実は夫婦と見られる機会が少ないのか?

「氷室、キャスターとは顔見知りか?」

「いや、噂だけはな。実際に会ったのは初めてだ。
 ……しかし、なぜ衛宮はメディア女史のことをキャスターと呼ぶのだ?」

「あ、それは……」

 しまった。
 つい、いつも通りサーヴァントのクラスで呼んでしまった。
 返答に窮していると、キャスターが横から割り込んできた。

「あだ名のようなものよ。私が魔女みたいだからキャスターなんですって」

「……愛称と言うには少々悪意がある呼び方だな」

「ええ、本当にね。でも、そう呼ばれるのももう慣れてしまったけれど」

「う……」

 二人して軽く睨まれて、急激に立場が無くなる俺。
 だって、キャスターは魔女みたいじゃなくて正真正銘、血統書つきの魔女じゃないかぁ……!

「話が逸れたわね。それで、貴方たちはどうしてこの店の前にいるのかしら?」

「あー、ウィンドウショッピングの途中だったんだけど……」

「このドレスを見させてもらっていたのです」

 氷室がショーウィンドウの中を指し示す。

「……そう。確かに素敵よね、このドレス」

 思わず、といった風にため息を洩らすキャスター。
 やっぱりこういうドレスを着ることに憧れていたんだろーか?
 柳洞寺に居候している手前、仮に結婚式を挙げたとしても、ウェディングドレスの出番は絶対に出てこないだろうし。

581 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/14(木) 21:38:47


「……そうね、貴女なら意外と似合うかもしれないわ」

「はい?」

「氷室さん、だったわね? ちょっとお店を借りて、この衣装を着てみない?」

 キャスターは、右手に提げた袋を軽く持ち上げてみせる。
 無論その中身はキャスターお手製の衣装なんだろうけど……。

「は……? あの、私がですか?」

「おいキャスター、なにを……」

 口を挟もうとした俺に対して、キャスターが背中越しにちらりと何かを……げ。

「ええ。丁度、パンフレットの見本写真が欲しかったところだし。貴女なら申し分ないわ」

「しかし、私のような素人がいきなり」

「誰だって最初は初めてなのよ」

 有無を言わさぬ迫力で、氷室の背中を押していくキャスター。
 氷室は抵抗するも、ずるずると追い立てられていく。
 さすが英霊、って良く考えたらキャスターの腕力って人並みじゃなかったっけ?
 遠坂に拳法で滅多打ちにされてたし。

「え、衛宮。見てないで助けてくれないか」

 すまん、氷室。
 お前のほうからは見えないかもしれないが、キャスターが後ろ手に不思議剣を突きつけているので助け舟を出そうにも動けません。
 かつて米大統領の語った『大きな棍棒を持って静かに話せ』という外交交渉のお手本みたいなやり方だった。

「待て、待ってくれ、心の準備が……!」

「うふふふふ。初めての子はみんなそう言うのよ」

 激しく誤解を招きそうな台詞と共に、問答無用で店内に消えていく氷室。
 ドナドナのメロディが聞こえてきそうだった。

「……俺も入るか」

 一人で店外に立ち尽くしていても仕方が無い。
 俺は二人の後に続いて、貸衣装屋のドアを潜った。

「せ、せめてどんな衣装なのか教えてから……」

「御代は見てのお帰り、って言葉を知ってるかしら?」

「い、意味が違っ……!」

 ……素早い。
 店内では、早速キャスターが氷室を着替え部屋に押し込もうとしていた。

「坊やはここで待っていなさい。
 もし覗いたりしたら身体を水平に輪切りにしてから額縁に嵌めるわよ?」

 それなんてギャングの私刑?
 突っ込む暇も無く、キャスターと氷室は着替え部屋へ。
 その扉が閉まってしまった以上、俺には待つ以外に出来ないわけで。
 中から聞こえてくる氷室の声は……まあ、聞こえないということで。

「こ、こんなものを私に着ろと……!?」

「大丈夫よ、絶対に似合うわよ。ほら、手伝ってあげるから」

「い、いえ、せめて着替えるのは私一人で……!」

「ええい、じたばたしないの、初心なネンネじゃあるまいし!」

「ひやっ!? ど、どこを触っているんですか、あっ!」

 あーあー聞こえないー!



 着替え部屋から聞こえてくる声に、心象風景に埋没することで対抗することしばし。
 俺が無限の剣を数えるのにも飽きてきた頃、ようやく着替え部屋の扉が開いた。
 部屋から出てきたのは……。


一人1記号。第一群と第二群のどちらかに投票せよ。両方は不可。
それぞれ五票、計十票で確定。

《第一群》
α:眼鏡をかけた――
β:眼鏡を外した――

《第二群》
γ:ウェディングドレス氷室だった。
δ:ゴスロリ氷室だった。
ε:巫女氷室だった。ってフリルはどこに行ったんだオイ。

投票結果

《第一群》

《第二群》

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最終更新:2006年09月15日 02:43