759 名前: 言峰士郎-1 (eYkk4Fu6) 投稿日: 2004/12/05(日) 19:06

――――少年は、魔術師でもなければ、魔術使いでもなかった。
あの大火事の後、義父に救われた彼は、その姿に憧れ――そして義父を目指した。
その為に必要なものは極僅かだったが――――そこに到達するまでの道は果てしなく険しい。
だから少年は魔術を習い始めた。それは、夢への道程の手助けとなる筈だから。
義父の元で、姉弟子である少女と共に……。
いや、まあ、魔術の修行よりも――少女に振りまわされたり、少女に虐められたり、少女にからかわれたり、の方が何倍も辛かったのではあるが。
その甲斐あってか、少年は『見習い』が付くとは言え義父に追いつくことができた。

そして、その年の冬。

少年は義父から最終試験だ、と『ある課題』を提示された。

――――聖杯戦争――――

奇跡を叶える、文字通りの願望器を求めて行われる魔術師達の殺し合い。
それに参加し、生き残れ。


これが少年――――――言峰士郎という、代行者見習いに与えられた試練だった。


760 名前: 言峰士郎-1 (eYkk4Fu6) 投稿日: 2004/12/05(日) 19:07


――――教会の床、其処に『神の血』と称されるワインで召喚陣を描いていく。

「――――聖杯戦争に参加するのであれば、サーヴァントを召喚しろ、か」

サーヴァント。
聖杯戦争において、魔術師の『武器』であり『相棒』となる存在。
世界の枠から外れ抑止の座に納まった『英雄』を召喚する――というのだから驚きだ。
とはいえ、いくら魔術師にも――俺はそもそも魔術師ですらないが――そんな芸当はでいない。
できたとしても、そんな事ができるヤツが何人もいて溜まるか。

結局のところ、幾つかの『枠』に当て嵌まる英雄―英霊を聖杯が選び、それをマスター達が召喚する、という事になるのだと言う。

でまあ、その英霊、サーヴァントの中でも、特に強力なヤツを呼び出したければ『縁』が必要不可欠なのだそうだ。
つまり、そのサーヴァントと何らかの関係があるモノ。
例えば、英雄の剣だとか鎧だとか紋章だとか骨だとか、とんでもない値打ち物がいるわけで、当然探すのにも時間が掛かる。

「それなら、親父も何か用意しておいてくれたって良いだろうに」

それを用意するところからが試験だ、という説は却下。
ならば開戦三日前に課題を発表するなと言いたい。

はあ、と溜息を吐き――俺は制服のポケットから紙巻きを取り出し、口に咥える。
中学生の頃、慎二から教わったドラッグを吸っているのを凛に見つかった時のことは良く覚えている。
『神父もとい聖職者を目指すヤツがんなのを吸っても良いと思っているのか!』とか何とか。

でもまあ、習慣になってしまったのだから、仕方が無い。
それにあくまでも『嗜好品』の域を出ないのだし。

「―――消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲む、と……これで良いのか?」

ふむ、と首を傾げる。
まあ――良しとしようじゃないか。

「天におられる我らの父よ」

次に取り出すのは、アゾット剣。
見習い襲名の際に義父から貰った短剣で指に傷を付け、流れ出る血で陣をなぞっていく。

「御名が聖とされますように。  
 御国が来ますように。  
 御心が天に行われるとおり地にも行われますように」

……そろそろ、午前零時。
俺が毎晩鍛錬を行っている時間帯。
自然、魔力の昂ぶりも――その時間に最高潮になるようになっていた。
それを利用しない手は無いわけだ。

「我らの日ごとの糧を今日も お与えください。  
 我らの罪をおゆるしください。我らも人をゆるします。  
 我らを誘惑におちいらせず、  
 悪からお救いください」

―――言峰士郎の中にある、撃鉄を起こす。
ガチン、と音がして―――全身を走る神経が、全て反転していく感覚。
魔術回路。
元々、俺の中に存在する回路は極々僅か。
それに宝石を呑みこんで無理やりに増やした結果が――この、全身を走る二七の回路だった。


――――全身の感覚が消失していく。
取りこむマナがコトミネシロウという存在に塗り変わっていき。
代わりにコトミネシロウという存在が排出されていく。

つまり、ココに存在するコトミネシロウは、魔術を構成する一部品に過ぎないということだ。


「――――――――――――――」

全身を流れていく血は、全て魔力。
これ以上の昂ぶりはなく、また昂ぶりがこれ以下になることは有り得ない。


さあ、告げよう。


「聖父と聖子と聖霊の御名によりて―――」


この魔術を行うのに必要な、最後の一節を。


 エイメン 
「Amen」



―――――――――――――視力が停止する。
地下室に巻き起こるは、肉眼で認識するのが不可能とされる第五要素の乱舞。

故に、潰されるのを恐れ眼球は自らの役目を放棄した。



そして、その嵐が収まり目を開けた俺の目の前には―――


1.ローブに身を包んだ女が立っていた(サーヴァントは魔女編)
2.黒いマントに白面の男が立っていた(代行者ふたり、ただし宗教違います編)

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最終更新:2006年09月24日 18:18