661 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/16(土) 00:37:34


 絢爛に飾られたロングヴェール。
 すらりとした指を際立たせるフィンガレスグローブ。
 露出した肩を薄く隠すウェディングショール。
 キャスターのこだわりが光るフリルレースのプリンセスラインドレス。

 純白の衣装に身を包んだ、花嫁姿の氷室がそこに居た。

「……精神的陵辱だ」

 むー、と不機嫌そうに唸っている氷室。
 しかし、薄いヴェールでは隠し切れないほどその顔は赤い。
 なまじ純白の衣装なものだから、血の巡った肌が余計に目立っている。
 氷室の肌は比較的白いと思っていたが、いやはや。

「どう? 坊や。恋人の晴れ衣装の感想は」

「……最高です」

 いや、もう。
 キャスターの問いかけにも、つい本音がこぼれてしまうほどに。

「さて、じゃあ写真を撮らせてもらおうかしら。お店にはもう話をつけてあるから」

 本当にいつの間に話を通していたのか、撮影室は既に準備が出来ているという。
 しかし、氷室はここに来てまだ渋い顔をする。

「……本当にこの姿で写真を撮れというのか?」

「いい記念だと思えばいいじゃない。ねえ、坊や?」

 確かに、ウェディングドレスの氷室なんて想像もできなかったが、いざ目の前で見てみるととても似合っている。
 なので、せっかくだから俺も後押しすることにした。

「そうだぞ。せっかく似合ってるんだから、記念に撮ってもらえばいいじゃないか」

「他人事だと思って……」

 じろり、とこちらを睨んでいた氷室だったが、ふと何かを思いついたような顔をした後、にやりと笑みを浮かべた。
 ……なんだその遠坂にも負けないくらいのイイ笑顔は。

「メディア女史。せっかく写真に取るのなら、花嫁だけでは片手落ちではないかな?」

「あら、どういうこと?」

「花嫁には花婿が付いていなければ。丁度よい役者がそこに居ることだしな」

 と言って、俺のことを横目で見やる。
 ……って、ちょっと待て。

「お、俺!? いや、それはちょっと無理、無理だって!」

「私もそう言ったぞ? その結果がこのざまだ。君も同じ末路だと思いたまえ」

「いやだって、氷室は綺麗だからともかく、俺は背も足りないし似合わないって……!」

「人を呪わば穴二つ。覚悟を決めて着替えてくることだ」

 さあ、と背中を押してくる氷室に、必死で抵抗する俺。
 そんな殺伐とした二人の間に救世主が!

「まあまあ氷室さん。そんなに無理に勧めたら衛宮君がかわいそうでしょ」

 キャスター!
 俺のことをかばってくれているのか!?
 ありがとう、俺、お前のことをちょっと誤解してたよ!

「メディア女史。しかし……」

「衛宮君と一緒がいいって言う気持ちもわかるけど。
 お店の人に新郎役を頼んでもいいのだし。
 もちろん、新郎新婦なんだから寄り添ったり肩を抱いたりは当たり前、
 あまつさえ抱き上げたりなんかもするかもしれないわね……その、知らない男に」

 ……あれ?
 話が変な方向に行っているような。
 ついでに言うとキャスター、なんで呼び方が『衛宮君』なのか。
 それ、なんか某あかいあくまを思い出してあまり嬉しくないんだけど。

「でも、衛宮君がどうしても嫌だって言うなら、そちらのほうがいいと思わない?」

「ちょ……」

「……仕方ないな。衛宮がそこまで嫌がるならば、そこいらの男で我慢するか」

「そうよねぇ。……で、どうかしら、衛宮君?」

 ……ふふふ。
 見くびってもらっては困るぜキャスター、氷室。
 そんな餌でこの衛宮士郎が釣られるとでも。

「……俺に新郎役を務めさせてくださいお願いしますクマー」

662 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/16(土) 00:38:43


 店から出ると、すっかり日も暮れかけて、東の空はもう星が瞬いていた。

「すっかり遅くなってしまったな」

 記念に、と半ば無理やり渡された写真を……それでも少し嬉しそうに鞄に仕舞いこみながら、氷室が空を見上げて呟いた。

「とんだ騒ぎになっちまったからな。せっかく色々予定を立ててたんだけど」

 本当なら、映画館や喫茶店などで色々と話をしたかったのだが……。

 着替え、写真撮影、と来て、キャスターの気が済むまでリテイク。
 ようやく開放されたと思ったら更に数枚、別パターンで撮影再開。
 結局、化粧落としや着替えなおしも合わせて、すっかり時間を使ってしまった。
 キャスターはご機嫌で帰っていったが、俺と氷室は最後のほうは既に疲労困憊状態だった。
 まあ、お店の人が気を利かせてくれたのか、一日のバイト料をくれたのがせめてもの救いか。

 と、隣で歩いていた氷室がはたと立ち止まった。

「……そうだな。このまま別れるのも、少し味気なくもある。ふむ……」

 ……なにか腹案があるのだろうか。
 氷室は顎に手を当てて、じっと何かを考えている。
 先に行くわけにもいかないので、同じくじっとその場で待つ俺。
 やがて氷室は顔を上げると、俺の眼を見て単刀直入に言った。

「いい意趣返しを思いついた。実はな、衛宮。今日は私の家に誰も居ないんだ」

「……はい?」

「良かったら、寄っていかないか? 茶くらいは振舞おう」


α:氷室の家にお邪魔する
β:待て、これは孔明の罠だ

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最終更新:2006年09月16日 01:06