499 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/04(水) 02:41:13
「契約を破棄してくれ、雛苺」
何か、他の方法があったかもしれない。
しかしその方法を模索するには、俺はあまりにも薔薇乙女《ローゼンメイデン》について……この『アリスゲーム』について知らないことが多すぎた。
故に、水銀燈の提示したその答えこそが唯一の方法。
俺は、雛苺を正面から見つめて、頭を下げた。
「頼む。
氷室を死なせたくはないんだ」
「…………」
涙目で、唇を噛み締める雛苺。
だが、雛苺とてわかっているのだろう。
氷室を助けるにはそれしかない、ということが。
やがて、雛苺はゆっくりと、意識の無い氷室の左手に顔を寄せた。
そして、その薬指に嵌められた指輪に、そっと口付けをした。
「ごめんね、鐘……」
光が弾ける。
氷室の薬指に咲いていた薔薇が、一枚ずつ解けるように散っていく。
全ての花弁が散り果てた後、その手には何も残ってはいなかった。
契約は、破棄されたのだ。
……すまない、雛苺。
「これで、貴女はアリスゲームに参加する資格を失ったわ」
水銀燈が、雛苺を見下ろしたまま宣言する。
「今回は士郎の言うことを聞いてあげたけど……。
貴女はこの水銀燈によって生かされているの。
その気になったらいつでも貴女のローザミスティカを奪える。
それを忘れずにいることねぇ」
そう念を押す水銀燈だが、その表情はどこか晴れない。
……やはり、水銀燈としてはこの結末には不満があるのだろう。
今回は納得してくれたが、まだドールを倒すことを止めたわけではなさそうだし。
落ち着いたら、水銀燈とゆっくり話し合おう。
ひそかに決意して、俺は氷室を抱きかかえた。
そのためにはまず、元の世界へ戻らなければ。
「なあ、ここから元の場所に戻るにはどうすればいいんだ?」
「nのフィールドは幾つもの扉で世界と繋がっているわぁ。
正しい扉を選びさえすれば、どんな場所にでも出ることが出来るはずよぉ」
「そうなのか?」
見ること聞くこと、全てが知らないことばかりだ。
そういえば、俺は薔薇乙女《ローゼンメイデン》……彼女たちについて、まだ何も知らない。
なぜ戦っているのか。
何を目指しているのか。
俺は、何一つ理解していないんじゃないだろうか。
このまま何も知らないままにしていたら、いつかとんでもなく痛い目に会いそうな気がする。
そう思ったので、俺はこう切り出した。
「なあ、水銀燈……帰ったら、色々なこと、教えてくれないか?」
500 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/04(水) 02:42:35
「……色々?」
「薔薇乙女《ローゼンメイデン》のこと。
ミーディアムのこと。
アリスゲームのこと。
nのフィールドのこと。
あと、さっきローザミスティカって言ってたよな?
それについても、全部教えて欲しい」
もし、それらのことがわかっていれば。
次は、もっと上手くやれるかもしれないから。
「なにもわからないままじゃ、やっぱりマズイだろ?」
「……ふぅん?」
水銀燈の目が細くなる。
あれ?
この目はどこかで見覚えがあるような。
「ようやくミーディアムの責務がわかってきたみたいねぇ。
……でも、その責務を忘れてどこぞの女と遊び惚けてたのはどこの誰だったかしらぁ?」
あ、わかった。
これ、最初に出会ったときの目つきとおんなじ、って……。
「あの、なんかブーツが頭に当たってるんですけど」
「当ててるのよぉ。
……あまつさえ、勝手にnのフィールドに巻き込まれて。
危うく死に掛けてたのはどこの誰だったかしらねぇ!?」
「痛い痛い痛い痛い熱いっ!?!?」
……結局、頭にストンピングの嵐を受けながらも、両手に抱えていた氷室を落とさなかった俺を誰か褒めてくれてもいいと思った。
そして、俺はこの後……。
α:氷室と雛苺を氷室のマンションに帰した。
β:氷室と雛苺を連れて衛宮の家に戻った。
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最終更新:2006年10月04日 05:30