201 名前: 言峰士郎-30 [sage] 投稿日: 2006/03/28(火) 22:20:58

ニヤニヤ
 ――Interlude


 夢を見ている。
 それは、五年前の冬の夢。

 月の綺麗な夜だった。
 自分は何をするでもなく、父であるキリツグと月見をしている。
 冬にしては暖かかったけれど、私には少し寒くて、
 縁側でキリツグに寄り添いながら、アインツベルンでも見たことのない奇麗な月を見ていた。

 この頃、キリツグは外出が少なくなっていた。
 あまり外に出ず、家にこもってのんびりとしていることが多くなり、
 そして、母様が死んだ頃から現れた疲れの痕は、酷くなっていた。

 ……今でも、思い出せば後悔する。
 それが死期を悟った動物に似ていたのだと、どうして気がつかなかったのか。

「子供の頃、僕は正義の味方になりたかった」

 ふと。
 自分から見たらだらしない父親そのもののキリツグは、懐かしむように、そんな事を呟いた。

「なにそれ。 憧れてたって、キリツグは諦めたの?」

 むっとして言い返す。
 キリツグはすまなそうに笑って、遠い月を仰いだ。

「うん、残念ながらね。 ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。
 そんなコト、もっと早くに気がつけば良かった」

 そう言われても納得できなかった。
 なんでキリツグが諦めたのかは分かったけど、キリツグの事だから、きっとまた間違ってると思ったのだ。

「そっか。 でも、難しいだけでしょう?」
「そうだね。 うん、難しいだけだったかもしれない」

 相づちをうつ切嗣。
 だから当然、私の台詞なんて決まっていた。

「うん、だったら私が代わりにやってあげる。
 キリツグは難しいことをやめちゃったけど、私なら大丈夫。
 まかせて、キリツグの夢は」

“――――私が、ちゃんと引き継ぐから”

 そう言い切る前に、キリツグは微笑った。
 私の言う事なんてわかってるっていう、いつもの顔だった。
 キリツグはそうか、と長く息を吸いこんで、

「ああ――――安心した」

 静かに目蓋を閉じて、その人生を終えていた。


 それが、朝になれば目覚めるような穏やかさだったから、幼い自分は騒ぎ立てなかった。
 死ぬという事が良くわからなかったのもあるけれど。
 何をするでもなく、冬の月と、長い眠りに入った、父親だった人を見上げていた。

 庭には虫の声も無く、あたりはただ静かだった。
 明るい闇の中、両目だけが熱かったのを覚えている。
 泣き声もあげず、悲しいと思う事もない。
 ……だから、それだけ。
 あの時、これが最期だと知っていたら、この時くらいは素直に甘えて、キリツグを喜ばせてやったのに。
 キリツグのことは好きだった。
 魔術師としても、父親としても、良いとは言えないヒトだったけれど。
 あのヒトはやさしくて、そして自分を愛してくれていた。
 自分は意地っ張りで、なかなか素直になれなかったから。
 それが結局、一度も素直になれなかったのが、悲しいといえば悲しかった。

 それが五年前の冬の話。
 むこう十年分ぐらい泣いたおかげか、その後はサッパリしたものだった。

「――――よし。それじゃあ一つ、気合い入れて、一人前になりますか―――」

 子が父の後を継ぐのは当然のこと。
 こうして、私……衛宮イリヤの往く道は決定した。
 ……だけど、正直よく分からない。
 それは、私なんかが――――

「ゲェェェェェェットォッ!」
「――へ?」

 ……その瞬間、私は思考の海から、現実へと回帰した。

 ――Interlude out

205 名前: 言峰士郎-31 [sage] 投稿日: 2006/03/29(水) 01:07:23

「――へ?」
 さすが、全男子渇望の漢イベント!
 この軽さ、細さ、可愛さ。まさにグゥレイトォォッ!と叫ぶべきところでしょうか。
「…………」
「…………」
 驚愕から一転、肩越しに此方を振り向いて来るラヴリーな先輩。
 それに何も言わずに無言でさわやかに笑って見せる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…えいっ」
「ぎゃっ!」
 ドカンと一発頭突き炸裂。 ほ、星。星が見えるスター!
「ちょっとシロウー!レディをいきなり持ち上げるなんて、なに考えてるのよー!」
 ドカンドカンと回数2倍!ダメージも2倍!あわせて4倍!ス、スターダストメモリー!
「いやっ、これはっ、あくまでっ、せ、選択肢っ、が、顔面陥没ッ、選んだだけ、け、警察より救急車っ」
「ん~んん~? 顔がイタァい?」
 ドカンドカンドカン。く、黒い三連星!
「し、質問があります、先輩!」
「ん~な~に~?」
「あ、謝るから! 頭突きはもう勘弁!」
「ならフルールのケーキ食べ放題ね」
 俺の今月の小遣い―――ッ!




 ささやき、いのり、えいしょう、ねんじよ!
 ストーブは、はいになった!

「いや、ならないならない」
「?」
 夕暮れの教室。
 隣りには可愛い女の子。
 でもってお亡くなりになったストーブ&それをガチャガチャ弄ってる俺。
 色気も糞も無いなあ。
「ねえ、シロウ。これ終わったら、ちゃんとケーキ付き合ってよね?」
「わかってるって」
 そして、俺の横でこんなことを仰るイリヤスフィール・エミヤさん。
 ちなみにドイツと近所の森に城を持ってる。驚きだ。つか城ってなんだよ城って。キャッスルかよ。
 ドイツ語で言うとシャトー?シャトーショコラ。違う。
 畜生、そんな城に住んでる奴は心臓でも抉り出されてしまえ。
 心中で毒づきながらガチャガチャと工具を弄りまわして死者の蘇生に勤しむ。これで俺も立派な異端者だ。
 つーかね、代行者が死者蘇生なんかしちゃいかんでしょうが。
 昔から死体蘇生者は死体によって殺されてるってぇくらい縁起が悪いんだし。ウェストさんやフランケンさんのお仲間になるのは勘弁な。
 ……となると、俺の最後は復活したストーブによって死亡? アタックオブザキラーストーブ!何処のB級映画だ。
「ねえ、シロウ?」
「……あん?」
 手を止めずに、声だけで返す。
「シロウってさ、怖いもの知らずだよね」
「そうかー? 結構怖いもの多いぞ、俺は。マーボとかマーボとかマーボとか。あと現金」
 わりと最後のは切実。それと美味い茶が一杯怖い。
「でも、ほら、給水塔の上で私抱っこするなんて、普通のヒト怖くてできないよ?」
 そこに座ってた上に、そこで人に頭突きかました娘さんに言われたくないやい。
「んー、そんな事もないけど。アレだ。イリヤ先輩に見惚れてたって事で一つ」
「そんなんじゃ誤魔化されないもん」
 ぷー、と膨れてるイリヤ先輩。拙い。わりとマジだったんだが、せっかく安定した機嫌が吹っ飛ぶと、俺の来月の小遣いがピンチピンチになってしまう。
「じゃあ先輩、一緒に遊園地のお化け屋敷とか行ってみようか? 幻滅すること請け合い請け合い」
「むー……なんとなく、シロウって女の子置いて逃げそうな気はするけど」
 酷い。そこは否定して欲しい。俺は女の子を置いて逃げるなんて事はしない。女の子を抱えて逃げるのだ。
「でもさ先輩。なんだって、俺が怖いもの知らずだって思うわけ? んな事ないと思うんだが」
「――だってさ。シロウって……死ぬの、怖くないでしょ?」



「ったく、土曜だからってノンビリやってちゃ駄目かー。
 悪い、先輩。ケーキは月曜って事で」
「わかった。――ありがとね、シロウ」
「どーいたしまして。ま、俺でよけりゃあ立ってる限り、いつでも使ってくれ」
「――っと、どうする、先輩。送っていこうか?」
「嬉しいけど、私、鍵を返さなきゃならないから……シロウは、先に帰ってて」


 そう言って、先輩は俺と弓道場前で別れた。
 ――結局、校内全てのストーブの死亡確認した時には、日が暮れていた。
 原因は、主に俺。弓道場の死んだストーブを根性論であの世から引きずり戻すのに意地になってたからだ。
 門限になっちまうから帰れーと先輩には言ったのだが、門限過ぎたらもう時間は関係ないと、付き合せてしまった。
 ……やれやれ。
 溜息を吐きながら、空を見る。風が出ていた。
 あまりの冷たさに、頬が凍りそうだ。こんなに寒いと、先輩も辛いだろうに。


 い.――待つか
 ろ.――いや、帰ろう。

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最終更新:2006年09月24日 18:52