437 名前: 仮面ライダールート#5-10 (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/24(水) 01:34
「―――あ、」
―――だが、それでも。
「――あ、あああッ!!!!」
この男は立ちあがった。
「――……生き汚いな。
目障りだ」
――――再び、蛇がうねる。
叩き潰され捻り潰され絞め潰され撲りつぶされ粉砕され、ありとあらゆる個所を潰された挙句―――
「―――逝け」
壁に叩きつけられた。
――――だが。
「あ……―――」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
この男は、立ちあがった。
439 名前: 仮面ライダールート#5-11 (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/24(水) 01:38
―――倒れても、倒れても、立ちあがり、立ち向かう。
瞬間、言峰綺礼は恐怖した。
――その姿は、まるで―――――
―――全身を血に染めて、白かったろうバンダナを赤く染めて、それでも立ちあがる。
その時、美綴綾子は泣きたくなった。
―――その姿は、まるで――――
――――――荒野を独り行き、罵られ、恐れられても人の為に闘う。
衛宮士郎は、この瞬間。
―――その姿は、まるで――――
「仮面、ライダー……!」
仮面ライダーとなった。
「―――衛宮」
「もう良いよ…!」
「そこまでしたら――それ以上やられたら――死んじゃうから……!」
その遠い、遠い背中を見て、美綴綾子は言う。
『もう闘わなくて良い』と。
『もう充分だ』と。
だが、仮面ライダーは首を横に振った。
「もう、誰かを護れない、なんて事は嫌だ。
だから、美綴。見ててくれ、俺の―――――変身を」
左手を腰に、右手を斜め上へ。
「体は鋼で出来ている」
――――そうなりたいと想い。
「血潮は鉄で心は剣」
――――そうなろうと決めた。
「幾千の戦場を越えて無敗」
――――故に無敗。
「ただの一度の敗北も許さず」
――――負けるわけにはいかないから。
「ただの一度も立ち止まることなく」
――――走って。
「彼の者は常に独り、倒れるまで前を見る」
――――走って。
「ならば、我が人生に意味は不要ず」
――――走り続けて。
「その体は、きっと――」
――――故にその名を。
ゆっくりと縁を描くように腕を動かし。
左腕を突き上げ、右手を腰に下げ、叫ぶ。
Ultimate Masked Rider
「 刃金で出来ていた 」
――――仮面ライダーと言う。
「――――え?」
次の瞬間。
この場に存在した、仮面ライダー以外の人間はすべて、己の目を疑っただろう。
こんな人外の戦いには、まったく縁が無い美綴綾子でも。
こんな人外の戦いなど、とっくの昔になれてしまった言峰綺礼でも。
そこに集中していく、とてつもない――圧倒的な量の『力』はわかる。
「黄金の―――――脚?」
吹き荒れる風。
箱を開けるかのように展開していく幾重もの封印。
否。
あれは封印そのものだ。
この世全ての悪を封印する為の、その為だけに編まれた封印だ。
煌く脚のみを武器に、衛宮士郎はこの世全ての悪へと向き直る。
――――迫り来るのは、呪いの泥。
仮面ライダーなぞ、軽く呑んでしまうほどの量は、その矮小な存在を叩き潰そうと速度を増す。
「―――――――――――」
時間が止まった。
逃れられない崩壊を前にして、思考が停止する。
収束する光。
その純度は、『この世全ての悪』などモノともしない。
衛宮士郎、唯一にして最大の武器であるソレは。
誰もが憧れる幻想で構成されている。
《――――RIDER-KICK――――!!》
「――――飛翔せし必殺の蹴撃―――――!!」
――――――それは、文字通り光の線だった。
触れるモノを例外無く叩き潰す光の槍。
この世全ての悪を叩き潰し、空を駆け、突き進む。
…………おそらく。
アレが地上で使われたのなら、この街なぞ軽く消滅していただろう。
『必ず』『殺す』
故に『必殺』。
仮面ライダーを知る全ての者が憧れるだろう、悪を必ず倒すという幻想で作られた世界最強の兵器。
―――RIDER-KICK
――――飛翔せし必殺の蹴撃。
仮面ライダーが使用した場合。
これを受けた『悪』は確実に消滅する。
『悪』と相対する限り、仮面ライダーは絶対無敵。
それが、衛宮士郎の最後の切り札だった。
440 名前: 仮面ライダールート#5-12 (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/24(水) 01:39
胸を貫いた漆黒の脚。
蒼白い火花が飛び散るばかりで、肉片も弾けず、出血もない。
だが―――闘いは、終わった。
「―――――――」
風が吹いた。
地下にある部屋だと言うのに、風が吹いた。
周囲を支配する音は無く。
ただ、風だけが吹いた。
「――――仮面ライダーとは、正義の味方の事だったか」
「ああ」
「―――――――」
思案は、どれほどの時間だったのだろう。
ヤツは深く溜息を吐き、ようやく――身体を、ぐらりと揺らした。
「……ならば――悪が倒れるは必然か」
倒れる。
言葉通り、言峰綺礼という神父の身体が倒れていく。
「―――――」
……それを最期まで見届けて。
今まで使役していたモノの中に沈んでいく神父を見届けて。
―――言峰綺礼の最期を見届けて。
―――――長いようで短かった闘いの、その終わりを見届けて。
上を見る。
頭上に穿いた黒い『孔』。
あの泥こそ止まったものの、不気味な空洞は今もなお健在だ。
――アレが聖杯。
この戦いの目的である、あらゆる願いを叶える万能の杯。
――――俺は美綴の方を振り向いた。
「美綴」
「―――なんだ、衛宮」
こんな状況でも、彼女は笑っている。
ソレが俺に対する信頼なのか、それとも違うのかはわからないが。
俺は、静かに、ただ淡々と、言うべき言葉を紡いでいく。
「危ないから、伏せてた方が良い」
ゆっくりと――あの泥との戦いで良くも無事だった――バイクを起こして、俺は『孔』を睨みつける。
さあ、行こう。
そして、仮面ライダーは、『孔』の中へと身を投じた。
441 名前: 仮面ライダールート#5-13 (M8z3Z2VY) [sage] 投稿日: 2004/11/24(水) 01:40
――闇に身を投じた瞬間。
脳裏に、地獄が印刷された。
始まりの刑罰は五種、生命刑、身体刑、自由刑、名誉刑、財産刑、様々な罪と泥と闇と悪意が回り周り続ける刑罰を与えよ『断首、追放、去勢による人権排除』『肉体を呵責し嗜虐する事の溜飲降下』『名誉栄誉を没収する群体総意による抹殺』『資産財産を凍結する我欲と裁決による嘲笑』死刑懲役禁固拘留罰金科料、私怨による罪、私欲による罪、無意識を被る罪、自意識を謳う罪、内乱、勧誘、詐称、窃盗、強盗、誘拐、自傷、強姦、放火、爆破、侵害、過失致死、集団暴力、業務致死、過信による事故、護身による事故、隠蔽。益を得る為に犯す。己を得る為に犯す。愛を得る為に犯す。得を得るために犯す。自分の為に■す。窃盗罪横領罪詐欺罪隠蔽罪殺人罪器物犯罪犯罪犯罪私怨による攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃汚い汚い汚い汚いおまえは汚い償え償え償え償え償え償えあらゆる暴力あらゆる罪状あらゆる被害者から償え償え『この世は、人でない人に支配されている』罪を正すための良心を知れ罪を正すための刑罰を知れ。人の良性は此処にあり、余りにも多く有り触れるが故にその総量に気付かない。罪を隠す為の暴力を知れ。罪を隠す為の権力を知れ。人の悪性は此処にあり、余りにも少なく有り辛いが故に、その存在が浮き彫りになる。百の良性と一の悪性。バランスをとる為に悪性は強く輝き有象無象の良性と拮抗する為兄弟で凶悪な『悪』として君臨する。始まりの刑罰は五種類。自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す勧誘、詐称、窃盗、強盗、誘拐、自傷、強姦、放火、侵害、汚い汚い汚いおまえは汚い償え償え償え償え償えあらゆる暴力あらゆる罪状あらゆる被害者から償え償え『死んで』償え!!!!!!!
「―――――、ア」
脳が、破裂する。
全身に食らいついた泥は剥がれず、容赦無く体温を奪っていく。
五感全てから注ぎ込まれるモノで潰されていく。
正視できない闇。
認められない醜さ。
逃げ出してしまいたい罪。
この世全てにある、人の罪業と呼べるもの。
だから死ぬ。
この闇に捕らわれた者は、苦痛と嫌悪によって自分自身を食い潰す。
―――――だが。
言峰は言ったのだ。
この呪いは、この世全ての悪だと。
――全身に熱が戻る。
満身創痍だった体に、立ちあがる為の血が巡る。
――だってそうだろう。
こんなものを美綴は、つい先刻まで背負っていたのだ。
――仮面ライダーになると決めた。
バカみたいな夢を語った少年に、自分の命も未来も何もかも託してくれた少女が。
こんなモノを背負いながらも、励ましてくれた。
「あ――――あ、あ――――」
――それならば。
仮面ライダーが。
この程度の重みで潰れてはいけない。
衛宮士郎が。
――本当に仮面ライダーならば。
――――ならば。
「――この世全ての悪、なんだろ?」
――――――ならば。
「―――――それが、どうした?」
―――――――――――ならば。
「――――仮面ライダーを倒したければ、この3倍は持って来い」
――――――――――――――――衛宮士郎が、本当に仮面ライダーならば。
自分を信じてくれた女性《ヒト》のためにも。
――――――――――――――――――――こんな奴に負けるわけがない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は、この泥を――――。
最終更新:2006年09月24日 15:43