831 名前: 仮面ライダールート (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/14(日) 22:57
「身体は鋼で出来ている」
「瞳は血潮で 心は硝子」
「幾千の戦場を越えて不敗」
「ただの一度も敗北は許されず」
「ただの一度も休息は許されない」
「彼の者は常に戦場に立たされ、倒れるまで剣を握らされる」
「その生涯に意味を与えられることはなく」
「その身体は、きっと――無数の刃金で出来ていた」
832 名前: 仮面ライダールート (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/14(日) 22:58
夢を見ている。
それは、五年前の冬の夢。
月の綺麗な夜だった。
自分は何をするでもなく、父である衛宮切嗣と月見をしている。
冬だというのに、気温はそう低くはなかった。
縁側はわずかに肌寒いだけで、月を肴にするにはいい夜だった。
この頃、切嗣は外出が少なくなっていた。
あまり外に出ず、家にこもってのんびりとしていることが多くなり、
そして、出会った時から色濃く残っていた疲れの痕は、酷くなっていた。
……今でも、思い出せば後悔する。
それが死期を悟った動物に似ていたのだと、どうして気がつかなかったのか。
「子供の頃、僕は正義の味方になりたかった」
ふと。
自分から見たら正義の味方そのものの父は、懐かしむように、そんな事を呟いた。
「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」
むっとして言い返す。
切嗣はすまなそうに笑って、遠い月を仰いだ。
「うん、残念ながらね。正義の味方になって全部の人を救うなんて事は不可能で、
不可能なことをやり続けると、心が磨り減ってしまうから」
言われて納得した。
なんでそうなのかは分からなかったが、切嗣の言うことだから間違いないと思ったの
だ。
「そっか。それじゃしょうがないな」
「そうだね。本当に、しょうがない」
相づちをうつ切嗣。
「だから、僕は仮面ライダーになったんだ」
「仮面ライダーに?」
うん、と切嗣は頷いた。
「誰かを助けるために戦いつづける。十人の助けたい人がいて一人しか助けられないかもしれない。
ひょっとしたら誰も助けられないかもしれない。それでも戦いつづける人になりたかった。」
「それが、仮面ライダー?」
「うん……でも、それももうお終いだ。士郎の為に、全部の力を使っちゃったからね」
そう言って、切嗣は楽しそうに、寂しそうに笑って見せた。
その表情を見てしまったから、俺の答えは決まってしまった。
「うん、だったら俺が代わりにやってやるよ。
まかせろって、爺さんの夢は」
“――――俺が、ちゃんと引き継ぐから”
「ああ――――安心した」
静かに目蓋を閉じて、その人生を終えていた。
それが、朝になれば目覚めるような穏やかさだったから、幼い自分は騒ぎ立てなかっ
た。
死というものを見慣れていた事もあったのだろう。
何をするでもなく、冬の月と、長い眠りに入った、父親だった人を見上げていた。
庭には虫の声も無く、あたりはただ静かだった。
明るい闇の中、両目だけが熱かったのを覚えている。
泣き声もあげず、悲しいと思う事もない。
月が落ちるまで、ただ、涙だけが止まらなかった。
それが五年前の冬の話。
むこう十年分ぐらい泣いたおかげか、その後はサッパリしたものだった。
子が父の後を継ぐのは当然のこと。
衛宮士郎は仮面ライダーにならなくてはならない。
幼い頃にそう誓った。
誰よりも憧れたあの男の代わりに、彼の仕事を最期まで果たすのだと。
・・・・・・だが、正直よく分からない。
切嗣の言っていた仮面ライダーってどんなモノなのかとか、早く一人前になる方法とか。
切嗣に教えてもらったから《変身》の方法は知っているけど、多分ソレだけじゃないんだろう、と思う。
だけど、ただ一つだけハッキリと解ることがあるとすれば。
衛宮士郎は、あの日あの時あの瞬間からずっと。
仮面ライダーを続けてきた、という事だ。
838 名前: 仮面ライダールート (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/14(日) 23:30
―――――――爆発から飛び出したのは、衛宮士郎だった。
光としか見えない速度で、英雄王を飛び越え、その前に立つ侍へと突き進んでいく。
だが、遅い。
神速を誇るサーヴァント、佐々木小次郎にとって、ソレはあまりにも遅すぎた。
一閃。
彼は、ためらう事無く衛宮士郎を分断した。
遠坂凛と、佐々木小次郎は、それで勝利を確信した。
――――確信した、はずだった。
「な―――――!!」
今まで、ただの一度も笑みを崩さなかったアサシンが、初めて表情を変えた。
驚愕に、である。
彼の太刀――人間なら軽くニ、三人……サーヴァントでも、命中すれば確実に切り裂けるであろうソレは。
「………嘘――衛宮君、アナタ、何て魔術を―――」
数秒前まで、衛宮士郎だった存在の腕によって受けとめられていた。
「――――ッ!!」
慌てて剣を引こうとする。
むしろ、アサシンは誉められるべきだっただろう。
サーヴァントの剣を、人間が止める。
そんな奇跡としか思えない光景を作り出した化け物に対しての対応としては、それは素晴らしかった。
むしろ、恐れるべきは衛宮士郎――否。
「――――だからさ、遠坂。俺は――――」
仮面ライダーと、呼ばれる存在だろうか。
この瞬間、遠坂凛と呼ばれる魔術師は、完全に恐怖した。
仮面ライダーの姿が掻き消える。
次の瞬間、彼女のサーヴァントび腹部に、鉄塊を思わせる拳打が叩きこまれた。
「がっ――――!!」
軽々と宙を舞う。
叩きつけられた位置は、遠坂の遥か後方。
サーヴァントの攻撃を止める!?
それだけならまだしも、サーヴァントを軽々と殴り飛ばした……!?
正気は元より、コレは――。
狂気の沙汰ですら、無い。
「……ふむ、雑種。なかなかハラハラさせてくれるではないか」
「む……お互い様だ。俺だって、さっきの燕返しの時は心配だったんだから」
ギルガメッシュにそう返しつつ、衛宮士郎は仮面の下で笑っているのだろう。
それにしても、その姿は異様だった。
赤い瞳。
赤い鎧。
如何なる魔術によって編まれたのか、見たことも聞いたこともないような材質で作られたベルトと宝石。
こんな魔術は聞いたことが無い。
「まさか……魔法……?」
思わずそう零す。
だが、
「違うよ。遠坂……俺は、魔法使いじゃない」
即座に否定される。
遠坂凛には、目の前の存在が何だか理解できない。
何故なら。
――――それは世界で最も古い伝説であり。
世界で最も新しい、現在進行形の伝説なのだから――――
「それで、悪いけど――遠坂」
1.協力してくれないか?
2.ここは退いてくれないか?
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最終更新:2006年09月24日 15:07