651 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/09/15(金) 22:13:23

「何で弓塚に投票したか? 何だそりゃ、遠野。お前そんなの聞きたいのか」
「いや、何というか……ちょっと意外だったからさ」

 スープを飲み干し箸を置いた有彦は俺の顔を見て心底訝しげにしている。

「意外、っていうのもまた引っかかるな」
「だってそうだろ? お前の事だからシエル先輩だと思ってたんだけど……」
「お前なぁ……」

 やれやれと深いため息をついて頭を抱える。俺はそんなに変なことを言ったんだろうか?

「遠野、みんながみんな好きな人には主役をやってもらいたいなんて思ったら大間違いだぞ」
「…………そういうもんじゃないのか?」
「あぁ、少なくとも俺はそう思うかな。人の意見なんて押し通そうなんて思ってないけどな」

 有彦は爪楊枝をくわえながらポケットから五百円を取り出してそれを手の中で弄ぶ。そうして、

「弓塚にはな、待ってる以外の選択肢の他に何かあってもいいと思ってな」

 そうぽつりと、呟いた。

「待ってる?」
「あぁ。っていうかさっきから聞いてばっかじゃねえか。少しは自分で考えやがれ。あ、コレ勘定なんで」

 ん、と高田君のお兄さんは低く頷いて有彦の五百円玉を受け取った。そうして一人さっさと背を向けて行ってしまった。

「………………え? あ。お、俺もご馳走様でした!」

 やっと自分が置いてかれたというのを認識して慌てて財布を取り出す。ちくしょう、まだ少し麺が残ってたのに。

「それじゃこれで」
「………………今度来た時にでも残した分もサービスしてやる」

 お兄さんの優しさにじん、と染みる間もなく俺はお礼を言って悪友の背中を追いかけた。


「おい有彦!」

 呼んでも一向に歩を進めるのを止めない有彦。やっと肩を並べて歩いた時に見せた有彦の表情はどことなく不機嫌そうだった。

「有彦、何か怒ってる?」
「あぁ、最高にってわけでもないがお前の顔を殴りたいほどにはな」

 それって結構腹立ってるよな?

「それってやっぱり俺のせい……」
「あぁ、それと半分は弓塚かな」
「弓塚?」

 はて、さっきの話と矛盾してないだろうか。

「有彦、それって何かおかしくないか? よく分からないけど有彦の話だと弓塚に選択肢ってのを与えたくて投票したのにどうして……」

 その先を言う前に有彦が街灯の下で立ち止まる。俺も倣って止まる。二、三歩先の互いの顔が照らされている。

「弓塚はな、もう持ってるんだよ。その選択肢ってやつを。なのにそれを選ぼうとしねえ、いや、選びたくないのかもな」
「……え?」
「だから俺はそれを後押ししたって訳だ。………………ちくしょう、結局言っちまったじゃねえか」

 そう言って僅かに俯く。街灯の辺り具合で有彦の表情が見えなくなった。

「いつからか……俺とお前は違う世界に立ってるんだと思った」

 静かに心臓が跳ね上がる。

「そっちにはさ、きっと先輩やアルクェイドさんに妹さん、それに弓塚がいる」
「…………」
「でも、俺はいない。お前だって分かってるんだろ? 俺は、何もできないんだって」

 俺は何も答えれない。有彦の顔が見えないのにどこか涙を流しているように見えるから。

「だからさ、お前の傍にいてやれる人がいればお前だって…………」
「………………」
新着レス 2006/09/15(金) 22:15

652 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/09/15(金) 22:14:43

「…………とまぁ」

 途端に有彦の口から明るい声が漏れる。

「な~んからしくない話しちまったな。お互いこういうのは苦手なはずなのにな」

 ハハハ、といつもの様に笑ってみせる。俺も口の端を持ち上げようと努力するが、できているかどうかは自信がない。

「ん、今日は飯誘ってもらってサンキューな。俺、まっすぐ家に帰るわ」
「…………あぁ」
「帰り道にぶっ倒れるんじゃねぇぞ! じゃあな!」

 タタタ、と軽快に靴を鳴らして有彦は走ってその場を去った。俺はしばらくその場から動けなかった。

「…………」

 同じ世界にいない。確かにそうかもしれない。でもな、有彦。

 やっぱり俺の中で、お前は乾有彦だよ。

「……………………さて」

 深呼吸一つ。何だかんだで遅くなってしまった。明日も早いんだ、屋敷に戻ろうか。
 俺は決して軽くはない心持ちで帰路へと向かった。



「兄さん! 遅いではないですか!」

 屋敷に帰って最初に出迎えてくれたのは妹の怒声だった。

「あぁ、悪い。思ったより話し込んじゃってな……」
「………………」

 俺の顔を見るや秋葉は少し表情を沈ませた。

「ん、どうした秋葉?」
「いえ……少し疲れてるようなので。今日の所はこれで許しときましょう」

 珍しい事もあるもんだ。少なくとも一時間ほどの説教は覚悟していたんだが。

「明日の稽古に響いても困りますんでさっさと寝てください。寝不足で貧血になりたいのなら話は別ですが」
「…………ハハ」

 そっぽを向いて言われた言葉を聞いて俺は思わず笑ってしまった。
 心配なら心配だと、そう言えばいいのに。

「な、何を笑ってるんですか兄さん!」
「いや、何でもないよ。それじゃあお言葉通り今日はゆっくり寝かせてもらおうかな。おやすみ、秋葉」
「え、えぇ…………おやすみなさい」

 秋葉が呆気にとられている内に俺は階段を上り、部屋へと入りそのまま床に就いた。

「…………ふぅ」

 体の緊張が解け、一気に体の気だるさが全身に広がる。
 稽古自体が体に応えたのもある。だけど、それ以上に色んな人と会って、話した方がこたえてる。




 ワラキア、有彦、それに……




「………………………………………………弓塚」


 眠りにつく最後の最後まで頭の中にいたのは、俺が必ず守ると約束したひとだった。

653 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/09/15(金) 22:23:44


選択肢、そうして俺は……

白:淫らな夢を見た。うpろだにてテキストをあげます。

昼:淫らじゃない夢を見た。誰かさんが夢に出てきます。

夢?:普通に起床。そして普通に学校です。

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2006年09月15日 22:36