142 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/09/26(火) 00:43:08



言峰士郎0-2『欲しくないかい?スカッと決めたヒーローをさ!』

――さて、何は無くともスタコラサッサだぜ。
やって来たのは金の無い学生のサンクチュアリ、家計のやりくりに困る奥様のアヴァロン、我が永遠のアルカディア。
俺達に夢と希望と財布の余裕を与えてくれるでっかい商店街、マウント深山商店街である。

「さって、と……晩飯を何にするべぇかな」

晩飯前の夕方となれば、奥様がたで埋め尽くされている商店街。
ここは質の良い野菜やら肉やらを仕入れてる――らしい。味なんか大差ないと思うんだが。
ま、ともかくそれ故に日持ちしないんで、今日中に売り捌こうと、値段が結構下がるのだ。
実に素晴らしいね。貧乏人にゃ、これ以上無いくらい良い。最高だ。

「野菜と豚バラ。あとはインスタントの味噌汁があったから、そいつで良いか」

食事なんざ腹に入っちまえば変わらんしな、ぶっちゃければ。
栄養さえちゃんと考えてりゃあ、それで良いわけだし。
料理の美味い不味いなんぞ、大した問題じゃない。
昔のエロイ人も言ってるじゃあないか。
「料理に美味いも不味いもない。高価いか安価いかだけだ」って。
……上品も下品も無い、美味いか不味いかだけだっけ?

「まあ、何にせよ……衛宮の先輩に聞かれたら、なんか怒られそうだけどなー」

ケケと笑いながら適当に野菜を物色する。
どいつもこいつも素敵な価格。本当、俺達はまだ野菜の底値ってのを知らないなあ。
この八百屋の経営が思わず心配になっちまう。
でも親父さんが凄い爽やかな笑顔でサムズアップしてくれてると思いこんでおくので気にしない。
なんかもう裏で奥さんが泣き出しそうな顔になってるのなんか見えない見えない。

「そういや、遠坂も呆れそうだな。あいつ、アレで結構料理できるらしいし」

料理に魔術に護身術に勉強に……凄まじいねえ、努力とか才能とか才能とか努力とか才能とかってのは。
俺にゃあ、到底マネできない。する気もない。マネできないのは理解してるから。
だってなあ……努力とか友情とか気合とか根性とか二人合わせれば炎だとかなんて、なあ。
才能の前にゃあ、負けちまうもんだ。
俺と遠坂、ガチで勝負したら――魔術師の遠坂凛には、恐らく到底敵うまい。
ホント、努力する天才ってのはコレだから怖い。努力した凡人じゃ歯が立たないんだから。

……言ってて哀しくなってきた。まったく。
とっとと野菜を購入するべし、購入するべし、抉るように。
しなびてよーが何だろうが、どーせ本日中に胃袋に納まっちまうのだ。
安いというだけの理由でキャベツとニンジンとタマネギとモヤシをチョイス。
勿論、代金におまけして貰えるので買い物袋は持参だ。バックパックから出した布製の手提げに入れてもらう。

「さぁて、後は肉だ、肉……今日も綺麗な、肉のサトウのおばちゃーん、豚バラ肉300gで一つどうよ」
「あらやだシローちゃん、アイドルみたいだなんて、そんなあっ。ちょっとオマケしたげるわねっ」
「ありがとね、おばちゃんッ」
「それとお姉ちゃんって呼んでっていつも言ってるじゃない。
 おばちゃんなんて呼ばれたら、あたしショックのあまり思わず足取りの覚束ない牛のお肉売っちゃうじゃないの!」

……スポンジ脳は勘弁です、おばちゃ――お姉さん、お姉さま。
そんな事を言いつつ、ぽいぽいと袋にテキトーに購入物を突っ込んでいく。
さて、と。あとは――――……。

143 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/09/26(火) 00:45:04


「はーい、卵ワンパック50円!50円だよー! あと残り僅かッ!!」

おおッ!そいつは凄ぇ……なんだってヴァンダボーなんだッ!
すぐ真横の店から聞こえてきた呼び声。
卵なんて朝の目玉焼きになるかゆで卵になるか以外使い道はないが、こいつに乗らなきゃ男じゃねえ。
見れば本当に残り僅か。今を逃せばというか、この瞬間を逃せば間違いなく売り切れちまうッ。
慌てず騒がず、慎重かつ大胆に、俺はすぐさま手を伸ばし――

「おっしゃ、こいつをくれ」「これを貰おうかしら」

……誰ですか、この俺の卵に手を伸ばしているヴァカタレは。
半眼で横を見ると、其処には――――

「……あら、ここは淑女に譲るのが紳士の嗜みでしょう?」

白い髪、金の瞳の――眼の覚めるほど綺麗な、女の子がいた。
黒い地味めな服を着てはいるけれど、何故だろう。
どうしてか『清楚』とか『質素』という言葉は浮かんでこない。
生憎と、語彙量が絶対的に不足してる俺の脳味噌じゃわからない。
だけど……それは彼女からほのかに香る何かのせいかもしれないし、
袖口から覗く、細い手首に巻きついた真新しい包帯のせいかもしれない。
……あるいは、他の何か。もっと『本質的』な何かのせいだったのかもしれない。

ともあれ、俺だって男だ。男だからこそ、女性相手に無茶なことはしない。
ここは潔く手を引―――……

「………ああ、そうだな。確かに、あんたの言うとおりかもしれない」

けれど――すっと横合いから伸びた手がそれを許さなかった。
ソイツは、俺達の手が重なっている卵の隣のパックを引っ掴む。
瞬く間に50円が店員のあんちゃんの手に渡った。良い笑顔だ。
ちくしょう、後藤さんちの奥さん、相変わらずの素早さだぜ。

ラスト1パック。

「だが、男を立てるのが良い女性ってもんじゃあ、ないのかい?」

「良いから早く手を離しなさい、この駄犬」


――ジャッジメンッ・タイムッ!
「おいコブレッティ、お前の態度にゃあ問題があるぞ」:諦めない
「……ええ、でもほんのチョイです」:諦める
「ほんのチョイじゃ仕方無いぜ!」:俺のマブダチ、ロス市警の猛毒デカ、コブラの兄貴だ!

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2006年09月26日 03:53