781 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/18(月) 02:26:54
「着いたぞ。ここだ」
氷室に案内されてやってきたのは、新都の駅前から程近いマンション群のひとつだった。
所謂高層マンション、その中に氷室の家があるという。
「これは……すごいな……」
天を突いてそびえる建物を見て、俺は思わず感嘆のため息をついてしまった。
一番上を見ていると首が痛くなってくる。
地上から見上げるほどの場所に住んでいる、という感覚は、屋敷住まいの俺には想像がつかない。
「確かに、高さだけなら立派なものだろうな。
だが、中の人間はそうとは限らん。あまり気負わないでいいぞ」
そう言いながら、郵便入れを開けて、中に入っていた数枚の紙を取り出した。
アパートにありがちな安いつくりのチラシなどは一切入っていない。
これで気負うなと言われてもなぁ……。
「こっちだ」
氷室はすぐさま踵を返すと、すたすたとエレベーターの前へ。
そのボタンを押すと、1階で停まっていたのか、すぐに扉が開いた。
「乗ってくれ」
「お、おう」
エレベーターには誰も乗っていなかった。
無人のエレベーターに入っていく氷室。
遅れて俺がそれに続く。
氷室は開閉ボタンを押すと、続けて階層ボタンを押す。
階層は……9階。
『扉が閉まります』
備え付けの音声と共に扉が閉まり、エレベーターが動き出した。
「……今更な気もするけど、俺がお邪魔してよかったのか?」
昇っている間、黙っているのもなんなので、気になっていたことを尋ねてみる。
郵便受けに入っていた手紙を検分していた氷室は、俺の言葉に意外そうに眉をひそめた。
「本当に今更だな。家には誰もいない、と言っただろう」
「ああ……両親とも留守って、よくあることなのか?」
「父親が忙しい人だからな。その妻である母親も色々と走り回っているのさ」
それと、と、氷室は左手の指を立てて言葉を続けた。
「呼んだ理由はそれだけじゃない。
偶然とはいえ、衛宮のドールには自己紹介をされてしまったからな。
私のドールも紹介しておかなければ不公平だろう?」
左手の薬指、そこには電灯に鈍く光る薔薇の指輪。
……なるほど。
今回のお宅訪問にはそういう意図があったのか。
俺はてっきり…………まて、てっきりナニを期待していたんだ、俺。
ちょっとした自己嫌悪に陥っていると、チン、という音と共にエレベーターの上昇が止まった。
どうやら9階に着いたらしい。
扉が開いて、9階のエントランスが視界に入る。
入れ替わりで乗り込む人はやはり居ないようだ。
再びすたすたと先に進む氷室。
続いて俺もエレベーターから降りる。
エントランスからは、右手と左手にそれぞれ一つずつドアが見えた。
どうやら1つの階層に2世帯が住んでいるようだ。
氷室はその内の右手側のドアの前に立つと、ポケットから鍵を取り出した。
それをドアノブに挿し込み、半分ひねると、カチッという音がしてドアが開いた。
「さあどうぞ、入ってくれ。衛宮の家に比べれば狭いだろうがな」
「お、お邪魔します」
勝手を知った様子で敷居をまたぐ氷室に対して、招待された女の子の家ということで若干緊張していることが否めない俺。
思わず脱いだ靴をキッチリと揃えてしまう。
玄関の中は、マンションにしては十分すぎるほど広い空間があった。
さすが高級と冠するものと言ったところか。
廊下の正面にはテレビやソファが置かれた部屋が見えるが……。
「そっちがリビング。左手の奥が私の部屋だ」
タイミングよく間取りの説明をした後、氷室は廊下の右手に引っ込んだ。
どうやらそちらがキッチンらしい。
見れば、ヤカンに水を張って火にかけようとしているところだった。
「……茶を入れるには少々時間がかかるな。先に部屋に行っていても構わないぞ」
氷室は、ガスコンロの火とにらめっこしながらそう言った。
それじゃあ……。
α:先に氷室の部屋に行って待っている。
β:氷室がお茶を入れるのを待って一緒に行く。
γ:部屋の片付けとかあるだろうし、氷室を先に行かせる。
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最終更新:2006年09月18日 06:32