319 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/29(金) 23:18:32


「Non、来ないで、来ないでぇ!!」

 雛苺が駄々っ子のように、デタラメに腕を振り回す。
 それにヌイグルミたちが反応し、一斉に殺到する。
 目標は――水銀燈か!

「……温いわねぇ」

 だが水銀燈は、羽根一枚にすら掠らせない。
 真正面から肉薄するヌイグルミ群を、ひらりひらりと避けていく。
 ……口で言うのはたやすいが、実際はそれほど簡単ではない。
 俺は身を持って経験したが、アレは幾つものヌイグルミがただ降って来るだけではなく、それ自身が意思を持っているように軌道を変えて襲ってくるのだ。
 だが水銀燈は、その隙間を縫うように避けながら進む。
 それはまるで踊るように。

「……つまらなぁい。
 壊さない、って約束だけど。
 少しぐらいならぁ……責めてもいいわよねぇ?」

 そう言うや否や、俺が了承を返すより早く、水銀燈の翼が翻った。
 取り出したのは、たった一枚の黒羽。
 水銀燈はそれを掌に乗せると、ふうっと一息吹きかける。

「行きなさぁい」

 途端に、黒羽はカタパルトで打ち出されたかのような加速を得た。
 ひゅん、と一条の矢と化した黒羽はヌイグルミの間を貫き、その先に居るもの……雛苺へ飛ぶ。

「きゃあっ!?」

 雛苺は咄嗟に周囲にあったヌイグルミを集めて壁を作り、その黒羽を防いだ。
 そのため、水銀燈への攻撃が一瞬緩むことになった。

 それが、決定的な隙。

「あはははは、捕まえたぁ!!」

 自らが矢のような速度で、雛苺に接近する水銀燈。
 間髪入れずに再び翼を展開すると、今度は黒羽の渦が巻き起こった。

「うあっ!?」

 雛苺の悲鳴と共に、渦がきゅうっと収束する。
 雛苺の腕を中心にして引き絞られた渦は、そのまま腕を拘束する縛めになった。

「は、離して……っ」

「おいたが過ぎたわね、お馬鹿さぁん。
 ……士郎、そっちも早くしなさい」

320 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/29(金) 23:19:55


「言われなくても!」

 そう、俺だってぼおっと水銀燈の勇姿を眺めていたわけじゃない。
 水銀燈に遅れて、俺もプレゼントボックスの頂に到達していた。
 氷室は……居た。
 より太くなった茨に身体を絡め取られて、ところどころ衣服が破れている箇所もあった。
 ……こんな時に甚だ不謹慎だとは思うけど。
 あまりきわどい部分が破れていなかったのは、俺にとっては幸いだった。

「と、とりあえず投影、開始《トレース、オン》っ!」

 不埒な考えを追い払い、適当な小刀を投影して、絡み付いている茨を断ち切っていく。
 足元から順番に、腰、腕、胴部と切っていくと……。

「おっ、と!」

 固定するものが無くなった氷室の身体が、ゆっくり力なく崩れ落ちた。
 慌ててその身体を支え持つ。

「う……ん」

 氷室の身体は予想以上に柔らかく、ほのかな香りが鼻をくすぐった。
 だが、その体温は異様に低く、呼吸も細い。
 よほど多くの力を使われたのだろう。

「氷室!
 しっかりしろ!」

「あ……え、みや?」

 弱々しく唸る姿が痛ましい。
 気休めに、制服の上着を脱いで、氷室に被せてやる。

「やぁっ……だめ、ダメぇっ!!」

 雛苺が悲痛な声を上げる。
 しかし、縛められたその腕は氷室に届くことは無い。

「これで御終い。
 チェックメイトよ、雛苺」

「イヤ、イヤイヤイヤぁッ!
 鐘、鐘ぇっ!!」

 必死に氷室の名前を呼ぶ。
 ……困った。
 なんとかして雛苺に落ち着いてもらわないと、どうにもならない。
 俺が事態の収拾に困っていると、おもむろに……


α:水銀燈が、雛苺の頬を平手で打った。
β:氷室が、震える手を雛苺へ差し伸べた。
γ:ざくり、と、嫌な音が響き渡った。

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最終更新:2006年09月30日 00:26