417 名前: 言峰士郎-13 (eYkk4Fu6) [age] 投稿日: 2005/03/08(火) 21:05:35
――――予測できる範疇ではあった。
中近東の人間は白人より、黄色人種に近い。イエス・キリストだって映画やコミックで描かれるような白人系の顔ではなく、良い意味で男臭い、スラブ系統の顔だった筈なのだから。
ちょっと話は逸れるが、だもんだから某プレジデントが『がっしゅーこく』はキリスト教の国だからスラブのテロリストを殲滅しても良い、とか言ってるのは……宗教的に考えても、どっか間違っている事になる。つーかキリスト様は戦争なんて認めてないんだが。
そもそも、日本ほど大人しくは無いが――イスラム過激派なんていうのは、本当に極々一部でしかなかったりする。
宗教というのが、人間が作り上げた理性の一種(神様という自分より上の存在の言葉と考える事で自己を抑制する手助けになるのだとか)である以上、殺人を許可する宗教なんていうのは――新興宗教を除いて、基本的には有り得ないのだ。
多くのイスラム信者たちは、テロに心を痛め、犠牲者の為に祈りを捧げ――正義の『がっしゅーこく』様の無差別爆撃とやらで吹っ飛ばされている。酷い話だ。
だもんだから『神様の為に』と言って殺し合ってる代行者なんていうのは、やっぱり異端なわけだ。
山の翁――アサシンがイスラムの異端であると判断されたのも、同じ理由からだったのだろう。
そう思えば、俺が彼女を召喚したのも――ドラッグ=麻薬だけが理由ではなかったのかもしれない。
閑話休題。
故に、彼女が黒い瞳と黒い髪の持ち主であることは、十分に予測できたはずだったのだ。だったのだが――――。
「――――――」
アサシンの顔は、その、ちょっとばかり想像の斜め上を行っていたりした。英霊補正なのか素の顔なのかはわからない(疑っているわけではないが)が、ともかく美人さんだったのだ。
「――――――」
「――――――」
「――――――」
「――――――」
見詰め合うこと数秒。凛辺りに見られたら鉄拳制裁されるかもしれん。理由はわからんが。
「――あー……恥ずかしかったりする?」
「…………………………………うむ」
結局、謝って仮面返して謝って晩飯は腕を振るうことを約束して謝って――それで勘弁してもらうことにした。
でも、まあ。
ちょっとラッキーだったかな、とは、思うのだけど。
418 名前: 言峰士郎-14 (eYkk4Fu6) [age] 投稿日: 2005/03/08(火) 22:01:30
チャイムが鳴って、目が覚めた。立ちあがって礼、さよーなら。
挨拶が終わると、我らが担任、葛木先生はさっさと教室を出ていってしまう。
なんでも学年が始まってから一語一句間違えたことがない挨拶、という事で有名らしいのだが――殆どを寝て過ごしてる俺は、一回も聞いたことが無いので、正直言えば良くわからない、というか知らない。
「……相変わらずの堕落っぷりよねぇ」
五月蝿い。心中で凛に毒を吐く。口に出して言ったら……想像もしたくない。アイツは一度プッツンすると容赦無く――魔術使用も含めて本気で来るから、殺されかねない。
まったく、せめて学校でくらいは、そーいう世界と縁を切りたいと言う幼馴染の切実なお願いを理解できんのか、貴様は。
「――あたしだって好きで士郎の幼馴染になったわけじゃないけど?後から来たのは士郎の方だし」
オウ、ジーザス!誰か、コイツに正しい幼馴染のイメージを叩きこんであげてください!例えば其処でカバンを肩に下げて立ちあがった後藤くんなんかどうだろう、と話を振って見る。
「おい……やらないか?」
「ご勘弁願うでござるよ。
遠坂殿には、できれば妹についての講釈をしてみたいところなのではござるが、それをやると命が無いゆえ、御免!」
……ウホッ、良い男、とは言ってくれないか畜生。さっさと帰っていく後藤くんを袖を噛みつつ見送って、俺もカバン代りのナップザックを背負う。
「あ、なんだ。士郎はもう帰っちゃうのか?ゲーセンに行こうかと思ってたのにさ、柳洞も誘って」
「むう。今日こそは貴様に昇竜拳で引導をくれてやろうと思っていたのに!」
親友二人からのお誘いだ。どーも先週、格ゲー初心者の柳洞一成を、調子に乗って三回ほどノしたのが、この坊主には気に入らなかったらしい。ケツの穴の小さい男め。
「HAHAHA!!貴様のケンじゃ俺のエドモンドには、まだとどかねえよ」
「じゃあ僕のチュンリーならどうだろう?」
「ま、手加減して五分かね」
「吼えてろよ」
ニヤリと笑う慎二に、ニヤリと笑い返してやる。
「まあ良い。
言峰士郎が誘いを断るのは珍しいからな。よほどの用事なのだろう。
今日は貴様への仇討は諦めるとしよう」
「と、言うわけで――まあ、僕達は二人で楽しくやってるよ」
――きちんと理解してくれる良い奴らだ。折角の誘いだったのに、残念。
まあ、言峰綺礼の命令を聞かないと、悪魔のどくどくマーボを食わされる羽目になるし、なによりお客に申し訳が立たんからな。
「悪い――それじゃな」
ひらりと手を振って、教室を出る。
さっさと階段を降りて、下駄箱へ直行。靴を履き替えて教会へと下校する。
419 名前: 言峰士郎-15 (eYkk4Fu6) [age] 投稿日: 2005/03/08(火) 22:02:24
俺の家は、街に一軒――というと店みたいだな――ともかく一つしかない教会だ。その教会の主であり、日曜朝の集会と、週に最低一回のマーボーを欠かさない似非神父が、非常に残念なことに、俺の義父。
十年前、冬木の街を襲った火事により、両親を失って、一人だけ助かった俺は、他の孤児たちと一緒に、教会へと預けられた。
その教会に、火事の少し前から赴任していた神父が、言峰綺礼――親父だった。
今でも良く覚えている。孤児――仲間が皆、里子に出され、そして最後の一人も義理の両親に引き取られていった日の夜。たった一人だけ貰われず、残されて不安だった俺に、アイツが声をかけてきたのだ。
『神に仕える気があるのなら、私が引き取ってやろう』と。
親父の外道っぷりを理解した現在考えると、何か企んでいたに違いないとは思うのだが――当時の俺は喜んだし、今の俺も感謝している。
そして、忘れられないのは――それから過ごした一日のこと。
頷いた俺には病室のような部屋から個室が与えられ、親父の友人の『金ぴか』に紹介されて、我々言ってるけど良い奴だと理解して、そして久しぶりに『家族』と囲んだ晩飯が楽しくて嬉しくて、そのマーボがとても辛くて、ちょっぴり泣いて。
で、その次の朝に、親父が言った台詞が――今の俺を作ることになる。あいつ本人は覚えていないだろう、ちっぽけな台詞。
俺が、アンタただの神父じゃないだろう、と聞いた――その返答。
『うむ。私はな、神に仇なす敵を狩る代行者だ――わからないのか?
ふむ。簡単に言えば、エクソシストだ』
その台詞が、思ったより後を引いたらしい。
引き取られてから二年くらい経ってからか。信仰心と――癪なことに、『エクソシストの糞親父』に対する少しの憧れから、代行者になりたいと告げたのだ。親父が、珍しいことに、えらく奇妙な顔をしていたのを覚えている。
父兄参観には殆ど来ず。
遠足や運動会ではマーボ弁当しか作らず。
ロクに親らしいことをしなかった親父。
その親父が、俺の言葉を聞いてから――たった一つだけやってくれたのが、代行者になる為の訓練だった。
『やれる事をとことんやる』
魔術が苦手だった俺に格闘技術を叩きこみ、神に対する知識と、異端に対する知識と、生き残る為の心得を教え、俺がある魔術にだけ才能があることを知ると、それをトコトン練習させてくれた。
だから、非常に悔しいことに。
俺、言峰士郎は義父、言峰綺礼に感謝している。
で、問題が一つ。
「――なぁにをボーっとしてるんだか」
「……人がこー、良い雰囲気で回想しているのに、なんで貴様はついて来やがりますか、この赤い悪魔」
言峰の妹弟子で、俺の姉弟子の遠坂凛。
世の中の大きなお友達がイメージし、俺もまあ漠然と抱いていた幼馴染像は木端微塵に粉砕された。
――殺されかけた回数は両手の数では効かない。三途の川の渡し守に『君が渡る時は六銭いらないよ』なんて事を言ってもらえるくらいの親友になれたのは彼女のお陰だ。ていうか、なんで死後の世界が仏教なのかと。
しかも、こいつ、反省なんざしない。悪い事しても開き直る。捻くれモノめ。
対抗する為に俺が捻くれたのは貴様と――親父の所為だ、畜生め。
420 名前: 言峰士郎-16 (eYkk4Fu6) [age] 投稿日: 2005/03/08(火) 22:03:13
「別に良いじゃない。幼馴染なんだから一緒に帰ったって」
「都合の良い時だけ幼馴染するなよ。そうでなくたって、マスターなんだろ、凛も?」
そう。聖杯戦争のマスター候補にして現在はマスター。冬木の街の、魔術的オーナーの家系なんていう家柄なコイツがマスターにならないわけがないわけで。
敵対したら――負けそうな予感がするのは、まあ、非常にアレなのだが。
「――で、士郎はもう呼んだの?」
「俺の質問に答えてないな」
「始まったら敵同士だけど、ね。まだ始まってないじゃない」
「……て、事は、あれか。今の質問は『幼馴染の言峰士郎』に対する質問と捕らえて良いのか?」
コクン、と頷く彼女を横目で見つつ、制服の内側から煙草――もといドラッグを引き抜いて、口に咥える。
見ただけで人が殺せそうな睨み。別に良いじゃないか、ドラッグくらい。煙草よりも習慣性は無いんだぞ?
「――で、どうなの?」
「俺が素直に質問に答えるわけがないだろ?」
ニヤリと不敵な笑みで答えてやる。
「……まあ、どーせ凛はまだ呼んでないんだろ?
せーぜー、うっかりポカして妙な英霊呼ばないよう、祈ってるぜ」
「なッ……!!」
怒ったのかムッとしたのか両方なのかで顔を真っ赤に染めた凛を置いて、走り出す。
教会と、遠坂の屋敷との分かれ道。ここから先、聖杯戦争が始まるまでは、彼女と顔を会わせることは無い――そんな予感もあったからか。
俺は、ちょっと俺らしくないことをやらかした。
ふりむいて、追いかけて来る彼女にむけて、笑いかける。
「『幼馴染として』応援するから、ガンバレよー!」
即座に教会の方を向いて、走り出す。
――だから。
「―――――士郎もね!!」
俺は、その台詞を、彼女がどんな顔で――『マスター』としての顔でか『幼馴染』としての顔で言ったのかは、わからなかった。
そして、その夜に、聖杯戦争は開始して。
俺は運命に出会った。
その時、俺は――――。
1.血の臭い立ち込める教会にいた。
2.剣戟の音が響く学校校庭にいた。
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最終更新:2006年09月24日 18:31