441 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/10/02(月) 17:38:39

「彼女はSとMどっちだろう?」
言峰士郎0-6「ブロークン・ファンタズム・ファースト」


――ああ、糞。
この光景をどのように表現したら良い物か、俺にはわからない。
生憎と詩的な表現とは無縁の世界に過ごしていたものだから。

俺の目の前へと舞い降りたのは黒衣の男と、紫髪の女。
月下、神話の時代から抜け落ちたような闘いの舞踏を繰り広げる彼ら。
だけれども、俺の目を奪ったのは二人ではなかった。ましてや、橋下にちらりと見えた友人らしき影でもない。

彼女を、何と言い表せば良いのだろうか。俺にはわからない。
――其処には彼女がいたんだ。
仄かな月光に照らされて、煌く白い髪を靡かせて、金色の眼はじっと俺を見据えていた。
黒と灰で彩られた装束は……傍目にもわかる、欲をかきたてる為のものだったけれど。
昼間、少女が商店街の雑踏で見せた、あの口の悪さを思えば、とてもそんな風な印象はもてなかったけれど。
そう、その幻想を、あえて表現するのならば、こうだ。

――彼女は、可憐だった。

そうとしか思えなかった。
俺は、知らず知らず、薄い金の瞳を、魅入られたかのように見つめた。
彼女が――名前も知らない少女が、それをどう思ったのかはわからない。
ただ、彼女は此方を見返してくれた。……それで、十分だと、そう思った。

「発情してないで、さっさと動きなさい。さもないと公共の場を脳漿で汚してしまいますよ?」

……だから、彼女の言葉を――何故この場まで届いたのだろう?
 俺は、そんな事を考える余裕も無かったのだ――聞くまで、迫り来る危機に気付かなかったのは。
別段、叱責されるようなことじゃあない筈だ。

「え?」

「仕方ないですね……暗殺者、仕事の時間よ」

「う、うおわぁっ!!??」

瞬間、俺は宙を舞っていた。
風に煽られた黒い外套が、俺の視界を埋め尽くす。
数cm。そいつが生と死の境目だ。
暗殺者――黒衣の、この髑髏の男のことらしい――が、俺を道ずれに跳躍してくれなかったら。
髪の毛数本を道ずれに空間を通り過ぎた鎖は、今は紫色の女の手の中へと納まっている。

音も立てずに男は着地し、俺も放り出された。
……なんて跳躍力だ、と今更ながらに驚いてみせる。
だってほら、ここはもう、橋の下。

……あの橋から飛び降りて生きてられるなんて、稀有な経験をしたもんだ。

生死の距離は十メートル程度にまで伸びたが、安心できない。

だってほら……アレは死ぬぜ?
当れば死ぬ。確実に死ぬ。
単純なお話。
脳味噌吹き飛んで生きてられる人間なんていないわけで。
多分、あの蜘蛛みたいな女にとっちゃあ、この程度の距離なんざ無いも同然。
まいったね、こりゃあ……。

「おい、ライダーッ! どうした!? 目撃者がいたんだろう、さっさと殺しちゃえよ……ッ!!
 あ、いや……先にアサシンを――いや、あの女を殺せ……ッ!」

「……………」

じゃらりと音を立てて鎖を構える女。
あの糞ワカメ、夜目が利かないもんだから俺だってぇ理解できてないらしい。
いや、理解してるのか? まあ、どっちにしろ結果は変わるまい。
彼女が、鎖を鳴らして此方へと飛び込んでくるのが見えた。
なるべく穏便な方向で、あの命令を解釈したと願っておくくらいか、俺にできることは。

「……人様に迷惑をかけてまで生きているなんて、とんでもない恥晒しね。
 やはり、さっき見捨てて、その頭の中を確かめておくべきだったでしょうか?」

「いや、んな事を言ってる場合ではなくて……ッ!!」

ど畜生! この状況……どーするよ、俺……ッ!

――ジャッジメンッタイムッ!

「聖杯から参りました」:素性を明らかにし、この場を納めるか。
「吸血鬼ハンター(見習い)K」:よっしゃあ、ガチンコ勝負でどうよ、お姉さん!
「教会グルメ」:……彼女を連れて教会帰って飯食おうぜ、飯。

デッドエンドあり チューイせよ

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最終更新:2006年10月04日 02:33