374 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/01(日) 13:42:01


 泣き叫ぶ雛苺。
 その声に反応したのか、俺の肩にもたれかかっていた氷室が、ゆっくりと顔を上げた。

「ひな、いちご……?」

 か細い呼びかけ。
 だが、その場において、その声を聞き逃した者は居なかった。
 暴れていた雛苺が、びくり、と動きを止める。

「か、ね?」

「どうした……何を泣いているんだ?」

 熱に浮かされたような、ぼんやりとした口調で雛苺に尋ねる。
 この場の雰囲気にそぐわない。
 いや……そぐわないと言うより、これは……状況を把握していない?

「まったく仕方ないな……雛苺は泣き虫だ」

 氷室がゆっくりと、左手を差し伸べる。
 薔薇の指輪が光る左手。
 しかし、その輝きはいまや弱々しい。
 …………っ!
 もしかして、意識が混濁しているのか!?
 なんてこった、まさかそこまで消耗しているとは!

「こうして会ったのも何かの縁だ。
 こんな女では不満かもしれないが、それでも……」

 氷室の指は、雛苺には届かない。
 当然だ。
 身体は俺が支えて立っているだけで精一杯だし、もう一歩も歩けるような力は残っていないだろう。
 それでも氷室は、懸命に腕を伸ばす。

「私は……お前を………………」

 続く台詞はなんだったのか。
 最後まで言い切る前に、氷室は力尽きたかのように、その意識を手放した。

「鐘っ!?」

「氷室!? 氷室っ!!」

 抱きかかえる俺、走り寄る雛苺。
 見れば、雛苺の腕に黒羽は既に無い。
 水銀燈……いつのまにか縛めを解いていたのか。

「……さぁて、どうするの、雛苺?
 これ以上やれば、確実に、そのミーディアム消えるわよ?」

 当の水銀燈は、俺たちから一歩引いたところから口を挟んでいる。
 動転しかけていた俺にとって、冷静な水銀燈の言葉は、むしろありがたかった。

「ひっ……!
 いや、消えちゃやだ、居なくなっちゃやだぁ……!」

 ぶんぶんと、必死に首を振る雛苺。
 氷室を救いたいのは俺も同じだ。
 雛苺よりはいくらか冷静なつもりだが、これといって名案があるわけでもない。
 どうすれば、どうすれば氷室を救えるんだ……!?
 焦りが脳を煮詰まらせかけていた、そのとき。

「ふん……なら、契約を破棄しなさい。
 今回はそれで許してあげる」

 救済の案を提示してくれたのは、やはりと言うか、水銀燈だった。

375 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/01(日) 13:44:29


 弾かれたように振り向いて、水銀燈を見る。

「契約を破棄するだって……?
 どういうことだ?」

「言葉の通りよぉ。
 ミーディアムの薔薇の指輪を外すには、それしかないわぁ」

 なんでも、ドールは自らの意思で、ミーディアムに付けられた薔薇の指輪を消滅させることが出来るらしい。
 しかし、一旦消滅させた指輪はもう元に戻すことは出来ない。
 二度とミーディアムと契約することは出来なくなるのだ。

「でも、雛苺はどうなるんだ?
 ドールはミーディアムから力を分け与えられて動くんだろう?」

「別に、ミーディアムが居ないからって動けなくなるわけじゃないわぁ。
 普通は発条を巻いた人間がミーディアムになるけれど、それとは別に新しいミーディアムが見つかる場合もあるしぃ」

 ただ、アリスゲームの資格は無くなるでしょうけど、と。
 水銀燈は最後にそう言って、雛苺を見つめた。

 雛苺と氷室の契約を破棄させる。
 氷室を助けるにはそれしかない、と水銀燈は言った。
 そのために失われるものは、契約と資格だと。

 これは、覚悟だ。
 その後、俺が言った台詞は――。


α:「契約を破棄してくれ、雛苺」
β:「俺が代わりにミーディアムになれないか?」
γ:「雛苺のミーディアムは氷室でなければダメだ」

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最終更新:2006年10月04日 05:29