538 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/05(木) 01:07:05


 ほの温かい光の中を通り過ぎると、そこはいつもの土蔵の中だった。

「……本当に帰ってこられた」

「なに? 私の言うことを信じてなかったわけぇ?」

「いや、断じてそういうわけじゃないけども」

 水銀燈ににらまれて慌てて言い繕う。
 それでも、いま自分が出てきた場所が姿見の鏡である、という事実に、改めて驚きを感じてしまう。

 氷室を一人にするのは心許ない。
 そう考えた俺たちは、一旦氷室の家に寄ってから、再びnのフィールド経由で俺の家までやってきた。
 一度氷室の家に寄ったのは、俺の靴や雛苺のトランクケース――ドールはこの中で寝なければならないものらしい――を回収しなければならなかったからだ。

「うゆ……鐘、大丈夫……?」

 雛苺が心配そうに、俺に抱きかかえられている氷室を見上げている。
 きっと、たとえ契約が無くなっても、この二人の関係にはさしたる影響は無い。
 アリスゲームを抜きにして考えれば、結果的にこれでよかったのかもしれない。
 ……もっとも、アリスゲームの価値がわからない俺が言っていい事じゃないか。

「ああ……とりあえず、氷室を寝かせないといけないよな。
 ひとまず俺の部屋に連れて行くか……」

 雛苺にそう言って安心させて、開いていた土蔵の扉をくぐると……。


 なんか、庭にいた藤ねえがこっち見てる。


 空を見れば、夕日が半ば以上沈みかけている頃合。
 そうか、色々あったから時間の感覚がすっかり狂ってたけど、もう夕方過ぎだったのか。
 それじゃあ藤ねえが家にいても不思議じゃないよな、うん。
 こういう事態を想定していなかった俺のミスだ。

「し……」

 土蔵から出てきた俺を見て、わなわなと震えている藤ねえ。

 そりゃあ、ぐったりした人を抱えて土蔵から出てきたら誰だってビックリする。
 うん、俺だって驚くよ、実際。
 だが、これは断じておかしなことをしていたわけではないのですヨ!?
 長い付き合いだしわかってくれるよな藤ねえ!?
 頼むから、頼むから変な誤解だけは……っ!

「士郎が氷室さんを暗闇に連れ込んで妖精さんと会話してるー!!」

 あああああ。
 パーフェクトだ。
 どこをどうつついたって黄色い救急車しか出てこないほどパーフェクトな表現だよ畜生!
 そして、絶叫の余韻が消えるより早く近づいてくる足音足音足音。ってお前らこういうときに限ってレスポンス早ぇなぁもう!

「大河、シロウに何かあったのですか!?」

「士郎、アンタまさか変なチャンネル開いちゃったわけ!?」

「先輩、氷室さんを連れ込んだってどういうことですか!?」

「桜、落ち着いて、まずは大河をなんとかしなければ」

「シロウー? もー、また変なもの連れ込んだんでしょー?」

 ……はっはっは。
 騒々しいぞお前ら、ご近所の人々に迷惑だろう。
 それぞれの部屋からものすごい勢いで駆けつけてくる面々を見ながら、俺は再びnのフィールドに逃げ込みたい気持ちで一杯だった。


 そして。
 この後開催された『第66回衛宮家家族会議』は深夜まで続き、検事弁護士裁判官総出で被告を糾弾するという異例の事態を巻き起こしたのである。


銀剣物語 第三話 了』

539 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/05(木) 01:13:09

さーて、来週の銀剣物語はー?




(衛宮家家族会議中につきメッセージはありません)




ぐー :「オトコはつらいよ」
ちょき:「弓をかける少女」
ぱー :「ですぅノート」

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2006年10月05日 12:14