782 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/10(火) 23:49:22
『夜分遅くに申し訳ありません。
私は、く、く、葛木メディアと申しますがっ』
「って、キャスター!?」
驚いた。
電話から聞こえてきた声は、今日の昼間に偶然会ったキャスターのものだった。
キャスターが電話をかけてきたことも驚きだけど、キャスターが葛木先生以外にこんな丁寧な言葉遣いをしてるのも驚きだ。
あと、名乗るくらいでどもるな。
『あら、なんだ、坊やだったの。
わざわざ畏まって損したわ』
が、すぐさま掌を返すように口調を変えるキャスター。
……酷い言われようだ。
「な、なんでアンタがウチの電話を……?」
『あら、念話を無理やり繋いだほうが良かったかしら?』
「いや、それは勘弁」
この魔女ならば本気で俺を電波受信可能な身体にしかねない。
「でも実際、どうやって俺の家の電話番号を調べたんだ?
教えてないよな、俺」
『そんなもの、一成君に聞いたらすぐに教えてくれたわよ』
あ、なるほど。
そういえばキャスターは一成と同じ場所に住んでいるんだった。
「あれ、でもキャスターと一成って……」
微妙に仲が悪いと言うか、よそよそしかったような気がするんだが。
『確かに、一成君には不審そうな目でみられたけど。
でも、どうしても坊やに確かめたいことがあったのよ』
……はて。
そうまでしてキャスターが俺に電話をしてくる用件とは、一体……?
『……単刀直入に聞くわ。
坊や、また面倒なことに首を突っ込んでいるでしょう?』
「なっ!?」
まさに直球。
キャスターは、今俺が直面している問題をズバリ指摘してきたのだった。
「な、なんで……」
なんでわかったんだ、と。
最後まで言い切る前に、キャスターが言葉を重ねた。
『昼間は連れ合いの子が居たから言い出せなかったけれど……。
坊やの左の薬指から流れ出ていた、契約の魔力。
私が見逃すとでも思っていて?』
俺を嘲るようなキャスターの声。
……流石神代の魔女。
俺如きには見えもしなかったものをあっさりと看破していたのか。
『一緒に居た……氷室さんだったかしら?
あの子からも同じような魔力を感じたけれど……』
「氷室はもう……契約を、破棄した」
一瞬の沈黙をおいて、声が少し低くなる。
『……そう。
賢明な判断だったかもしれないわね。
坊や一人じゃ契約をどうこうするなんて、どだい無理な話だったでしょうし』
褒めてるのか貶してるのかどっちだ、それ。
しかし、今の口ぶりからすると……もしかして、あの時キャスターの所に駆け込んでいたら、氷室は別な形で助かっていたのだろうか。
今となっては意味の無い、イフの話ではあるが。
『とにかく。
そういうことなら、坊や一人ででもいいから、近いうちに柳洞寺にいらっしゃい。
詳しい話はそのときにしてあげるから』
「ああ、わかった……でも、どうしてそこまでしてくれるんだ?」
『……別に、バイト料のようなものよ。
借りと言うほどのものでもないけれど、それでも清算しないと気分が悪いわ。
それだけよ』
ふん、と鼻を鳴らしながら、そっけない答えを返すキャスター。
しかしまあ、納得のいく理由ではあった。
783 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/10(火) 23:50:51
「そっか。
ありがとうなキャスター。
明日の放課後にでも寄らせて貰うよ」
感謝の言葉を告げて、受話器を置く。
……明日は学校終わったら、柳洞寺に直行か。
さて。
思ったよりも長電話になってしまった。
振り返ってみてみると、どうやらもうあらかたの話は終わってしまったところのようだ。
「ふむふむ、つまり雛苺ちゃんたちは、そのローゼンさんに作られた、自分で動くお人形さんなわけね?」
「そうよ、雛苺は薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第六ドールなの!」
「ほほう、なんとも不思議なこともあるものよのぅ……」
手を上げて答える雛苺に、藤ねえが頷いている。
「こんなに人間らしく動くなんて……」
「ええ、驚きです」
「全く、世界は広いわよねー」
他の三人も、程度の差はあれど目の前で動く人形を見て感嘆しているようだ。
もっとも桜はともかく、ライダーや遠坂はどこまでが本気かわからないが。
「さて、大体はわかったわ。
聞きたいことはあらかた尋ねちゃったし。
……今は、ね」
言葉尻に含みを持たせる遠坂。
あの様子では、薔薇乙女《ローゼンメイデン》に危険な側面があることも、恐らく勘付いているんだろう。
だが、やはり藤ねえの手前、危険に関わりそうな部分は尋ね難いようだ。
「それで、どうしましょうか藤村先生?
を、この家で預かっていいんでしょうか、この二体……いや、二人かしら?」
遠坂も、水銀燈と雛苺があまりに人間らしく動くため『二体』とは言い難いらしい。
話を振られた藤ねえは、うーん、と唸った。
「水銀燈ちゃんに関しては、士郎が保護者……みたいなもの、なのよね?
で、雛苺ちゃんは氷室さんのところにいたけど、負担になるから士郎が預かる、と」
しばらく考え込んでいた藤ねえだが、唐突に顔を上げると大きく頷いて言った。
「うん、いいでしょう!
この家で暮らすことを許可します。
ただし、この場に居る人以外には、このことは他言無用よ!」
「……いいのか、藤ねえ?」
いや、俺としては願ったりなのだが、こうもあっさり許可を出されるとは。
「いーのいーの!
生身の女の子ならともかく、お人形さんなら士郎も問題ないでしょう!
もちろん、お人形相手に問題が起こった場合は悪・即・斬だけど」
「それはない」
俺の信用は今日一晩でがた落ちだった。
「あと、氷室さんのことに関しては雛苺ちゃんの嘆願もあったから保留!
以上、解散!」
かくして。
藤ねえのつるの一声で、衛宮家家族会議は解散となった。
結果的に、思いがけず藤ねえにまで薔薇乙女《ローゼンメイデン》が容認されてしまったが……いいのか?
そしてその晩、俺は――。
α:他の面子と共に、遠坂の部屋に呼び出された。
β:セイバーと交代で、氷室の容態を見ていた。
γ:……不思議なウサギの夢を見た。
δ:何事も無く眠りに付いた。(――Interlude side ■■■)
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最終更新:2006年10月11日 05:07