104 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/25(月) 08:59:21


「おい、待てよ水銀燈……悪いけど、なにがなんだかさっぱりだ」

 正直に言えば。
 アリスゲームも薔薇乙女《ローゼンメイデン》の定めとやらも、俺には全くわからない。
 それでも、いや、だからこそ、何も知らないまま戦うことなんてできない。
 ドールだって、言葉が通じる相手なんだ。
 話し合えばわかることだって、きっとあるはず……。

「せめて、事情を説明してくれないか?
 戦うのなら、それなりの理由があるんだろう?」

 水銀燈は鬱陶しそうに言葉を返した。

「……悠長なことを言うのねぇ。
 あの女が手遅れになってもいいの?
 まあ、私はそれでも構わないけど」

「…………え」

 その言葉は。
 この日聞いた言葉の中で、一番不吉なものだった。

「……待った。それって、どういう」

 水銀燈は仕方ない、とでも言いたげに説明しだした。
 無論、注意は雛苺に向けたままだが。

「私達ドールは、ミーディアムを媒体にして力を使うことが出来る、っていうのはもう話したわよね?」

「ああ、人間の持つ魔力を、ドールに分け与えるんだろう?」

 それは、魔術師と使い魔の契約に似ている。
 魔術師から送られる魔力を動力として、使い魔は行使されるわけだ。
 魔力の供給が途絶えれば、使い魔は活動を停止する。

「ええ。じゃあ、もし人間が持っている以上の力をドールが消費してしまったら、どうなると思う?」

 魔術師の容量《キャパシティ》以上の魔力を消費する使い魔だって?
 そんな使い魔は有り得ないし、そもそも行使できるような存在では――いや。
 俺には、そんな常識破りな使い魔の、心当たりがあるじゃないか。

 ――サーヴァント。

 過去の、そして未来の英霊を使役するという、聖杯戦争でのみ許された規格外の使い魔。
 もしも。
 彼らが全力で戦い、その魔力のツケを全て魔術師からの供給で補うとしたら……?
 あまつさえ、そのマスターが魔術師でもなんでもない一般人だとしたら……?

 背筋を悪寒が駆け抜ける。
 その悪寒の答えは、水銀燈がはっきりと明言してくれた。

「ドールに力を吸われすぎたミーディアムは、ドールに吸収されて消滅するのよ」

 消滅。
 人間に対して用いるにはあまりにも非現実的な表現を、水銀燈はあっさりと使った。

105 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [ヒント:縦読みsage] 投稿日: 2006/09/25(月) 09:00:27


 視界がぐらつきそうになる。
 咽喉が渇いてカラカラだ。
 のたうつような舌を動かして、ひび割れるような声で、俺は尋ねた。

「……助ける方法は、無い、のか?」

「助ける方法?
 簡単よ。
 雛苺を壊してしまえばいいだけなんだから」

 あっさりと。
 またしても水銀燈は、明解で不吉な答えをさぞ簡単そうに口にしてくれた。

「え……?」

「そうすれば、もう力を吸われる事は無い。
 あの女が完全に消滅してしまう前に、雛苺をバラバラにしてしまえば、それでおしまい」

 ぱっ、と、何かを弾けさせるようなジェスチャーをしながら、水銀燈はクスクスと笑った。

「まあ、どのみち雛苺は壊しちゃうつもりだったけれど。
 ……でも、そうねぇ……」

 そうして、改めて頭上を見上げる。
 雛苺。
 そして、少し離れた場所に捕らわれた氷室の姿。
 その片方……氷室のほうを指差して、水銀燈は俺に尋ねた。

「……もし貴方があの女を見捨てて構わないって言うのなら、雛苺の命だけは助けてあげてもいいけどぉ?」

「なっ……!?」

 氷のような微笑を浮かべて、そんなことを、口にした。


 三人の視線が俺に集まる。
 つめたく、底の知れない水銀燈の目。
 めっきり衰弱してしまった氷室の目。
 のら犬のように怯えている雛苺の目。
 答えを求める六つの瞳に、俺は思わず息を呑む。
 ええい落ち着け、考えろ、考えるんだ。

 どうする、どうすればいい。
 っ、頭が割れるように痛い。
 ちくしょう、こんな難題を突きつけられるなんて。
 もはやどちらかしか救えないっていうのか?
 助けられるなら、二人とも助けてやりたい。
 けれど、そんな力は俺にあるのか?
 ろくでもないことばかり、弱い思考が頭を占める。


 俺は――――


α:雛苺を■して氷室を助ける。
β:氷室を■して雛苺を助ける。

γ:(新たな選択肢となる一文がどこかに隠されている。その一文を添えて記せ)

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最終更新:2006年09月25日 10:21