181 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/27(水) 00:25:40
「氷室は助ける。だけど、雛苺も殺さない」
俺がそう宣言すると、水銀燈の眉がピク、と吊り上がった。
「……なんですってぇ?」
「氷室は死なせない。
それは絶対だ。
けど、そのために雛苺を殺すことが、正しいとは思えない」
「何を言っているの、お馬鹿さぁん?
そんな都合の良いことが、出来るとでも……!」
咎めるように俺に言い募っていた水銀燈が、不意に顔を上げた。
頭上から降下してくる幾つもの影。
雛苺のヌイグルミだ。
痺れを切らして攻撃してきたか。
「ふん……『アリス』になるのは私。
所詮、私以外の薔薇乙女《ローゼンメイデン》は全て敵よ」
水銀燈の周囲を、黒羽が舞い踊る。
その数はこれまでよりも多く、既に黒雲のような密度になりつつある。
……『アリス』。
それは人形師ローゼンの追い求めた、究極の少女。
その雛形として作られた水銀燈、そして他6体のドールたち。
水銀燈は『アリス』になる、と言った。
それが水銀燈の目指すものなら、俺にはそれを止める理由は無い。
だが……そのための手段が、ひどく気に入らない。
水銀燈の翼が大きくたわむ。
一斉に打ち出そうとするそれを――俺が片手で制した。
「……士郎?」
「――投影、開始《トレース、オン》」
手の内に現れた質量を縦横に振るう。
8秒で、全てのヌイグルミを叩き落した。
「な……!」
「……俺はね、水銀燈。
正義の味方になりたいんだ」
右に干将、左に莫耶。
振り抜いた姿勢のまま、背後に語る。
「誰かを救うには、誰かを切り捨てなきゃいけない。
俺にはそれが許せない」
背中越しに水銀燈が見ているのがわかる。
何を思われているのか、それはわからない。
言葉を続ける。
「前に言ったよな。
自分をジャンクと認めるか、って。
ああ、確かに俺は壊れかけだ」
ふと、いつか見た背中を思い出す。
無言の背中で、大事な何かを俺に語ったアイツ。
……今の俺の背中は、水銀燈にはどう見えているのだろうか。
「けど、ジャンクにだって理想はある。
誰だって、誰も泣かないで済むならそのほうが良いに決まってる。
だから俺は正義の味方を目指す。
そう決めたんだ」
振り返る。
水銀燈は宙に浮かんだ姿勢のまま、俺をじっと睨んでいた。
……当然か。
水銀燈の『アリス』への熱意は充分に理解しているつもりだ。
そのやり方に真っ向から反対したのだ、不愉快でないはずが無い。
やがて水銀燈は口を開いて、こう言った。
α:「……下らなぁい。やるなら貴方一人で勝手にやりなさい」
β:「……ふん。本当に世話の焼ける下僕ねぇ」
γ:「……下僕風情が、この私に逆らえるとでも思ったの?」
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最終更新:2006年09月27日 04:15