743 名前: (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/13(土) 20:18



包帯が取れて自分でご飯が食べられるようになった日に、その男はやってきた。

しわくちゃの背広にボサボサの頭。
病院の先生よりちょっとだけ若そうなそいつは、お父さんというよりお兄さんと言う感じだった。

「こんにちは。君が士郎くんだね」

白い日差しに溶けこむような笑顔。
それはどこか疲れているようにも見えたが、とんでもなく優しい声だったと思う。
「率直に訊くけど。孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな」


そいつは自分を引き取ってもいい、と言う。
親戚なのか、と訊いてみれば、多分赤の他人だよ、なんて良くわからない答えを返してきた。

……それは、とにかく疲れていて、頼り無さそうなヤツだった。
けど孤児院とそいつ、どっちも知らないコトに変わりはない。
それなら、とそいつのところに行こうと決めた。

「そうか、良かった。なら早く身支度をすませよう。新しい家には、一日でも早く馴れなくっちゃいけないからね」

そいつは慌しく荷物をまとめだす。
その手際は、子供だった自分から見ていても良いものじゃなかった。
で、さんざん散らかして荷物をまとめた後。

「おっと、大切なコトを言い忘れた。
 うちに来る前に、一つだけ教えなくちゃいけないコトがある」

いいかな、と。
これから何処に行く? なんて気軽さで振り向いて、

「――――うん。
 初めに言っておくとね、僕は仮面ライダーなのだ」

ホントに本気で、仰々しくそいつは言った。



今にして思うと自分もマダマダ子供だったのだ。

仮面にマフラー。
バイクに乗って独り行く。
そんなセイギノミカタはテレビの中だというコトはわかる年頃だったというのに。



俺はその、冗談とも本気ともとれない言葉を素直に信じて、

「――――うわ、爺さんすごいな」

目を輝かせて、そんな言葉を返したらしい。

以来、俺はそいつの子供になった。
その時のやりとりなんて、実はよく覚えていない。

ただ事あるごとに、親父はその思い出を口にしていた。
嬉しそうな素振りで何度も何度も繰り返した。

だから親父――衛宮切嗣にとって、そんなコトが、人生で1番うれしかったことなのかもしれなかった。

……で。
火事で両親と家を失った子供に、自分は仮面ライダーなんだ、なんて言葉を投げかけた親父も親父だけど、
それが羨ましくって目を輝かせた俺も俺だと思う。

そうして俺は親父の養子になって、衛宮の苗字を貰った。
衛宮士郎。

仮面ライダー、衛宮士郎は改造人間である。

そんな自分の名前が、親父と同じ苗字だという事が、たまらなく誇らしかった。

…………夢を見ている。
幼い頃の話。
ちょうど親父を言い負かして弟子にしてもらった頃だから、今から8年ぐらい前だろう。
俺が独りで留守番できるようになると、親父は頻繁に家を空けるようになった。

親父はいつもの調子で「今日から世界中を冒険して2000の技を身につけるのだ」なんて子供みたいなことを言い、それを本当に実行しだしたのだ。

それからは、ずっとその調子。
1ヶ月いないのはザラで、半年も帰ってこなかったこともある。
家はとても広すぎて、子供だった自分は途方にくれたこともある。
それでも、その生活が好きだった。

                  仮面ライダー
帰ってきては、子供のように自慢話をする衛宮切嗣。
その話を楽しみに待っていた、彼と同じ苗字の子供。
いつも屋敷で独り切りだったが、そんな寂しさは親父の土産話で帳消しだった。

――いつまでも少年のように夢を追っていた父親。
呆れていたけど、その姿はずっと眩しかったのだ。
だから自分も、いつかはそうなりたいと願ったのかもしれない。

…………まあついでに言うと。
あんまりにも夢見がちな父親に、こりゃあ自分がしっかりしなくちゃな、なんて子供心に思ったわけだが――――。

746 名前: (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/13(土) 21:07

「――――なるほど」

ひとしきり話を聞いた後、その……ギルガメッシュとかいうヤツは、独りゆっくり頷いた。


教会で言峰と名乗る神父から、俺が巻きこまれた闘い――聖杯戦争についての説明を聞いた後の帰り道。
俺と、まだなにも知らない金ぴかの男。
この二人で、何をするでもなく歩いていく。
その、途中。
どんな流れでそうなったのかはわからない。
ただ、何となく――俺は身の上話を語りだし。

ギルガメッシュは、楽しいんだか詰まらないんだか良くわからない表情でソレを聞き。

それは――交差点につく頃にようやく終わった。

「雑種にしては、中々波乱万丈な人生を歩いてるではないか。平平凡凡としたモノだとばかり思っていたが」

「む……それを言ったら、お前だってそうじゃないか。曲がりなりにも『英雄』なんだろ?」

「無論だ。我の人生以上に波瀾に満ちたモノなどあるわけがない」

そう言って、えっへんとばかりに胸を張る。

結局、コイツが良いヤツなのかどうなのかはわからない。
会ってからずっと我我言ってるし、我侭だし。
でも、まあ……。

「…………どうした、雑種?」

こんな風に軽く首を傾げてくるコイツを見ていると。
仲良くやっていけそうな気はする。

「いや、何でも――――」

そう言って首を振り、歩き出そうとする。

「―――――」

だが。
俺の脚は其処で止まった。
幽霊でも見た方が遥かにマシだったろう。

「…………おい、雑種…」


――――空気が固まるような、酷く重い感覚。





「――――――ねえ、話は終わり?」




声が夜に響く。
歌うようなそれは、紛れもなく女の物だ。
視線が坂の上に引き寄せられる。
いつのまにか雲が去り、空には儚げな灯りを投げかける月。


――――そこには。


1.蒼い剣士を連れて、赤いあくまが立っていた。

2.ローブ姿の女が立っていた。

3.灰色の巨人と共に、銀髪の少女が立っていた。

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最終更新:2006年09月24日 15:01