246 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/28(木) 00:53:50


 ……正直に言えば。
 水銀燈のことだから、てっきり氷点下の如き辛辣な言葉をぶつけてくるかと思った。

「……ふん。本当に世話の焼ける下僕ねぇ」

 だから……呆れた顔を見たときは、正直予想外で。
 思わず、ぽかん、と口を開けた間抜けな顔をしてしまった。

「水銀燈?
 ……怒らない、のか?」

「…………」

 無言のまま、ふわ、と水銀燈は俺の目の前まで近寄る。
 ……なんだ?
 と思った瞬間。

 べちん!

「あいたっ」

 思い切り頬を平手で打たれた。
 本当に人形か、と疑ってしまうほどの強い力だ。

「充分に怒ってるわよ。
 全く、勝手に動くわ、命令には従わないわ。
 まさにジャンク、最悪の下僕だわ」

 ぷい、とそっぽを向きながら、吐き捨てるように毒づく。
 謝るべきだとは思わないが、しかし言い返す言葉もない。
 打たれた頬が、ようやくひりひりと熱い痛みを伝えてきた。

「……だけど」

 するり、と。
 俺を打った掌が、そのまま俺の頬に添えられる。
 白く冷たい水銀燈の指が、頬の熱を冷ましていく。

「今回だけは特別。
 特別に、貴方の言うとおりにしてあげるわぁ」

 ……今度こそ本当に驚いた。
 驚きのあまり、手から干将莫耶を取り落としそうになった。

「なん、で……?」

「……ふん。
 雛苺を壊さない。
 あの女も殺さない。
 確かにジャンクの貴方には、少ぉし荷が重いでしょうねぇ」

 でも、と。
 水銀燈は冷たく、そして美しい笑みを浮かべて言い切った。

「私はジャンクなんかじゃない。
 だから、全てを叶えるなど造作も無いことだって、教えてあげる」

 ……それは、慈しみとか優しさとかでは決して無かったけれど。
 俺は再び、水銀燈に天使の姿を見た。

 ――ああ、そうか。
 わかったことが一つある。
 自然と感謝の言葉が、口をついて出た。

「……ありがとう。
 優しいんだな、水銀燈は」

 俺がそう言うと、言葉の意味を図りかねたのか、水銀燈は一瞬難しそうな顔をして。
 直後に意味を理解したのか、がくんと身体が大きく揺れた。
 ……おい、翼のコントロールを失うほど動揺するか、普通?

「なっ、突然何を言うのよ!
 この私が優しい?
 どこを見てればそんなイカレたことが……」

「え、だってさ。
 俺の我侭のために自分の意見を曲げてくれたんだろ?
 ……うん、俺、水銀燈のことは好きになれそうだ」

「~~~~~っ!!
 そ、そ、そんなことはどうでもいいのよぉ!!
 いいから早くしなさい、ぐずぐずしてると置いていくわよ!!」

 水銀燈が翼を羽ばたかせ、プレゼントボックスの山を登っていく。
 言われるまでもない。
 俺も同時に、脚を『強化』して駆けあがる。

 打ち合わせも無い、端から見たら無策とも見える強襲。
 だが心配は無い。
 お互いの意図は理解できている。
 その意図は――。


α:俺が雛苺を止め、水銀燈が氷室を救い出す。
β:水銀燈が雛苺を止め、俺が氷室を救い出す。
γ:まず、二人掛かりで雛苺を止める。

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最終更新:2006年09月28日 04:57